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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
11章 狂おしき崩落日和 ‐‐闊歩する巨兵‐‐
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討伐、勝利、そして 5

 マクウチシェルターから遠く離れた別のシェルターの中央区。

 カガリたち冬桜隊は移動の疲れをいやすように暖かい部屋でくつろいでいる。

 紅茶をすすりカガリはタブレットでマクウチシェルターのその後の報告を読んでいた。


「しかし、試作とはいえ暴走して大変なことになってしまいましたね。近くに災害種がい多だなんて、やはり北の地は何があるかわからなくて恐ろしいわね。しかしすごいわね、災害種が入ってきたというのに被害が数百人どまりだなんて」

「普通なら特定危険種で数百人、災害種で千人単位で被害が出るほどなのに、2か3千人くらいは死んでもおかしくなかったのにだいぶ抑えられましたね。マクウチシェルターは災害種に襲われながらもそれらを撃退、すでに壁に空いた穴も塞いだようです、今まで生体兵器の脅威にさらされ続けていて戦後の対処も早い」


「へぇ、それはよかった。あそこを潰してしまうと後々厄介になりますからね」

「魔都の災害種、クラックホーネットの討伐ですか?」


「ええ、シュトルムを排除した以上その脅威に活動を控えていた生体兵器たちが活性化する。それを受け止める防波堤としての役割、あのシェルターはそのためにも。それともう一つの作戦にもあのシェルターには防波堤になってもらわないといけませんもの。ではこれからの……」


 そこまで言いかけたところで部屋の扉が開き勢いよく水色の強化繊維の制服のスカートとアッシュブロンドのウエーブのかかった髪を乱れるように振り回し、腰のベルトに着いた鍵束や鈴を鳴らして飛び跳ねながらカガリのもとまで走ってくる。


「セングウ・キサキただいま到着しました! お久しぶりですカガリお姉様! お元気そうで何より、このシェルターで一番いい甘味をお持ちしました、お口に合えばよろしいのですが!」

「ご苦労様ですキサキ、急な呼び出しごめんなさい。あなただっていろいろ忙しいでしょうに」


 全力で走ってきたのかキサキは額に大粒の汗をかき、息を荒げ興奮状態のまま跪くとカガリに頭を下げる、彼女は差し出された飲みかけの紅茶を何のためらいの巻く飲み干す。


「何のなんの、お姉さまが及びでしたら私は例え火の中水の中、全身全霊をもって駆け付けますわ! どんな命令でも私のできうるすべてを使って成し遂げてみます、個人的な私情から仕事まで何でも、なんでも! お任せください!」

「やはりあなたを呼んで正解ね。キサキ、私はこれから王都へと戻らないといけないのだけど、あなたはあなたと同じでここへ報告に来てくれたユユキのところへ行って彼女と一緒にハギシェルターへと向かってもらえない?」


 ツタウルシ・カガリを頂点とする王都の技術半の一人。

 知らないものから見ればカガリを慕う姉妹のように見える彼女らは、キサキをはじめとしてカガリの部下は孤独と痛みと薬による精神破壊からの愛や刷り込みでの再教育で洗脳、カガリの喜びこそが自分の喜びと狂信的なまでの信徒となっている。


「行きます! ハギというと、ここから近い廃シェルターのですか?」

「ええ、そこで暮らしているとある子を捕まえて、ハギの近くにある別の廃シェルターであるヒバチへと向かってほしいの」


 キサキをはじめとした数人がカガリの指示で手足のように動き、王都を含むあちこちで活動している。

 彼女らが束ねる末端の部下たちの洗脳は軽くカガリに黙って従っていれば罰はないという痛みを受けたくないという恐怖にとらわれているのみ。

 彼女の与える痛みは死を連想させ体に恐怖が刻まれている、またカガリは王都でも統治者のアマノガワ家を除くと指折りの権力を持つ人物なため、どこかのシェルターで暮らす限り情報の集まる彼女の手から逃げ出すことはできずどこかのシェルターで暮らす限り彼女の手から逃げることはできない。


「わかりました。でもあそこは魔都にも近く、まだ特定危険種クラスの生体兵器が何匹か確認されていて精鋭でも近寄ったりはしないそうですが、あそこへ?」

「いやならいいのよ、別の子に頼むから。キサキも他の精鋭同様、災害種レットターゲット捜索で忙しいものね」


「いえ、カガリ様の命令が一番です、何でもします。やらせてください、あの引きこもりユユキを引っ張り出してヒバチへ行きます! ですが、そんなところへ行って具体的には何を、精鋭はいくつか同伴させても大丈夫ですか」

「何をするかは後で資料を送るわね、精鋭は気のすむように好きなだけつけていきなさい」


 話し終わるとカガリは跪くキサキの頭をなでる。

 キサキは恍惚として頬を染めカガリの伸ばす手を優しく受け入れた。



 戦闘が終わって4日目の早朝、日が昇る少し手前の時刻、南側の防壁の前にミナモたちはいた。

 防壁の門の前には装甲車が数台止まっていて、その中の一台で双子は寝息を立てている。


 見送りに来たシマを見つけ彼女は歩み寄った。


「おはよう、晴れたねシマ」

「おはよう。朝少し雨が降ったみたいで少し肌寒みぃな」


「どおりでここに来る途中見た野菜の朝露がきれいだったわけだ」

「ここに桜の一本でもあればいいんだけどな。今見ごろらしい」


 彼女はシェルターの外に出るだけあって強化繊維の葉欄隊の制服と大型のエクエリを持って立つ、その背中に爆薬の入ったリュックはない。


「残念だね、見たかったなぁ今年の桜。ボクは防壁の外でこの後見れるんだけどね、そこの向こうに生えてるんだよ桜」

「ならよかったな」


「よくないよ、一緒じゃないと」

「そうだな。ミナモと見たかった」


「さてさて、しばらくお別れだね。これからも警備兵の仕事頑張ってね」

「しばらく体の調子を見るって休みをもらってるから仕事に戻るのはまだ先だけどな」


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