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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
2章 迫る怪物と挑み守るもの ‐‐私情の多い戦場‐‐
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防壁の内側、4

 蒼薔薇隊の借りている部屋。

 寝室は男女に分かれて寝られる二部屋、広く大きなキッチンと同じ部屋にリビングがある。


 帰ってくるとトヨとライカがシャワーを浴びに行き、リビングにはくつろぐトガネとタブレットを操作するトキハルの二人がいた。


「しかし暑いね、ちゃんとした装備で戦闘に出たら汗だくだよね」

「そうだな」


「とよっちも大変そうだね」

「なにがだ?」


「胸が大きいと谷間におっぱいの下に汗がたまっちゃって、蒸れてそうって話。女の人はね大きいのは大変なんだよー、特にとよっちみたいな大きな……」

「やめろ、もういい」


 シャワー後トヨは夕食の下準備をしていて食材が足りないといって一人で買い出しにいく。

 しばらくしてトガネも私服に着替えるとどこかに行ってしまった。


 今リビングに居るの資料に目を通しているトキハルと、夕食の準備で今はいないトヨの手伝いで食器を机に並べているライカの二人。

 蒼薔薇隊にはこの場にいないトヨとトガネのほかに、もう一人いるのだがどこかへ行ったっきり帰ってこない。


 そのリビングにいる二人が無意味にピリピリした空気を作っていた。

 ライカとトキハル、別にお互い仲が悪いわけではない。


 切れ目で近寄りがたい空気を放つトキハルは普段の表情がムスッとしているだけ。

 同じくライカもただそれだけ、トヨのように周りに気を使い無理に笑う気は全くなく常に素の表情でいるだけだ。


「サジョウ隊長、今後の予定ですが」

「なんだ」


 三角巾代わりにパーカーのフードをかぶって食器を並べていたライカが話しかけると、仕事用のタブレットを操作しながらトキハルが答える。


 そして皿を並べ終えたライカはトヨが返ってくるまで時間ができたのでトキハルの横に座った。

 普段トヨの定位置だが誰がどこと固定席ではないので、ライカは気を使う必要はなく座る。

 いつもと違う角度からトキハルを見るライカはすこし落ち着きがなかった。


 ライカは興味本位でトキハルが捜査しているタブレットを覗き込むと、次の戦闘時に使う戦闘物資、支給品の注文をしている。


「夕食後話すが、このシェルターから移動だ。明日はここから離れた廃墟へ向かう」

「了解しました、詳しい話はまた後でですね」


「ああ」

「明日の相手は強いんですか?」


 彼は同じ話を何度もするのが嫌いなのか、一人一人の相手をするのが嫌いなのか仕事の話は作戦会議の時しか基本的にはしない。


「なんであれ倒すだけだ、なんでも侮って戦えば怪我をする」

「そうですね、わかりました」


 やるべきことが終わったのかひと段落ついたのかトキハルはタブレットから視線を逸らす。


「しかし、遅いな」

「なんです、トヨちゃんが心配ですか? まぁ確かに、そろそろ誰か帰ってきてもいい頃合いですものね」


 タブレットを机の端に置きライカを見る。


「何です、シャツでも透けてますか?」


 ライカの冗談、現在の彼女の服装はスウェットの上にパーカーなのでもちろんそんなことはない。

 たぶんこの冗談も軽く流されるだろうとライカは思っていた。


「いや、シジマ……お前の私服派手だな」


 しげしげとライカの服、淡い橙色、パステルカラーの黄緑、蛍光色の黄色の組み合わさった迷彩柄のパーカーを見る。

 ライカは思わず目を反らした。


「綺麗じゃありません?」

「目が疲れる」


 そういってトキハルはタブレットを操作し始めた。

 ライカの服にそれほど興味はないよう。

 自分の好きな分野の話を簡単に終わらせてしまうのでライカはむきになって話を続ける。


「これでもここで買った服の中では地味な方ですよ? もっとやばいやつ持ってますから、鮮やかな赤とかオレンジとか黄色とかの燃えるような暖色のロングコート、今日は暑くてとてもきれなかったけど早く来たいなぁ」

「そうか」


 しかしまた簡単に返される。

 二度簡単に返されライカはもう話すことがなく無言の時間が過ぎていく。


「そういえば、トヨが髪飾り買っていたな」


 トキハルは思い出したかのようにライカに話しかけた。

 級に出てきたトヨの話にライカは若干嫉妬しつつも返事をする。


「ええ、もらいましたよ。貰っておいて言うのは悪いですけどセンスないですよねこれ」


 ライカは被ったパーカーをとると髪留めを見せる。

 鈍色の金属の縁にとられた青いガラスが電光を反射していて凝ったデザインに細工も細かい緑と青が隣り合っていることもありあまり違和感はなかった。

 しかしそれは単体としての話でライカの服と合っていない。


「お前の服が変なんだろう」

「いいえ違います、トヨちゃんのセンスがゼロってるのです」


 ライカは自分のセンスが否定された気がしたので勢い余っていってしまった。

 玄関の方から袋の擦れる音と足音が聞こえ、リビングの扉が開きトヨが帰ってきた。


 手にしたビニール袋は小さく、中にいつか二つくらいしか物が入っていない。

 普通なのだろうがトガネやライカの場合は余計なものまで買ってくるので、小さい袋が珍しくつい目で追った。


「ただいま、帰りました。私の名前こっちまで聞こえてましたけど、何を話されてたんですか?」

「トヨちゃんのセンスの無さ」


 ライカは頭についている髪留めを見せた。


「えっ……」


 一瞬悲しそうな顔をするがすぐにいつもの作り笑顔に戻るトヨ。

 いつもなら気が付かない程度の表情変化が今の瞬間だけ表情が変わる。

 トガネと話すような感じで話してしまい、言葉のナイフが思いのほか深く刺さったことにライカは慌てた。


「嘘だよ、本気にした? 今の顔ウケる。ごめんね」

「えへへ、ちょっとびっくりしました。あ、そうだ。買い物の途中でトージ見つけてきましたよ」


 そういうと彼女は玄関の方を振り返った。


「おう、ただいま」


 トヨに続いて部屋に入ってきた大柄の男性。

 肩までかかる長い髪を全て後ろで束ね頬から耳まで横に伸びる二本の引っ掻き傷のある、がっしりとした体の男、ハシラ・トウジはトヨとは別の買い物袋を持って入って来た。

 買い物袋をテーブルに置くトウジにトキハルが尋ねる。


「今までどこいっていた?」

「想像に任せる」


「迷子か」

「道に迷った」


 トヨは台所へと向かい、ショックを受けた彼女のもとに謝りに向かうライカ。

 頭の後ろの方が痒いらしく束ねた髪を掻きながら視線をそらし申し訳なさそうな顔をするトウジ。


「さて、じゃあ私はご飯作っちゃいますね」

「ん、私も手伝うよトヨちゃん。ほんとごめんね」


 ライカはトヨと一緒に台所へと向かった。

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