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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
12章 流れ星の光 ‐‐怪物たちの蟲毒‐‐
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次への鍵 2

 

 その手を振りほどいてユユキは答える。


「わかってる。私にかまわないで吐く」

「あんたは。この仕事が終わったらずっと箱庭に引きこもっていればいいの。ほら今日中にとっ捕まえて明日中にはヒバチに向かうよ」


 ユユキは顔をうつむかせたままキサキの話に眉をひそめる。


「ならなんで連れてきたんだ。でも、姉さまの命令には従わないと……会いたいなぁ姉さま。なんで私にはあってくれないんだろう」

「嫌われているのよ、仕事をまともにせず生体兵器の観察なんかしているから」


「それが私の仕事なんだけど。生体兵器の生態調査」


 ユユキは顔を上げて目の前のビル群を見た。

 壁面はひび割れ窓はほとんどが割れ落ちビルのいくつかは傾いている。

 連れてきた一般兵は40名ほど、そのほとんどは人探しのため廃墟の町へと入っていく。


「土っぽいにおい、家具が腐ってかび臭い。町の機能性もなくてゴミみたいな町。本当に汚いところ、こんなところに人が住んでいるだなんて考えられない」

「でもお姉さまも何年か前にこのシェルターに来たらしいし、そこで知り合った女を今探しているんじゃない。このシェルターのどこかにいるのは間違いないの」


 光や熱、匂いに嫌悪し髪をいじりだすユユキ。

 カガリに会えないこと、キサキに連れられ部屋を連れ出されこんな場所に来たこと複数の意味で腹立てていた。


「これなんで立ち往生しているの」

「この先、ビル群、老朽化して建物がいつ倒壊してもおかしくないんだってさ。はよ、私も目的の女とっ捕まえてヒバチへ行きたいのに」


「どこに居んのその女は」

「このシェルターのどこか、今連れてきた一般兵が探しているし。こないだシェルターに金属売りに来た時に尾行をつけて、ドローンで追っかけて大まかな住処までは特定しているから。じきに見つかるとは思うけど、今その住処にいるかどうかは知らん」


 連れてきた精鋭はすべて王都に所属する二人のための護衛で彼らの仕事は生体兵器と戦うこと。

 彼らは捜索には参加せず少し離れたところにいる。


 彼女たちと同じく王都から連れてきた一般兵たちが目標を探し廃墟内を探索しているので、彼女たち二人はこの場で待ち続け報告を待ち続けるだけ。


「役立たず。人手が足りないなら精鋭にも探させればいいのに、特定危険種もいないのに精鋭6隊もいらないでしょう」

「お姉さまの情報です、文句を言うならお姉さまにいってくださーい。それに精鋭はむーりー、今回の作戦のこと半分も伝えていないから、そもそも今なんでここにいるかすらわかってないもーん。どーせ伝えても協力してくれるかなんてわからないし。それよりあんたの彼氏は今日は来ていないの? あのバカっぽい男」


「黄薔薇隊の隊長? いないよ、馬鹿っぽいっていうかそのままなんだけどさ。あの隊長は私のシェルターを守るのが仕事だから動かないというより動けない。でもそもそも彼氏って言っても、むこうが勝手にそう言ってるだけなんだけど」


 ユユキは携帯端末を取り出し慌てて話に出てきた馬鹿っぽい男の画像を消して、かわりに別のファイルを開く。

 シェルター内にいない限り情報を送受信できないため前もってダウンロードして持ってきた資料に目を通し始めた。


「私は黙って座って仕事していたいのに、あなたといい余計なことばかり」

「あんたを外に出していこうとする人間は貴重よ、長時間の座りすぎは血行を悪くして早死にするわよ。それに動かないと疲れやすくなったり疲れが取れなかったりするから適度に運動しなさい。そして体を動かす機会を作った私に感謝しなさい」


「放って置いて。あんたに心配される筋合いはない」


 何かあったときに残していた装甲車の運転手のひとりが面倒くさそうに無線をもって駆け寄ってくる。


「ターゲットが見つかりました」

「捕まえた!?」


 二人は話を中断し運転手のほうを向く。


「残念ながら」

「役立たず、何しているの!」


「暴れて8名が負傷。しかし、そばにいた仲間と思われる男を確保、こちらに連れ着ています」

「目標は男じゃないでしょ、赤毛の女!」


 キサキは怒鳴りつけるがユユキは立ち上がり彼女を押しのけ運転手の前に出た。


「いいよ、連れてきて。仲間なら助けに来るかも、私がやるよイラついているしちょうどいい。一度全員戻ってきなさい、仲間を取り返しに来たら捕まえられるように。捕まえた男はできるだけ無傷で」

「わかりました、そう伝えてきます」


 運転手の男は無線と話して離れていき十数分後、長い髪の目の下に隈のある男が連れられてくる。

 途中暴れたのかやられた仕返しなのか彼はすでにボロボロの状態で歩くのがやっとな気を失いかけた状態。

 捜索にでた一般兵らは対人間用の治安維持用のゴム弾銃と捕縛用の網を持っているが、擦り傷切り傷のある男の傷はそれらを使ったようには見えない。


 ――私が何かする前にこのざま、私が何かすれば死ぬかも。いわれたこともできないなんて、ほんと王都の人間は使えない。作戦のため失っても惜しくない人材を集めたとはいえひどいにもほどがある。


 暴れたときように用意していた催眠ガスを使う必要がないとカバンにしまい、白衣を脱いで地面に敷くとその上に男を寝かせ、元からかどうかわからない薄汚れた服を脱がせ傷の具合を確かめる。

 キサキは傍観するようにその光景を眺め、ユユキが服を脱がせていると背後の一般兵から指笛と冷やかしの声。


 ――屈強な体、もともと一般兵だったのかもしれない。後ろにいる雑兵どもみたいな体だったなら骨とか折れていたかもしれない。しかしまぁ、手酷くやられて、今持っている薬はこれしかないけど。


 服の下に縫われた痛々しい昔に追った大きな傷跡があり、体が丈夫なようで傷がそれほど深くないとわかると意識があるかないかわからない男に話しかける。


「死にたくなければ、生きたいと精一杯あがいて。死ぬほど痛いからね」


 男からの返事はないものの腰につけたリュックからアンプルと注射器を取り出し、薬品を抜き取り中の空気を押し出し注射の用意が整うと腕を触り脈を探す。


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