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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
12章 流れ星の光 ‐‐怪物たちの蟲毒‐‐
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次への鍵 10

 装甲車は地下を抜けだし蔦の伸びる地上へと帰ってきた。

 地下へのトンネルから離れどの装甲車もすべての扉を開け泥の異臭で充満した空気を入れ替える。


「帰ってきた。まだ夜、日は登っていない」

「早くシェルターに帰ってお風呂入りたい。ユユキも来るでしょ? 広い温泉があるの貸し切ってお姉さまのお話でもしましょう」


「しかし、地下に入る前と帰ってきたときの二回休憩をとるはず。それに夜だし生体兵器は夜行性が多い、それに地下には暗闇でも動けるものもいた朝を待つべき」

「わかってる、気持ちの問題。焦って急いで失敗する、結果を残せなければ犠牲を出した意味もない。信頼も信用も失ってしまえば人としての価値が下がる」


 泥のついた上着を脱いで車内の突起にかけるユユキ、シャツのボタンを開けスカートに入れていたシャツの裾を出して空気を送り込む。

 大した成長のない胸とはいえ女性であるキサキが肌を大きく露出させれば一般兵たちの注目を集める。


「キサキ、そういうのははしたないと思うけど」

「私は気にしないわ」


「その制服は強化繊維じゃないの? 通気性も速乾性もあると思うのだけど」

「通気性良くても蒸れるものは蒸れるもん、そんな第一ボタンまでかっちり閉めてユユキは暑くないの?」


「十分涼しい。キッサが暑がりなのでは?」

「キッサ? 私のあだ名? じゃ、ユユキはユッキーね、いいわねあだ名。仲良くなった気がする」


 あだ名をつけられご機嫌になり勢いでユユキに抱き着くキサキ。

 窓の外を見て鬱陶しそうにしながらもキサキを放って置いたが、彼女が泥まみれなのを思い出し思い切り押しのけた。


「そね、お姉さまの命令で動いているから部下意外と普段会話しないし」

「私たち同士も普段全く合わないし、ユユキ……ユッキーを今日お姉さまに頼んで連れてきてよかった。今度から何でもない用事でも呼び出すから」


「やめて、私だって忙しんだから用がないときは呼び出さないで」

「いいじゃん。私とユッキーの仲じゃない」


「急に親しげにしすぎ、汚いから離れて。泥がこっちにもつく、メガネがずれる」

「恥ずかしがるなよぉ、ユッキー! お前も汚れろ」


 二人がふざけあっていると突然装甲車は停車する。


「休憩は来る途中に見つけた広場だったと思うけど?」


 お互いの額をぶつけ頭をさすっていると運転席から報告が上がって、ふざけていた二人も真面目モードに切り替わり席を立って運転席へと向かう。


「正面に装甲車!」


 運転手が指さす方向を二人は見る。

 暗く遠くてよく見えないが向かってくるのはへっとライトをつけた車両で間違いはなかった。


「こんなところに人? そんな馬鹿な、生体兵器がうようよいるというのに? どこかの精鋭か?」

「そうは見えない。車両がボロだ。こっちに向かってきてる。積み荷を狙っているのかも、前にお姉さまに聞いたは我々の邪魔をしようとする連中がいると聞いたことがある。精鋭たちの装甲車を前に」


 眼鏡をかけなおしユユキは助手席でうつむく赤毛の女性をちらりと目を向ける。

 彼女はよく観察しないとわからない程度に頬を少しだけ緩めていてユユキに見られたことがばれると顔をより深くうつむかせた。


 ――今、少し笑った? ように見えた、だとしたら何かある。仲間? お姉さまの報告にあった私たちを同じ年頃の子供たち。法のない無秩序で育った危険な存在、お姉さまに刃物を向けた危険な存在。


 接近しよりはっきりとキサキの見つめる先には蔦を絡めながらまっすぐこちらへと向かってくる軽装甲車の姿が見える。


「皆、誰か来ます。対人の武装を!」


 キサキが後ろにいる一般兵たちに号令をかけた。

 一般兵たちが対人武装をしていると前方の装甲車が大きな音のクラクションを鳴らす。


「こんなところでそんな音なんかがしたら」

「急いで精鋭に周囲の警戒を!」


 ユユキたちが慌てる中、その周囲では精鋭たちがユユキたちの乗る装甲車を守るように距離を取って囲みエクエリを持ち出し車外に顔を出す。

 突っ込んできた軽装甲車の眩しいばかりのヘッドライトが運転席を照らしてユユキたちの視界を奪う。


 ――私たちを、いや彼女が乗っている車両を特定するために生体兵器を集めたか、そして混乱している中人質を奪還して逃げ帰る。別にもう必要ないから逃がしてもいい、キサキが向きになってるから冷静にさせないと。


 前方からまっすぐ速度を緩めることなく破損し軋みながら走ってくる軽装甲車。

 背後に何匹かの生体兵器を引き連れており、すれ違いとともに生体兵器たちを押し付けボロの軽装甲車は走り去る。


「こんなところに人がいるだなんて、ここは人が住めるような場所じゃない、私たちの後をついてきたのか。くっそ、はよ戻りたいのに次から次へと厄介な」

「キッサ、たぶんお姉さまの報告にあった赤毛の人の子分だ。武器を持ってる」


 通り過ぎていく軽装甲車を窓越しに追い騒ぐキサキ。

 呆気にとられている間ユユキが迫ってくる生体兵器から目を付けられないように隠れ姿勢を低くする。


 ――あの装甲車どうしてこんな場所に、そしてなぜ生体兵器を連れてきて私たちに押し付けてきた。なにがしたい? 人質二人を取り返しに来たんじゃないのか? 生体兵器を連れてきたら命を落とす危険があるのに。


 軽装甲車はそのまま建物にぶつかり爆発を起こし衝突した建物が崩れ、炎もろともがれきの下敷きになり再び暗闇に包まれた。


「運転ミスって事故ってるし、何がしたかったんだあの車は? それより生体兵器の処理がさきか、精鋭を前に」


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