討伐、勝利、そして 2
建物に入り天井を破壊しながら上を目指すアシッドレイン。
3階建ての屋上へと出ると通路にいる精鋭たちを見下ろす。
高所からなら物を飛ばす範囲攻撃は風などに影響されるが高ければ高いほど遠くへと飛ぶ、戦場を見渡し自分の体内で作られたいる毒の残量を確かめ知らぬ間に増えた無防備な白や灰色の制服の精鋭に狙いをつける
そこへ斜め上から飛んでくる光の弾。
装甲車から降りた一般兵たちが通り内にある最も高い6階建ての建物の上にいた。。
小型のエクエリの威力は小さいものの数が多ければそれは脅威となる、一度口を開け毒を飛ばそうとするが上に飛ぶ勢いは弱く量も少ない、どのみち届かないことを察しアシッドレインはより高所にいる一般兵を狙って彼らのもとへと向かうため建物の上を移動する。
「もっとも古典的な戦い方、生体兵器は五感が鋭い。その鋭さを利用し生体兵器の隙を作る」
移動中の作戦会議でメモリに言われた言葉を思い出し、シマは手にしたバケツを強く握った。
6階建てのこの建物にまっすぐと向かってくる大型の生体兵器、自分たちより何倍も大きな生き物がシマ達のいる建物に張り付き窓を割りベランダを壊しながら登ってくる姿は恐怖そのもの、何度も生体兵器に襲われているシマもその姿を見て背中に汗をかく。
歴戦の一般兵たちは臆せずエクエリでの迎撃に励んでいる。
攻撃は一方的であったが小型のエクエリは効き目が薄く壁をよじ登るアシットレインを止められない、一歩手足を壁に食い込ませするために小さく建物が揺れ破壊音が接近に伴って大きくなってきていた。
「来たぞ! 構えろ、いけ!」
誰かの声にバケツを持ったシマを含む数人が一斉に建物の下にむかって中身をぶちまけた。
香辛料、激辛ソース、小麦粉が同時にまかれすぐそばで迫っていたアシッドレインに降りかかり一瞬、アシッドレインの動きが止まる。
「本当に効いたぞ」
口や目にかかったソースなのか呼吸で肺に入った粉ものなのか知らないが生体兵器が止まる、建物を上り首の後ろを建物の下から狙えるような位置で。
一般兵たちのいる建物攻略へと生体兵器の意識を限定させるため、一時攻撃を中断していたギンセツとミナモ、装甲車のエクエりのほか駆け付けた精鋭とついてきていた戦闘車両の一斉射。
横殴りに振る光の雨は頭の周りを集中的に攻撃され、建物から引きはがされるように下へと落ちるアシッドレイン。
落ちた先の建物に大きな亀裂が入りゆっくりと屋上が抜けてその穴にアシッドレインがおちる。
「逃がすな、反撃の隙を与えるな、ここで仕留めきれ!」
それでも致命傷には届かずアシッドレインは起き上がった。
囲まれダメージも多く不利な状況体制を整えるため災害種はこの場を去ろうと体を動かす。
「待っていた。さぁ、戦おうじゃないか化け物!」
穴から這い出たアシッドレインの前にシロヒメ達鈴蘭隊。
その存在に気が付くと同時に血を飛ばすため頭を向けるがそこへエクエリが先に撃ちこまれ目をつぶされる。
潰された目で血を飛ばし多がそこにもうシロヒメたちはいない、回り込んで残った目も素早く潰しシロヒメが距離を詰めるため走り出す。
暴れ尻尾を振り回し鈴蘭隊を追い払おうとするが、災害種の足元で建物の亀裂が広がり建物は縦に割れるように崩れ巨体は通りへと落下、下にあった車が大型の生体兵器の体の下敷きとなってつぶれる。
落下個所に向かって集まる増援、振り回し土煙から現れた黒焦げの尻尾は本体から切り離されており気を引くための囮として使われた。
アシッドレインの向かう先は戦う数の少ない一台の装甲車と葉欄隊の数名のいる方向、あくまで力尽くで退路を切り開いでの逃亡。
「とどめ」
装甲車の上で待ち構えていたミナモはリュックを遠心力を使って遠くへと放り投げる。
距離は届かなかったが災害種のすぐ近くまで転がる地雷の入ったリュックサック。
アシッドレインの残った嗅覚が反応し地面を転がるリュックに伸縮する舌を伸ばしてつかみ取ると噛みついた。
直後、おこす大爆発。
肉片が飛び散り首をうしなって崩れ落ちるアシッドレインの死骸に駆け付けていた増援たちの歓声が上がる。
『戦闘終了、災害種アシッドレインの討伐が最後だ。我々はシェルターを守り切った。皆、体も心も疲れていると思うが生体兵器の処理を優先してくれ。市民が返ってきたら怖がる』
アシッドレインを倒した報告が行ったらしく、車両の無線からシェルター内で起きているすべての戦闘が終わったことが報告され、少し遅れてシェルター内の警報を鳴らしていたスピーカーからも戦闘終了と同様の内容が流れる。
建物に上っていた一般兵たちが下りてきて本体が死んでなお暴れまわる、切れた尻尾に戸惑うが災害種の死骸を見て各々安堵の声を上げた。
「それとアシットレインの飛ばした毒の掃除だな、地面に撒かれたやつでもまだ危険だ、本当なら採取して分析などに回す必要があるのだが、民間人の安全確保のほうが優先だ綺麗に洗い流す必要がある。あと、あの尻尾は放って置けばおとなしくなるだろうから余計なちょっかいは必要ないはずだ、一応近づく際は気を付けてくれ」
まかれた毒は最悪死に至る致死性の毒は雨などに洗い流されない限り放って置いて自然になくなるものではないためメモリが周囲に注意を促す。
『戦闘は終了したが、先ほど潜伏しているニンジャとの戦闘があった、いまだにどこかに隠れている可能性もある、十分警戒し避難民誘導に当たっていた一般兵と合流後、生体兵器の捜索に当たれ』
再び入った無線に合流した指揮官クラスの一般兵がこの場に集まった一般兵をまとめ上げすぐに行動に移りほとんどのものがこの場から去っていく。
残ったのは毒を流すために消火栓のもとへと向かう一般兵のほか精鋭たちと警備兵のシマ。
建物を降りてきたシロヒメがアシッドレインの死亡後ものたうち回る切れた尻尾を見て驚愕の声尾を上げていたが、すぐに興味を失い奮闘していたミナモのもとへと歩み寄ってくる。
「いやー勝った勝った。やっぱ最後はあっけないもんだな、というかよくあんなのに噛みついたよね、爆薬食わしたんだろ? 災害種だってのに警戒心なさすぎ、あれだけボコられれば冷静さも失うのか?」
「あのリュックにはシマがけがをした時に流れた血を拭いタオルを、シアちゃんが持ち出していてそれをボクのリュックの中に詰め込んだ。あいつは目がつぶれていて臭いか何かでそのついた血に反応して噛みついたんだと思う、ほんとは声を出して呼んだところを踏ませようとしたんだけど」
「しま、だれそれ? まいいや、私たちが目をつぶしたのが大きんだよね、そこ報告で協調しておいて。よしよし、災害種討伐に手を貸してこれでまたバメに自慢できる」
「ボクたちに手を貸していただきありがとうございました」
最後に少し手を貸しただけな気もするが、彼女らの援護がなければ戦闘はもう少し伸びていた。
「いいよいいよ、というか危うく私たちが戻ってきた意味がなくなるところだった、今のが最後の生体兵器らしいからね。特定危険種のほうには別部隊に行ってもらったけどそっちも瞬殺だったらしいし」
「あとは今言っていたいる階ないかわからないけど、潜伏している生体兵器を探すんですね」
戦闘が終わり生体兵器を探しに行くためミナモから離れていく鈴蘭隊、代わりに話が終わるのを待っていたシマが近寄ってくる。
「お疲れ、シマ。休んでいていいよ」
「そうもいかないだろ、生体兵器を倒してもやることはたくさんあるんだから」
「シマはけが人だし休むべきだよ、非戦闘員なのに災害種討伐に加わったんだから、誰もシマを責めないよ。ところでシズクとツユは?」
「そこの建物の奥で待っていてもらっているよ、戦っている一般兵に目が行って見つかる心配もないし。聞き分けが良くてほんといい子らだ、迎えに行くの忘れてた」
「ボクも一緒に行くよ」
一般兵たちが戦った6階建ての建物その一回の守衛室に双子はいた。
シマとミナモ二人の姿を見て駆け寄る。
「「おねーちゃん!」」
三人は抱き合いそれを見届けシマは満足そう笑みを浮かべ壁に寄りかかり音もなく静かに倒れた。