討伐、勝利、そして 4
画面は燃えた建物、破壊された車両、穴の開いた防壁などが映され先日の戦闘のニュースが報道されていた。
ミナモに続いてシマはこたつに歩みよりテレビに目を向ける。
内容は3日前の戦闘の日の混乱の中、防壁の外で生体兵器から多くに一般市民を救った精鋭の特集。
『シェルターの危機から三日が立ちました。復興は問題なく無事に進み防壁の穴の修復も本日中には終わるそうです、本日戦闘で生体兵器の被害にあった方々のための慰霊碑が立てられようと記念式典が行われております。さて、本日はシェルター内で被害を大きくしていた精鋭とは別に、シェルターの外で、たった一隊で避難する我々を守ってくれていた精鋭、鬼百合隊。隊長はキジマ・ココノエ、参加した作戦にはこのシェルターの給水ポンプの修復作戦などに参加し、その後の戦闘で大きな負傷をいたしましたが、彼の意志を継いだ、女性隊員カシマ・キュウ、ソメヒロ・ヒャッカ、彼女らの作戦記録を振り返っていきたいと思います』
彼らはただの生体兵器を相手に戦い称賛されるが、特定危険種、災害種と戦った精鋭たちの紹介はない。
ミナモがこたつに置いてあったリモコンを掴みチャンネルを切り替えても同じ日の戦闘の話。
『……そもそも精鋭はですね。特定危険種や災害種と区分けされる並みの生体兵器の上に存在するネームド、こういった一般兵で相手のできないような強力な生体兵器を狩るためにいるわけでね、彼らはそれらの脅威を前もって倒しておかなかった。仕事を怠慢した精鋭の無能さが今回のシェルター内に生体兵器を侵入させる事態になったわけで、犠牲者の方々は本当にかわいそうでならない、それでいて町を破壊した精鋭たちには討伐報酬として多額の褒賞が与えられる……』
切り替える。
『……今回の襲撃は、侵攻部隊がしっかりと生体兵器を排除せずに行った作戦のために起きたわけで、それにその肝心な前線基地を設立する侵攻作戦も失敗。この作戦のために準備してきた時間、人員、資材もすべて無駄になった。精鋭が生体兵器と戦っている間に基地を再建させる作戦なのに精鋭がシェルターへと引き返したわけですから。そしてこれですよ、民間人に被害を出しておきながら反省もなく、今回の鈴蘭隊の隊長の乱暴で無責任な発言。自分の仕事も全うできなかったくせに偉そうに……』
切り替える。
『……生体兵器を倒すために、爆薬を町の中でためらうことなく使い、町を破壊した精鋭、葉欄隊。爆薬を戦いには生体兵器をわざわざおびき寄せ、なおかつ自分隊は安全な場所に居なければならないため、生体兵器をたった一匹倒すのにすごく時間がかかる。私に知る限りですね、ほかの精鋭は爆薬などなくても生体兵器を倒すことができ、このことから今回の戦いはただ破壊したいだけの爆弾魔と変わりはないといえるのではないでしょうか。同じ戦場で戦っていた一般兵に巻き添えが出なかっただけで奇跡といえる……』
こたつに入っているミナモの父親は部屋の隅に置き溜められていた雑誌を読んでいて、双子は学校の課題らしきものをやりながらテレビを見ている。
シマとミナモはこたつの上にチャンネルを置いてテレビから離れていく。
「防壁が破られてシェルターが戦闘で戦闘で命を落とした犠牲者400名のうち一般兵が300名あまり。人手が減ったことで一般兵の人数不足が起きてね、シェルターで一般兵の志願を募るために作ったプロモーションビデオを作ったんだけど。これが原因でね、ボクたち精鋭が、まるで役に立たなかった、ような……」
その時テレビはコマーシャルに入り、ちょうどよくミナモがいっていた一般兵公募の映像が流れる。
重厚な音楽とともに災害種に恐れることなく挑む勇者たちというナレーションとともに、映像にはビルの上から小型のエクエリを撃ち災害種を撃退しようとする姿、重殻に一斉射を仕掛ける車両群、スーパーの売り場でニンジャの一匹を倒す一般兵たち、最後の映像にちらりとシマが見切れて映っていた。
コマーシャルが終わり番組に戻る。
「どう? 出来はすごくいいと思うのだけど」
「ああ、まるで一般兵が生体兵器をあちこちで次々と倒したみたいだったな。でも……」
とどめを刺した精鋭の姿はなく映るのはみな一般兵の雄姿。
市街地のいたるところに設置してある防犯カメラの映像をつなぎ合わせ作られた戦闘記録をまとめたもので、そこにミナモの姿はもちろん一緒にいた葉欄隊の姿もない。
「ボクたち精鋭の活躍が丸々切られてて。でもニュースでは生体兵器が市街地へと入り精鋭の到着が遅かったことばかり報道されていて、その後の精鋭の活躍はうつされない」
「映像に映っていないってこともだけど、そもそもほかの精鋭はどこにいたんだよ。あの時、戦っていた精鋭はミナモの隊だけだっただろ」
「シェルターにいた精鋭の多くは果樹園へと向かった特定危険種06ファイターの討伐に力を注いでいたよ、他は居場所がわかっていなかったからわかる相手から退治して言った感じ。向かった精鋭も大型の生体兵器で普通の小型のエクエリも効きにくくて果樹園での戦闘はすごく手こずっていたらしい。戦車や装甲車は誤射で木を倒すことを恐れてたみたいでスムーズに戦闘が進まなかったとか。うちの一般兵は元農家だから、木を一本育てるのにどれだけ苦労があるかわかっていて、割り切れなかったみたい、エクエリの流れ弾でも簡単に傷ついちゃうし」
「それでも、最終的には倒したんだよな?」
「うん、それも結局精鋭を責める一つになってる。精鋭は火力不足を補うために、無理にでも戦車とか装甲車を果樹園内に侵入させ幹をへし折りながら距離を詰めていたから、被害にあった農家の人にインタビューで、葉や果実だけを食べて木をあまり倒さなかった。生体兵器のほうが行儀がいいとかなんとか」
「真面目に戦ったのに、そんな扱われ方はないだろ」
「戦いは終わったけど、住んでる人には普通に暮らせていることが当たり前だと思ってるから。怖いから防衛任務中の制服も前線基地についてから着替えてる。ボクの隊に入った二人も嫌な思いをする前に鈴蘭隊とともにここを離れてもらった」
「隊長も死んだんだよな、今お前の隊はミナモ一人で大丈夫か? ……ところであの二人は、確か今日は平日だよな?」
「シズクとツユもボクのせいで学校でいじめを受けてずっとうちにいる……今は鬼百合隊以外は悪者だから」
「なんで、ミナモは悪くないのに」
シマに近づき小声で耳元で話す。
「……あ、でも悪いことだけじゃなかったんけどさ。お父さんの買い物をしていたお店や酒屋、ボクの家族だってわかって出禁になって、無駄遣いしなくなった、できなかうなった、か」
「こんな状態じゃ外出できないもんな。でもそれじゃ買い物に行けないだろ」
「買い物は、ケン君やキューちゃんが行ってくれて助けてもらってる」
「そっか……こんな状態でこれからどうすんだ?」
「うん。シェルターを引っ越そうかって話してる。シェルターの偉い人も進めてきてくれたし、住む場所は用意してくれるって……火事になってなるべく早い方がいいって」
「まぁ、その方がこんなところにいるよりずっといいもんな……」
「シェルター間の移動についてくれる護衛を集めて調整しているところだから出立は早くて明日の早朝。時間は決まってて、人がまだ動き出さないうちにここを出る。まとめる荷物がないってのはいいことなのかな」
「明日なのか!? 早い、今日もし俺が起きなかったらあえなかったかもしれないのか」
「シマが起きなかったら手紙を残そうと思ってたけど、さよならする前に来てくれてよかった。大丈夫、ボクは精鋭はやめないよ、シズクとツユがちゃんと学校に行って生活が落ち着いたらここにも新しい隊で守りに来るから、会えなくなるわけじゃないよ」
「向こうに行っても無理すんなよ」
「帰るの? ご飯食べてく?」
「いや、さすがに家にも帰らないと、病院からここにまっすぐきちまったし。俺の家族が心配するから」
「そうだね。玄関まで見送るよ」
「明日、見送りに行くからな」
ミナモの無事を確かめここにいる用事もなくなったため帰る。
少し歩いた先で振り返り雨戸の閉め切られた家を見た。
とてもシェルターを救った英雄の一人とは思えない暮らし。
――あんまりだろ。こんなの。
何もできなかった自分に苛立ちながらシマは自分の家へと帰っていった。