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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
11章 狂おしき崩落日和 ‐‐闊歩する巨兵‐‐
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雨 3

 アシッドレインはずっと建物の上から見ているだけで車列に突っ込んだりはしない。

 車両も葉欄隊もエクエリを構えるが指示があるまで生体兵器の出方をうかがっている。


「一応移動中に資料に目は通してある。シェルターを堕とした災害種だけあって並みの特定危険種より情報はそろっている。アシッドレイン、酸の雨という意味だが、実際は酸ではなく毒を飛ばすコブラの機能を持つトカゲだ。目に入れば焼けるような痛みとともし失明、あるいはショック死。傷口から血管の破壊による破壊毒でもある。物を飛ばす種類でなく自前で遠距離攻撃を持つタイプだ、集団戦にめっぽう強い」


 アシッドレインを見上げながらメモリが集めた情報を話す。

 それを聞いて大型のエクエリを持つ二人は頭をひねった。


「傘か何か必要ですよね」

「溶接の時に使うゴーグルなら1つあるが?」

「それはシアちゃんが付けていて」


 メモリは大型のエクエリの整備用の道具の中から防塵眼鏡を取り出し装着する。


「どうします、ここで戦いますか?」

「相手は災害種、しかも集団でなく単騎で名前を持つ存在だぞ。私たちだけで勝てるわけがない、相手も馬鹿ではなく無策に戦えば間違いなく不利だぞ、罠にかけるなりして作戦が必要だろう」

「さすがにボクもできれば戦いたくはないかな。重殻との戦闘で地雷もなくなったし、大型との戦闘には決め手がない」


「シアさん、さっきの」

「あ、そうだった。一つ地雷を拾ったんだ、ないよりは何かの役に立つだろうと思って」

「うまく機能しなかったやつかな。ありがと、これでなんとかなる……わけでもないけど。足の一本でも吹き飛ばせば、追ってはこられなくなるし、なんであれボクは爆薬の補給がないと戦えないしうまく乗り切ってほかの精鋭に任せたいね」


 一同はアシッドレインのいる建物の横を通り過ぎていく、向こうもこちらを見たまま通り過ぎていくのを見送っている。

 終始、体を建物の奥に隠し首から先だけ、いつでも隠れられるようにアシッドレインは過去の戦いの傷の残るその首を伸ばしていた。


「この距離だと、戦車の仰角が取れないから距離を取る分には助かるんだけどね。行けそうなら一発撃ちこんでおくべきかな。もしかしたらがあるし」

「武器である毒、飛ばしてきませんでしたね、食事中で襲う気はなかったんですかね」

「そんな馬鹿な。食事なんか我々全員倒してからでもできるだろう。畑で戦ったやつとは違うんだ、どう倒すか考えているんだろう。気を抜いていいのは生体兵器を倒した時だけだ」


 車両が進んでいき離れていくアシッドレイン、ある程度の距離離れると興味を失ったかのように去っていった。


「結局、何だったんでしょう?」

「さぁ、生体兵器の考えてることはわかるわけもなく」


 背後、あるいは左右からの反撃に備える指示が出て葉欄隊と装甲車の大型のエクエリのついた銃座に座っている一般兵が警戒する。

 あいも変わらず渋滞はどこまでも続きゆっくりと走る戦車が道を作るため押しのけていく。


「建物の上だけじゃなくて、階のどこか、上だけでなく普通の通路にも注意を払って」

「どこから来るかわからないなんて厄介だな、居るかもってだけでだいぶ神経やられるな」

「廃墟で戦う時と同じですね。鈴蘭隊にいたときに何度も戦いましたから高い建物が多い場所での戦い方は分かってます、けども……楽な戦闘はなかった」


「廃墟かぁ、ボクの知ってるところは壊れた建物ばっかりで高い建物無いからよくわからないや。二人のほうが詳しいならボクは指示に従うよ」

「廃墟は地形をものともしない虫や爬虫類型が多かったな。ああ、今戦おうとしているのも爬虫類か、災害種の」

「いつもシアさんは車両の前でお留守番ですもんね」


「シアちゃんは、戦闘力的にはうちの一般兵以下だっけ? 整備兵は辛いね、戦闘力の有無に関係なく大型のエクエリを万全にするために連れまわされて、ボクの隊はシェルターの技術者不足でとられちゃったけども」

「ああ、そのとおり。小型の生体兵器一匹倒すのにも命がけですよー。別に強さは関係ないんだ、うちのシェルターでの戦闘は鉄蛇があるんだから。あの鈴蘭隊に連れまわされて、シェルターから遠く離れた外の仕事に、あそこは数の力で何とでもなったのに」

「むくれないでくださいシアさん。今この状況では面倒くさいから」


 建物を見上げ空高く上る黒煙を見る。

 周囲を見回しても燃えている個所は先の戦闘があった場所だけ、静まり返り物音ひとつしない町の中を車両をつぶしながら押しのける戦車の駆動音とエンジンの音が響く。


「来ないね。行ったと見せかけて襲ってくるのがこの手のパターンなんだけど」

「こうやって焦らして集中力が切れるのを待っているのでは?」

「どこかに誘導しているとか……は、ないか。それなら道の封鎖とかしてくるし」


 三人が生体兵器の考えについて思い思いの想像をしていると戦車から助けを求める無線が聞こえてきた。


『こちら、43番機甲部隊。災害種アシッドレインと交戦中! だめだ、向こうはこちらの射角にはいらない! 6地区大通りにて交戦中!』


 無線を聞いて聞いてミナモが戦車の上で黒煙のほうを向いて立ち上がる。


「おやま、こっちからとっくに離れてたか。出くわしてしまうのは不運としか言いようがないが……私たちが行っても勝てるかどうかわからないしな」

「警戒し損ですね……しかし一般兵たちだけで倒すのは無理でしょう、災害種は基本的に精鋭が束になって戦って勝機が出始めるものですから」

「そういうことか。高いところにいたのは周囲の様子を探るため。ボクたちより弱いやつを見つけたからそっちに行ったのか!」


 そこまで言ってミナモは固まる。


 ――だから? 助けに行く? 行ってどうする? さっきも言った通り、精鋭一隊じゃ返り討ちにあう確率が高い、ボクらだけじゃ災害種と戦えない。このまま、見殺しに……そう今まで何度も、ボクが生き残るために何度も見殺しに。


 口を開くもミナモは続く言葉が出てこない、代わりにギンセツが声を上げた。


「助けに行きましょう」

「馬鹿を言うな、行っても勝算はない。それに負傷者を安全なところに届けている最中だ」


「でも、もうすぐ帰ってきた精鋭も合流してくれるはず」

「それにもう手遅れだろう向こうは災害種、襲う時は一瞬だ。今襲われているのなら引き返したころには……」


「でも、この近くにいたってことは僕らを助けに来てくれていたんですよね」

「……確証はないが、あの黒煙を見て重殻の目撃情報と合わせ向かってきたのだろう。討伐の報告後、私たちか負傷者の救護に来ていたというところか? 合流する報告は来ていなかったのか、それとも戻ってきた精鋭たちの報告と混同して聞き逃したか。なんにしろ連絡役をやっていてわかったが想定していなかったタイミングでシェルターに攻め込まれたことで、指揮所もパニックを起こしあちこち機能していないらしいからな」


 指示を仰ごうと二人はミナモに視線を向ける。

 彼女の中での答えは見捨てる、息を整えそう答えるつもりだった。


『21番隊、快速戦車3両でそちらへ向かっているもう少し耐えてくれ』

『17、43混同部隊、じきに到着する。相手を狙えるところに誘導してくれ』

『44番隊、付近まで来ている、北側の大通りで合流できるか』


 相手は災害種、一般兵が束になっても勝てない特定危険種のさらに上の強さ。

 どれだけ一般兵、戦車が集まっても時間稼ぎにしかならない全滅は目に見えている。

 指示を待つギンセツとメモリはエクエリを構えている。

 それは精鋭が一隊増えたところで同じこと、しかし時間を稼げば返ってきた部隊との合流ができる。

 倒すことはできなくても気を引き犠牲者を減らせることは可能か。

 それができるか考えた後彼女は答えを出した。


「戻る、私たちでできることを」


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