討伐、勝利、そして 1
アシッドレインは尾を器用に振り回しその先端でエクエリの攻撃を受ける。
そのたびに青白い閃光が光り、何度も炸裂式雷撃弾を受けている尾の先端は次第に煙を上げ焼けていく。
その間も時折毒を飛ばしてくるがごく少量で牽制程度とずいぶんと一度に撒く量は減っていた。
『シアさんたちは待機していた一般兵と合流したそうです』
「そう、んじゃそろそろ戻ってくるかな」
廃車になった車のサイドミラー越しに次の攻撃のすきを窺っているとギンセツが携帯端末を使って連絡を取ってくる。
「尻尾から足を通って流されてるなぁ。弾種戻そうかな、でも逃げられた時のためにも行動に制限がかけられるこっちのほうがいいしなぁ」
『ダメージは入ってます、このままいけばいずれはあの尻尾は焼け落ちるんじゃないでしょうか』
「トカゲのしっぽって千切ってまた生えてくるんだよね。再生力が高かったら今やってること無意味なんじゃぁ」
度重なる攻撃に体に不調をきたしたのか弾を迎撃しながらも、アシッドレインは嗚咽を繰り返しその場で食べたものを吐き出す。
『吐いた? 今までの攻撃が効いたんでしょうか』
どろりとした粘液にまみれた固まりを見ながらギンセツは不思議そうに尋ねる。
生体兵器が体調を崩すというのを見たことがなく、目の前に見えるアシッドレインの嘔吐が戦った結果なのかアシットレインんほ固有の能力なのかがわからない。
「それもあるだろうけど、少しでも体を軽くするためでしょ。ボクらを今まで毒さえ飛ばしていれば十分だと思ってたんでしょ、ボクらの接近でようやくやる気になったんだと思うよ」
『今までなめられていたんですか?』
「そうなるね、精鋭相手にしてこの余裕だもんね。ボクたちじゃ本気で相手をするには役不足だったんじゃない」
『その割には結構攻撃当ててますよね』
どろりと吐き出されたニンジャの死骸、強力な胃液で短時間であるが生体兵器の皮膚の大半が爛れていて瓦礫の山を小石をまとわせながら転がり落ちていく。
アシッドレインの吐き出した生体兵器の死骸のなかにここに来るまでの途中で襲ったとみられる一般兵の姿。
『うっ、きついですね。ああいう形の人の遺体を見るのは』
「辛いなら少し離れていていいよ、これ以上近づくのは無理っぽいから。この距離でみんなが返ってくるまで戦う」
一つ二つと次々に吐き出される遺体、すべて丸のみにされたようで溶かされていても人の形を保ったまま。
そして最後に吐き出された姿にミナモが動揺する。
誰だか判別できない程度の解けた人体だが、特徴的な黒に赤の模様の入った強化繊維の制服、死んだ精鋭の姿。
『オウギョクさん、あの服、あの制服は』
同じく死体を見て自分とよく似た制服に感が働きギンセツがミナモのほうを見る。
「たいちょう……見ないと思ったら、死んでいたんだ……これで、葉欄隊はボクだけになったのか」
『やはりですか。大丈夫ですか? 混乱しているなら、僕一人で戦いを続けますけど』
死んだ仲間の遺体を目に少し動揺はするものの戦闘中で感傷に浸っている時間はない。
「大丈夫。これからはボクが隊長する。部下の命、誰の命も失わせない」
『もとよりオウギョクさんの指示に従います』
気持ちをリセットしバッテリーを変えると二人は様子を見つつアシッドレインをひきつける。
そんな時だった。
「みつけたぁぁ!!」
通りを反響する女性の大きな声。
声は装甲車の走り抜けた崩れた建物の上にいるアシッドレインの向こう側。
「だれ、また増援が? 今出てこられるとシアちゃんの作戦が……」
『この声……元うちの隊長だと思います。だとすると危ない、あの人接近戦が好きだから近づいて行っちゃう。相手が何だろうと調べない人だし』
頭を抱えひきつった笑みを浮かべるギンセツが慌てて携帯端末を操作して連絡を取ろうとする。
アシッドレインを見つけて大はしゃぎで走る血と泥で汚れた白い制服の女性の精鋭。
彼女は装甲車を降り小型のエクエリを構えて走っていく。
そのあとを同じ白い制服の部下が彼女を追いかけ突撃をとめようとする。
「シロヒメさん、元気ですね……見つけ次第走っていきましたよ、私なんか戦い続けでふらふらだというのに」
「俺も行くべきか? 相手は災害種、倒せば俺も精鋭としてこのシェルターを守った英雄の一人として語らて。俺の精鋭の活動は英雄譚に」
彼女らの後姿を灰色の制服の精鋭が見届けていた両頬に傷のある女性がつぶやき、シロヒメに感化され意気揚々と走り出す用意をする自分の隊の部下のわきを小突いた。
「やめてください。葬式とか面倒くさいんで。私たちは道案内だけでいいです、私に耳で戦っている場所を探して案内する、ひつようとあれば横からちょっとちょっかいを入れるだけでいいんです」
「でもそれだと、俺たちの戦果が」
「じゃあ、ミチカゲは勝手に死んで来てください」
「死ぬのか、俺」
「相手は災害種ですよ。無策に飛び込んでいったら死ぬに決まっているでしょう」
「でも、シロヒメさんはまっすぐ突っ込んでいったぞ……」
「だからあの人が全力で止めに行っているんでしょう。私は止めませんから好きにしてください」
「そっか……」
二人が見ている前を装甲車が走り抜けていく。
シロヒメを追い抜きアシッドレインのそばまで近寄っていき、そばに落ちている亡骸に気が付き装甲車は急ブレーキを踏んで止まる。
アシッドレインからすこし離れたところに停車するとミナモたちを相手していた災害種は首だけを装甲車のほうへとむけ目玉から血を飛ばし一瞬でフロントガラスが赤く染まった。
ワイパーを動かしても血はべったりと着いており、拭いても広がるばかりで少しも取れつようすはない。
「まだこんな手を、次から次へと引き出しの多いやつ。下瞼を自分の意志で切って血を飛ばしているのか、器用だな。でも毒は飛ばさない、ギンセツたちのおかげで切らしているようだな」
『シアさん、大丈夫ですか?』
「ギンセツか、無事だ、この着いた血は取れないが我々は無傷だ」
『作戦に失敗したなら、すぐにそこを離れて。そんな近くにいると危険です』
「大丈夫だ、これは囮だよ。しかし、考えた私が言うのもあれだが、増援も来ていたようだし我々の作戦はもう必要ないんじゃないか?」
接近してきた装甲車に気を取られている間に、通常の弾に切り替えたミナモたちの大型のエクエリの攻撃を体にまともに受け生体兵器にダメージを与えその鱗に覆われた体に穴をあけていく。
挟み撃ちをくらい状況打開のためにアシッドレインは建物の中に逃げ込んだ。
「逃げた……生体兵器の場合は距離を取ったというべきか。さて、飛ばせるものは飛ばし終えたようだな。大詰めだ、今のうちにほかの精鋭に連絡しておこう」