破壊の一撃 5
建物の中に入り奥まで進む。
何かしらの診療所のようでソファーの並んだ待合室の奥に受付が見える。
「逃げ切れたのか? 俺をあきらめて他を追いかけたか……くっそ痛ぇ」
全身に切り傷のあるシマの片腕には細長い鉄のかけらが食い込んでいて、背中には小さなガラス片がいくつも刺さり血の跡が床に点々と続く。
外での戦いの影響で一定の間隔で重殻が地面を殴る振動が伝わってきて診療所内の物が小刻みに揺れる。
「また怖い思いさせたな」
頭を軽く撫でてやり双子に息があるのを確認した。
双子も怪我をしていたがほとんどが擦り傷程度でシマほどではない。
――痛々しくて見ていられない。手当てしたいが……ああ、ここはエレベータ前の診療所か昔風邪をひいたときに来たことがある。内科だったが手当てできるものぐらいあるだろ。
見覚えのある建物の構造に安堵を覚え、シマは待合室のソファーに双子をおろし怪我の具合を見る。
血だらけだったツユに足に金属片が刺さるもそれ以外に大きな怪我はなく、その血のほとんどはシマから流れ出たものとわかりほっとした。
「きっとこの傷は何針か縫うだろうけど死ぬほどじゃない、とはいえ」
入り口のガラス戸の向こうは半壊した建物が見え、少し遅れてつぶれた車両が落ちてきて建物全体が揺れる。
――逃げるにも治療できる人を探すにも、生体兵器がいなくならないとここから出られないな。
壁から外れ破損した機器類が跳ね回っている転がる装甲車内で双子を守り、かわりにダメージを負うことになったが、その後の飛んできた無数の破片が刺さった方が傷は大きい。
かすった破片で切った傷口からとめどなく血が流れている。
触れれば痛みが走り傷口から滴って床に落ち血だまりができていた。
「俺の手当のほうが先だなこりゃ……血だらけじゃんか俺の体。ハハハ、やばいふらふらしてきた」
シマは自分の怪我の様子を確認していると、一つ一つ建物の中を確認していたメモリとギンセツが彼らを見つけ建物に入ってきた。
シマの様子を見て二人ともエクエリをしまって駆け寄る。
「無事だったか、オウギョクさんが心配していたぞ」
「どう見ても無事じゃないですけどね。大丈夫ですか、……痛々しい。重殻は装甲車を追っているからここは安全でしょうけど、それまでオウギョクさん一人に任せてしまうことになる」
「仕方がないだろう、生存者の救出を頼まれたんだから。それにギンセツのエクエリの弾種を変えるんだろう」
「お願いします。あの殻を貫通できないんで、炸裂式電撃弾で弱い部分から焼いていこうと。そのためにはあの土煙なんとかしないといけないんですけどね」
駆け寄るとメモリがポーチから包帯を取り出し手当の用意、ウェットティッシュで手を拭く。
ギンセツが受付の椅子を引っ張り出しシマを逆向きに座らせると、彼の背中の怪我の様子を調べポーチからピンセットを取り出す。
「傷が、破片も刺さっていて。何を使うか……あとが残るが薬品でとめる。破片を抜くとき痛むぞ、歯を食いしばれ」
「俺より先に双子を」
赤と青のガラス玉がひとつづつはまった星の川が描かれた王都のシェルターのシンボルマークの刻まれた小瓶を数種取り出し並べていくと、そのうちの一つのふたを開けピンセットを握る。
「どう見たって君のほうが大怪我だろう。君の傷の治療が終わったらこの子の破片もとるから、それとも失血死したいのか? 輸血できる血液があるわけでもないし治療が遅れれば、危険な状態になるのは君なんだ、ぞっ」
メモリはシマに刺さったガラス片をピンセットで掴むと力任せに引き抜いた。
呻くも声を出せば生体兵器が戻ってくる可能性があるためこぶしを握り腕を震わせ叫び声を押し殺す。
素早くメモリは薬品瓶の中から粘土のような塊を小指で掬い取りガラス片を取り除いた傷口に押し込む。
「あがっ! なにを!?」
「強力な治癒剤だ、血液と反応し固める。ひび割れた建物を修復するパテの動物版だと思ってくれ、再生時にそれは栄養として分解し血管が通り皮膚の一部になる。服とくっつくかもだが後でなんとか自分でとってくれ」
「そんなものがあるのか、っつぁぁ!」
「王都でしか生産してなくて、とても貴重で精鋭でもそうポンポンともらえないがな。この傷なら仕方がない。時間がないどんどん抜いていくぞ」
メモリは話を続け容赦なくシマからガラス片を抜きとった。
横にいるギンセツはその間メモリの手と流れるの血をウェットティッシュでふき取っている。
大小10枚ほどのガラス片をピンセットで取り除き、最後に細い金属片を取り除くころにはシマは体に力が入らないほどに衰弱していた。
手足の切り傷は浅ければ絆創膏、深ければガーゼと包帯でなんとかしシマの治療を終える。
「終わったぞ、よく休め。もうできることは何もない。さぁ、次はこの子の傷だな、それが終わったらギンセツのエクエリだ」
「お願いします。オウギョクさん一人で戦っているんですから」
次第に遠ざかっていく振動を感じながらメモリはツユの足に刺さる金属片に手をかける。