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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
12章 流れ星の光 ‐‐怪物たちの蟲毒‐‐
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次への鍵 1

 遠出から戻り王都に帰還したカガリはシェルター中央にそびえる巨大な建物へと向かっていた。


 シェルターの中心に立つそれは遠く離れた防壁からでも圧倒的存在感を放ち、まるで天を支える巨大な柱を思わせる。

 周囲の高層ビルから飛び抜けた高さを持つその建物は政治や軍事、その他役所が詰まった複合施設であって王都の心臓部。

 その天へと伸びる巨大な建物のそばには各地のシェルターから技術者を集め巨大化を続けている研究所が立ち並び、周囲には付属する研究施設が立ち並ぶ。


「研究所に戻ったら、設計図に修正を。それが終わったら解散して、帰っていい。私は一度研究所に立ち寄ってそのまま塔へと向かいますので帰りを待たなくていいです、それと私の部屋に報告はいりません」


 シェルターの内側勤務の一般兵に守られた、高い壁とフェンスに囲まれた広い敷地手入れの行き届いた草木、道を彩るように配置された花壇に植えられた季節の花々。

 それらに目を目を向け冬桜隊の部下を引き連れカガリは自分の研究室に移動していると、白い外壁の建物の中カガリの研究室の扉の前で待つ女性がいた。

 こげ茶色の短い髪で胸に着いた煌めく金色の階級章がなければ少女と見間違える小柄な体躯、カガリを王都に連れてきた彼女の上司、シュゴウ・ベニ。


「ただいま戻りしました、シュゴウさま」

「おかえりなさい、カガリ。行った先でタイミングよく災害種に襲われるなんて不運ね。長旅から帰ってきてすぐだけども、ちょっと付き合ってもらえるかしら」


 部下を先に研究所へと送りカガリはベニと並んで歩き出す。

 窓から差し込む太陽の光を反射させる艶やかな長い髪をなびかせ廊下を進む。

 カガリのそのきれいな髪は見るものすべてが羨み嫉妬する、ベニも一瞬その髪に目を向けたがすぐに彼女の顔に視線を戻した。


「箱庭の彼女がいなくなったみたいなんだけど、知らないかい?」

「ああ、キサキが貸してほしいというから彼女に預けましたよ? 何かありました? 何かまずかったですか?」


 研究室には入らずそのまま汚れのない赤いカーペットの引かれた広い廊下を行く先もなく歩き二人は話を続ける。

 途中すれ違う者たちは二人を見て深々と頭を下げ通り過ぎていく。


「第7世代の生体兵器の報告が滞っているから連絡を取りたかったのだけど、それでユユキを連れていったいどこへ行ったの」

「ヒバチのほうへ、それほどの遠出でもないので数日で戻ってきますよ。普段は私にすべて聞いてくるのにうちの子を探すだなんて。何かありました?」


「あなたの管理を私がしっかりしておかないとすぐいなくなるし、何しだすかわかならないけども。長年わからなかった生体兵器の製造を、私がしっかり舵を取らないとあなたたちがおかしなものを作り出すでしょう」

「否定できないのが何とも」


「とりあえず今は式典のことに集中してもらわないと困るのよ」

「わかっています。向こうのことは定期的に報告するように言っていますし」


「で、定期報告が遅いのはどうにかならないの? 来るには来るけど早くて数日遅くて数週間、任せている仕事はそんなに領内のでしょう? 何とかさせなさい」

「一度スイッチが入るとすごい集中力を持つ子だから許してあげてください。とはいえ丸一日モニターの前で生体兵器を観察して何が面白いのか私にもわからないのだけど。ユユキは結果を出しているでしょう」


「その結果が届かないの、他に連絡をくれる人を用意しなさい。とはいえ生体兵器を作っているだなんて情報が漏れないような、信用における人物を探すのは難しい」

「新しく作るのも面倒ですし、まぁ私のところの部屋にいるそれなりの子を用意しますね。これならば情報も漏れることもなかったでしょうし、わかりました、ユユキが戻るまでに連絡用の人を用意しておきます。そうだ、せっかくですしどこかにお茶しに行きませんか?」


 行く当てのない散歩に目的地が決まり二人は来た道を引き返す。




 元開発系シェルターのため畑も工場も地上にはなく、ただただ高い建物が並ぶ廃墟。

 廃シェルターハギ。

 場所によっては過去の戦闘で破壊され劣化に耐えられず崩れた建物が多く、そんな場所に複数の装甲車が止まっていて車両の周囲は大型小型のエクエリを持った精鋭たちが見張っている。


「太陽の熱がつらい。眩しい」


 青渕の度の強い眼鏡を指先で押し上げそのまま髪をかき上げた。

 彼女の耳元で青い結晶の入ったピアスが煌めく。


 ボサついた髪を鮮やかな青に染めた青白い肌の不健康そうな女性、イサリビ・ユユキ。

 髪と同じく鮮やかな青色のブレザーの強化繊維の制服の上に白衣を着こんでいて、長い前髪が顔を隠し彼女は建物の陰に隠れるように座りこみうなだれていた。


「あんたそんなこと言ってたら、これから先、夏になったらどうしようもなくなるわ! いい、私たちはこれからお姉さまの大切な命令を聞くの、ボケボケしてないで頂戴!」


 空のような透き通る水色の強化繊維の制服、アッシュブロンドのウエーブのかかった髪、セングウ・キサキがユユキを見下ろし動くたびに腰のベルトに着いた鍵束や鈴が擦れあう音が鳴る。


「乗り物に酔いやすいのに、こんな舗装のされていない道を走ってきた。気分が悪い」

「うぇぇ、ここで吐かないでよ?」


 普段研究室にこもり日の当たらない空調を管理された部屋での作業をしているユユキには、屋外に出るだけ少しの温度差で汗が出る。

 ぐったりとしている彼女を見下ろし腕をつかんで立たせようとするキサキ。

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