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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
11章 狂おしき崩落日和 ‐‐闊歩する巨兵‐‐
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雨 1

 重殻に向かって走っていく地雷付きの乗用車から身を隠す二人。

 燃料を頭からかぶり火だるまとなった重殻は暴れまわり周囲の物を破壊する。

 その際、燃えた燃料が周囲に飛び散り建物に燃え移っていくと、火のついた建物から火災報知機のベルが次々と鳴りだす。


 蠢く炎の塊へゆっくりと迫っていく車両。

 炎に包まれながらでも向かってくるものの気配を感じたのか、重殻は飛び掛かるように車へと向かって突進し打ち返すように燃える拳をぶつけた。

 交差点で二度目の大爆発が起きる。


 爆音で一度すべての音がかき消され爆発の衝撃で周囲の建物のガラスが割れ雨のように降り注ぐ。


「倒せた、かな。確認するから待ってて」


 ミナモが物陰から出ていきエクエリを構えて交叉点へと向かっていく。

 腕と頭が吹き飛んで中から出てくる内臓や体液が熱せられ煙を上げて黒く焦げ付いていくが、体や足はまだ動き続けている。


「終わったからいいよ、アカバネ君出てきて。ほら、重殻はやっつけた、でも今ので地雷は終了。なくなっちゃったから派手には戦えないね」


 ミナモに呼ばれ物陰から出てくるギンセツ。

 高々と黒煙を上げる町の景色はシェルターの外の廃墟と変わらないほど様変わりしていた。

 割れ残ったガラスが落ちる音、どこかで炎にまかれた車が爆発する。


「倒せたからいいものの、オウギョクさんせめて何か相談してください。一人で何でも決めて、こっちにはなにも教えてくれないどう戦うのかわからなくて困ります」

「ごめん、ボクいつも一人で戦ってるから、そういうの苦手で。ごめん今度から細かく指示出す」


「というか僕ら一度もこの隊の隊長を見たことないんですけど、どこで何してるんですか」

「さぁ、隊長も勝手に動く人だから」


 念のためとミナモは燃える重殻にエクエリを放つ、赤く燃える炎の中で青白い稲妻が光る。


「さすがに頭は再生しないよね」

「わかりません。大型の生体兵器がどの程度の治癒能力を持っているかわかりませんし」


 火の中の足が動かなくなるとギンセツに案内をさせシマのもとへと向かう。

 今しがたの戦闘で燃えた車両や建物などどうすることのできないものを尻目に歩く二人。


「シマの怪我の具合は? シズクとツユは?」

「背中にたくさん破片が刺さっていましたけど、シアさんが抜いて血も止めました。普通に喋れますし歩けますから傷自体は問題はありません。双子ちゃんもあの警備兵の人が守ったおかげで、気を失っていますがあれだけの大ごとになったにも関わらずすごく軽傷です」


「まったく、シマはほんとについていないなぁ。何度も生体兵器のせいで死にかけて。かわいそうに、怯え震えてるだろうにボクが慰めてあげなきゃ」

「いえ、あの人はオウギョクさんが走っていくのを見たとき、僕より先に追いかけ走り出そうとしていました。でも、血を流しすぎみたいで貧血で倒れてしまいましたけど」


「ただの一般人であるシマは、ボクより自分の心配したらいいのに」

「体が悲鳴を上げても、きっと勝手に動いちゃうんでしょう」


「アカバネ君はそういうことあるの?」

「シアさんは不本意で精鋭になった人ですから」


 ギンセツに連れられてミナモはメモリたちの隠れている建物に入る。

 ソファーに寝かされたシズクとツユのもとへと歩みより傷の具合を調べた。


「その二人はこの短時間にいろいろありすぎて疲労し眠っているよ」


 診療所の受付の奥から水の入った紙コップをもってメモリがやってきて、それをミナモとギンセツに差し出した。

 二人は紙コップを受け取ると一気に呷る。


「その様子からすると倒せたんだな、重殻」

「はい、ちょうどよく燃料をたくさん積んだタンクローリーがありまして。焼いたというかなんというか」


「はん、町の外で売るつもりだったのかもしれんな。燃料を満載になるまで補給していたら渋滞に巻き込まれた。そんなところだろう」

「シェルター間の移動は燃料を食いますからね。前線基地とかよらないと軽装甲車も燃料切れおこしますし……前の隊長の時も……」


 少し前のことを思い出し苦い顔をするギンセツ。


「ああ、面倒くさいと後回しにしてしょっちゅうエンストしてたな、あれはつかれる」

「重たい荷物もって何時間も歩く……足をくじいたシアさんを背負って……ああ、辛い記憶が」


 思い出話になっているメモリたちにミナモが話しかける。


「ところでシマはどこ? 燃料に引火してあちこちで火事が起きてる。建物自体は防火素材でも家具は燃えるから、火が回ってくる前にここを離れないと」

「さっきから何度か爆薬とは違う爆発音がしてると思ったがそういうことか。ああ彼なら血がべっとりとしているから流し台で洗っているよ。水の差し入れは彼からだ」


「んじゃボクちょっと、あってくるかな。アカバネ君は重殻の討伐の報告をお願いできる」

「わかりました」


 荷物をまとめ避難の用意をするメモリとギンセツが携帯端末を使って重殻の討伐を報告する。

 ミナモが荷物を下ろしシマのもとへと向かおうとすると、受付の奥から彼が戻ってきた。


「シマ、何度も大変だねお疲れ様」

「もう、倒したのか?」


 驚き目を丸くするシマに自慢げに返すミナモ。


「重殻? うん、倒したよ」

「やっぱすげえな精鋭ってのは。あんなでかいやつ、一般兵が何人束になっても勝てなかったのに。お前が行けば一瞬でけりがつくんだな」


 ミナモの姿を見て安心したように笑うシマ、それを見て彼女も微笑みを返した。

 シマの持つ赤く染まったタオルを見てミナモが早歩きで彼ものもとへと向かう。


「たまたまだよ。運が良かっただけ、生体兵器との戦いなんていつもまぐれや偶然が重なって勝ててるだけ」


 傷の具合を見ようとミナモはシマの後ろへと回り込んだ。

 大きく穴の開いた戦闘服には大量の血。

 それが視界に入ったとたん視界がゆがみ彼女のゆるんだ口元がきゅっと固く結ばれる。


「あ、シマ、怪我、大丈夫? すごい血、だよ?」

「実は貧血で頭くらくらしてる」


 ミナモは上着の学ランを脱ぎシマの肩にかける。

 そして明るさの消えた小さな声で続けた。


「……見てて痛々しい、ね。歩けるから、ごめんもっと軽傷だと思ってた。こんな傷だらけで、こんなことになってるだなんて」

「背骨とか頭とかに刺さらなくててよかったって言ってくれよ。俺は生きてる、あのでかいのに追われて生きてる、それだけで今は十分だからよ」


 二人は向き合うとお互いの無事を確かめるように抱き合った。


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