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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
12章 流れ星の光 ‐‐怪物たちの蟲毒‐‐
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次への鍵 9

 

 振り返れば強化外骨格をつけた一般兵たちが8人がかりで棺のような鉄の塊を運び上げ階段のほうへと向かって歩いていく。


「あれが人工知能、思ったより小さい?」

「そう、これでこんな場所から帰れる。ちなみにあれのほかに後14つある、全部で15.荷物でこの装甲車はいっぱいになるから、帰りは一般兵が私たちの乗ってきた装甲車にぎっちりよ」


「これは都市戦艦に使われてるものと同じものなの?」

「全然、これはあれとは比べ物にならないくらいしょぼいもの。今あれと同じものを作れる技術は王都にもないわ。海上に浮かぶ都市戦艦は過去の技術で作られた物、あの時の最先端技術はすべて国が崩壊したときに消えた。データだろうが紙媒体だろうが瓦礫の下で朽ちているわ」


 15個の人工知能を装甲車に乗せすぐに撤収準備にかかる一般兵たち。

 ユユキたちは一足先に装甲車へと戻ってきて階段の上から作業を眺めていた。

 投光器に光が消え空間に暗闇が戻る。


「さぁ、あれを片付けたら撤収ね」

「私たちも外に出て装甲車にでも乗って待ちましょう」


 そんな彼らのもとに上から大きなものが落ちてきて大きな部屋が揺れた。

 遅れて上の階の扉が降ってきて天井でも落ちてきたのかと、皆作業を止めて落ちてきた塊にエクエリにつけたライトの光を向ける。



 ライトに照らされたのは鱗に覆われた大きな頭、その目は退化し小さくなっていた。

 その頭を見た瞬間誰もが爬虫類型の生体兵器だと思ったが、その生体兵器の長い体には鰓があり鰭があり尾鰭もある。


「さかな?」


 ユユキが身を乗り出し眼鏡を上げるとその姿を凝視する。

 鱗に覆われた頭、地面についた真下を向いた口、頭と違い鱗のない体からはどろどろとした粘液を出し床の泥をかき分けるとように泳ぐ。


「魚型の生体兵器!」


 一般兵たちはエクエリを構えて攻撃を加えるも生体兵器はひるむ様子はない。

 8メートルの巨体は近にいた一般兵へと向かって泳いでいき、勢いをつけた体当たりで一般兵を泥のたまった地面に突き飛ばすと、泥ごと倒れた一般兵を吸い込んで捕食した。

 間髪入れず次の獲物へ向かって生体兵器は突進を繰り出す。

 強化外骨格で生体兵器の突進を受け止めようとしたが、泥で踏ん張りがきかず床を滑りそのまま壁と勢いのついた生体兵器に挟まれ強化外骨格は無残に破損し軋む音を立てて変形する。


「ちょっと何あれ! ユユキ!」

「見ての通り生体兵器!」


 勢いが付いたままの状態で床を這うように泳ぎ回り、その速度はほとんど落ちることなく進行方向を自由に変えられる生体兵器。

 素早い動きに泥に足を取られ移動もままならない広い空間にいた一般兵をたった一匹で蹂躙していき、一つまた一つとライトが泥に埋まり生体兵器を照らす明かりが消えていく。


「撤収! この車を外へ出して、生体兵器が現れた離脱よ!」


 キサキが装甲車の運転席に向かって叫ぶと、側面を壁にぶつけ擦り付けながら装甲車は通路を走りだす。

 通路の途中にある階段で生体兵器が上がってこないか警戒して待っていた精鋭たちも装甲車が通り過ぎて行ったあとで追いかけるように撤収を開始し生体兵器に襲われなかった一般兵とともに建物を出る。

 追いついてきた朝顔隊が装甲車に乗っているキサキに話しかけた。


「そんな慌てて、何があった?」

「生体兵器が出てきた。が、すでに目的の物は回収したこれ以上被害が出ないように撤収する。あなたたちも装甲車に戻って撤退準備を、ここにもう用はない」


「生体兵器だったら戦うけど?」

「いや、戦うだけ無駄。あれがどこから来たかわからない、数がわからない見たのは一匹だが、この泥の原因があの生体兵器の粘液ならば、地下一帯を泥まみれにするだけの数はいる。まだ増えるかもしれない」


 ユユキとキサキは人工知能を乗せた装甲車を降り、自分たちが乗ってきた装甲車へと走る。

 先に建物から出てきていたにもかかわらず酸素ボンベを背負っているキサキが一般兵より後に装甲車に乗り込んだ。


「先に建物から出てきてなんで一番最後? キサキ、そんな動きづらい格好しているから」

「装甲車に乗らず普通に走って逃げてたら私死んでたね。ほら手かして」


 手を差し出し引っ張り上げてもらおうと手を伸ばすキサキ。

 ユユキはしぶしぶ彼女の腕をつかんでほかの一般兵の手を借り装甲車へと引き込む。


「自力で上がれないのか、いよいよをもって荷物なんじゃないのあんた。ところで助手席に座らせたままのあの人どうする? 赤毛の、後ろの席に行ってもらう?」

「邪魔ならも一人と一緒に捨ててってもいいけど」


「せめて、ここの案内を協力してくれたんだから廃シェルターには返してあげようよ」

「どうでもいいはよ帰ろ、精鋭を先頭を進ませ出発」


 後部の扉を閉める前に周囲を確認し逃げ遅れがいないか探す。


「一般兵はこれだけ? なんか半数未満になってる気がするけど」

「強化外骨格つけてるのは逃げきれなかったんでしょ。生体兵器が建物から出てくる前にここを離れよ」


 誰も建物から出てこないと判断し装甲車の扉を閉めた。

 建物前の広場で装甲車はUターンをし、来た時と同じように二列に並んできた道を引き返す。

 来た時の泥に残った轍をたどって帰るだけなので案内は必要ない、泥の上には生体兵器の足跡らしきものか車両の通った後しかないため見失うことも見間違うこともない。


 車列がターンを終え車列を組みなおし建物を離れていくと、キサキ達の後を追って先ほど大暴れしていた魚型の生体兵器が建物から出てきた。

 生体兵が追ってくるため車列の最後尾を守る精鋭たちが魚と戦闘を開始しその姿がライトで照らされる。

 戦闘中の二台の車両の間から見える生体兵器の姿を、手にしたタブレットに映る車載カメラの映像で確認するユユキ。


「さっきよりおなか膨れてる」

「食べたぶん太って通路に突っかかってたからすぐには追ってこなかったのかも。なんであれ逃げるチャンス、動きはのろいぞ」


 防護服を脱ぎ身軽になったキサキが座席に座り体を伸ばす横で、ユユキはタブレットに映った生体兵器の写真を撮る。

 戦っていた装甲車が跳ね上がって、泥の上をスリップしユユキたちの乗る装甲車に激突した。


「きゃふ! え、なん、なんだ!?」


 衝突した方の装甲車は軽くへこんだだけで大破はしていない。

 しかしこのまま逃げながら戦うのは危険と判断し、すぐに横を走る仲間と協力し速度を下げ車列を離れて生体兵器の討伐を優先する。


 ――重量が増えた分体当たりの威力が上がった、さすがに押しつぶすほどの威力はないけど横転ぐらいはさせられそう。


 軽い運動していたキサキが衝突の揺れで座席から滑り落ち床に着いた泥の足跡に転ぶと同時に、異臭放つ泥を水色の制服にべったりをつけたキサキは泣きそうな声を上げた。


「ああ、制服が! どうすんの、あああああああ! シェルターにしか着替えないのに!!」

「移動中なのに座ってシートベルトちゃんとつけてないから」


 泥を這う通常とは動きの違う生体兵器に手こずるかと思われた魚型の生体兵器との戦いは、装甲車で取り囲み助走をつける広さを奪い、囲んだ装甲車の屋根からの精鋭複数隊の的確な射撃で傷口を広げられあっさりと排除される。


「やっぱ精鋭いっぱい連れてきて正解だった」


 ユユキが持っているタブレットを覗き込んでいたキサキが満足そうにつぶやく。

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