破壊の一撃 3
壁に空いた穴からさらに爪を深く食い込ませ引き裂くように壁に空いた穴を広げていく。
運転席側は完全に破壊させ半身を車内に突っ込んできた生体兵器をメモリが撃退する。
「もう、もたない」
壊れていく車内、戸棚の医療用の薬品瓶が床に落ちて割れていき錠剤や薬品が床にこぼれていく。
メモリの弱々しい声にだれも何も言わない。
消毒用のアルコールやアンモニアなどの匂いが混じり車内は腕で鼻を覆うなどのしないと涙がこみ上げるほどの異臭が立ち込めるが生体兵器の手は止まらない。
『そこの装甲車、中に誰かいるなら全員伏せろ。これから一斉射する。加減ができない、巻き込まれるなよ』
突如聞こえてきたスピーカーの呼びかけに慌てて壁に空いた穴に向かって車内の物を壁に寄せ盾にする。
それから数秒後、無数の光の弾が装甲車を襲う。
奇襲ならまだしも呼びかけをして存在を知られていたため、体に攻撃を受けながらもニンジャのそのほとんどが車両の裏へと避難し交わされる。
攻撃してくる方向と距離を測り増援からの呼びかけに反応し攻撃を避けたニンジャたちが、援護射撃をしてくれた一般兵たちを襲いに行く。
「アカバネ君、シアちゃん」
「はい!」
装甲車への攻撃が終わると待ち伏せがないかの様子をうかがい、車外に飛び出し一般兵のもとへと向かおうとするニンジャの背後から攻撃し挟み撃ちにする。
ニンジャたちは逃げ場を失い戦車からの一撃をもらい体に大穴を開け次々と地に伏してていく。
体に無数の穴をあけ渋滞の無人の車の間を縫うをように走るも最後は距離を詰めたミナモとギンセツにとどめを刺された。
助けに来た一般兵たちは装甲車と戦車に乗っており彼らにに被害はなく、戦車は渋滞の車を押しのけて後続への道を作りエレベーターのある施設の前にやってきた。
戦闘が終了し、残してきたメモリとシマたちがボロボロの車両から降りてくると大きく深呼吸をして新鮮な空気を吸う。
「ふぅ、一時はどうなるかと。それにしてもまるで本で読んだ氷を割って進む船みたいだな」
「くそっ、まだ鼻がおかしい。これ容赦なく廃車にして言ってるけど、賠償はみんなシェルターのほうに行くのか?」
先頭を走る戦車が2両、そのあとに続く装甲車が4台。
車、バス、トラック道を塞ぐすべてを押しのけ強引に道を作り、バイクや押し潰された車両の窓ガラスが次々割れて履帯の下に消えていく。
「あの戦車戦った跡がないな、綺麗な状態だ。ほかの防壁で待機していた予備の兵力が増援に来たようだな」
「なんであれ、生体兵器に襲われないならそれでいいや。俺はもうあんな思いはごめんだ」
「私もだ、特定危険種以上は戦っていて生きた心地がしない」
「わかっていて、何で精鋭になったんだ?」
頭を抱え私もよくわからんと吐き捨てるとメモリはギンセツのもとへと駆け寄っていった。
車の上を歩きミナモが戦車のそばに近寄ると、後続に指示を出している車長に声をかける。
「おかげさまで助かりました、どうしてここに」
「少し前に特定危険種と交戦していた部隊が全滅した。俺らはその増援でそれの捜索にたまたま付近を通りかかり大きな音が聞こえ通りかかっただけなんだ。この付近に重殻がいるはずなんだ」
「重殻……」
「どうだろう、相手は特定危険種、精鋭として戦闘に協力してくれないか。すでに40人余りが犠牲になっている。今、ある戦力でも勝てるかどうかわからない、しかし精鋭が加わってくれれば勝機がある」
わかりましたと車長の問いかけに二つ返事で答えを返すミナモ。
「でも戦う前に彼らの安全を、シマと私の家族を避難させてもらえませんか。背でに十分怖い思いをしています。戦うにしろ時間を稼ぐにしろこれ以上危険に巻き込みたくない」
「わかった、装甲車で防壁の前まで送り届けよう。一応残った精鋭は市民を守るため防壁前に集結しつつある」
そばに倒れている生体兵器が死んでいるかをメモリが確認すると、ほっと胸をなでおろしギンセツとともに施設の階段に座り込む。
耐熱版がほとんど剥げ落ち内張りの耐熱の綿があたりに散らかっていて、風が吹くと転がるように吹き飛んでいく。
「今度は本物の装甲車だ」
「これは小型の生体兵器なんかの攻撃じゃびくともしないな」
双子を抱き上げ車から下ろしていると、話が付いたとミナモがシマたちのほうへと帰ってくると戦車の後ろをついてきていた装甲車を指さす。
「お疲れ、シマ。装甲車1台がシズクとツユを乗せて避難してくれるって。シマも怪我してるしよく向こうで休んで、警備兵なんだから無茶しちゃだめだよ」
「ミナモも無茶すんなよ、この二人がいるんだから大きな怪我とかして泣かすんじゃないぞ」
「うん、それじゃ。ちゃんと逃げ切ってね」
「怪我するなよ。さっきの戦いで思ったけど、精鋭であっても俺ら一般兵と変わらない、ちょっと生体兵器相手に優位に戦えるってだけじゃないか。雑誌に書かれていたような人知を超えた存在じゃない、下手をしたら生体兵器に殺され死んでしまうようなそんなあぶない場所で戦い抜いているだけだ」
戦車の後続の装甲車から一般兵たちが下り周囲を警戒するように広がり、シマ達の乗っていたボロボロになった装甲車から運転手の遺体を見つけ運び出す。
「ボクはシェルターを住む人を守らないと、生体兵器に居場所を奪われた人がつらい暮らしをしてほしくない」
そういうミナモの物言いは軽く笑いながら話すも武骨な大型のエクエリと包帯の巻かれた頭の彼女姿を見て、シマは愛想笑いをしようにも笑うに笑えない。
「前にミナモの精鋭の知り合いが死んだとき、その妹が泣いていてお前はもう誰も泣かしたくないって言っていたよな。俺も同じだ、お前に何かあって双子が泣く姿を見たくない。俺が、俺に戦う力があれば……」
落ち込むシマのわきを小突くミナモ。
彼女は強く笑って見せる。
「そんなこと言わないで、生体兵器と戦って痛いし怖いしいいことないよ。シマは仕事頑張ってるじゃんシェルターのために。それなのに、ボクが責めてきた生体兵器を倒せなかったばかりにこんなことになって、シズクとツユに怖い思いさせてシマに怪我までさせて」
「お前以外にも精鋭はいたんだろ、それでも防壁が突破されたんだお前ひとりのせいじゃない。それについこの前まで物資も底をついていて、いつこうなってもおかしくなかったんだ。よく今まで守ってくれたって褒められてもいいだろ、な」
シマの体を強く抱きしめシマの頭をなでるとミナモは耳元でささやくと、シマと別れ双子のもとまでいきしゃがんで目線を合わせるとその手を握って話をする。
「これからお姉ちゃんは、残った怖いやつを倒してくるからね。終わったら迎えに来るから、それまでお兄ちゃんの言うことを聞いてね」
「おわかれ? お仕事?」「またあとでね」
戦闘中で非戦闘員がこれ以上この場に長居はできず装甲車にシマと双子を乗せると、渋滞で通行止めとなった道を装甲車は質量と重量で押しのけ強引に突破しその場を去っていく装甲車。
避難している市民が集まる防壁を目指し装甲車が角を曲がり見えなくなるまで見送ると、ミナモは廃車両からメモリが運んできた爆薬の入ったリュックを背負いなおす。
「シマ、二人をお願いね……」
「行きましたね」
「私たちは今度は重殻と戦うのか、見たところあれは蝦蛄か何かだろうな。間合いに入られたら強化繊維でもその攻撃を絶えることはできないだろう。そして、物を弾き飛ばしてくるという遠距離攻撃まで覚えている、実際ほぼ災害種と言っていいレベルの生体兵器だぞ。絶対後で格上げされるだろうな」
「そうだね、何とかしてこれ以上被害が広がらないようにしないと」
「重殻は一匹さっきみたいに包囲されることはないですからね。増援が来るまでこっちに気を引けばいいだけですから、倒しまではしなくていいでしょう」
「本当だな、気を引くだけだな」
動き出した戦車たちに合わせ装甲車を降りた一般兵と、彼らと足並みをそろえミナモたちは重殻を探しに移動を開始した。