破壊の一撃 2
助手席にいるメモリがエクエリを構え窓に顔を当て暗闇に目を凝らし外の様子をうかがう。
「エレベーターでなく車両で地上に戻る道はないのか」
「車両の移動は全部エレベーターだ階段ならあるが車両の通れる道路はない、それも数百段ある螺旋状の急階段だ装甲車じゃ上がれない」
「くぅ……。そういえば最下層に落ちていったエレベーター、このシェルターの避難区画は大丈夫なのか」
「緩やかに降下していったから下でぐしゃぐしゃになることはない、最下層の扉はかなり分厚いから早々破られるもんじゃない。あそこは地上と違って空気供給が、水の電気分解で酸素を作っているとかで地上までパイプが伸びてるわけでもないしここと同じようには生体兵器は入れない」
「二酸化炭素の処理は? 重い気体だから下にたまるはずだが」
「エレベーターのあれをパイプの代わりに、発生させた空気とかで無理やり押し出してるとかなんとかそんなんだった気がする、習ってけどそこまで細かくは昔すぎて覚えてないな。興味があるなら後で調べるかミナモに聞いてくれ」
暗がりに目だけを光らせ、うすぼんやりと浮かぶ黒い影となったニンジャが襲い掛かってくる。
後部と上部だけでは守り切れず結果、側面に回り込み張り付かれ体当たりや飛びつきで赤い装甲板がむしられていく。
揺れる車内で負傷し追ってくる生体兵器を正確には狙えないまま片腕で大型のエクエリを撃つギンセツはバッテリの取り換えに苦労しながら、上窓から車内に引っ込みバッテリーの交換を行っているミナモに話しかける。
「ダメだ、避けられます、引き撃ちなのに暗闇で的確に。テールランプで追ってきてるんですかね、どうにかして切れませんか」
「消しても夜目が効くんだろうから追ってくるよ、非常灯が付いてるしあれでも灯りには十分なんだと思う」
彼女も余裕がなくバッテリーを取り換えると素早く半身を車外に出してとりついた生体兵器を落とす。
何匹かにとどめを刺しているも数が減る様子はない。
同時に襲い掛かりニンジャの一匹がそのタイヤに爪を立てた。
車内に上から押し上げられるかのような強い衝撃は走った。
サイドミラーを見て助手席のメモリが吠える。
「タイヤをやられた! 多輪だからなんとかなってるがあと一か二個やられたら走行不能だ、何とかできないのか!」
「ジグザグに走れば追いつかれるし、揺れるのは車内で戦ってるやつの負担にならないか? このまままっすぐ走るしかない。見えたぞもうすぐ暗闇を抜けられる」
装甲車は損傷を受けながらも反撃し停電しているエリアを抜け、まぶしいばかりの光の通路に戻ってくる。
その瞬間ニンジャたちは追撃をやめ装甲車から離れるとシャッターを破って建物の中に消えていった。
「明るいところに出たとたん追ってこない、逃げ切った……んですかね」
「ミナモたちがやってくれたか、ちょうどよくエレベーターホールまでもうすこしだ、先ほどみたいに落ちていなければこれで地上に戻れる」
そのご戦闘もなくエレベーターホールに着き装甲車が止まると助手席を飛び降りメモリが走り、開け開けと言いながらボタンを連打しエレベータが来るのを待つ。
扉が開き中に生体兵器がいないことを確認すると耳を澄ませ慎重に装甲車はエレベーターに乗り込む。
「生体兵器いませんでしたね、完全に勝機はないとあきらめて別のところに行ったのでしょうか?」
「その方がいいけどね。疲れた、とりあえずもっと丈夫な車両に乗り換えたら防壁へ行かないと、避難している人が大勢いるだろうから戻ってきてくれるまで守らないと」
エレベーターが動き出すと上に行く階層ボタンを押してきたメモリを回収し、警戒をギンセツに任せミナモはシマのいる運転席へと向かう。
フロントガラスの割れた運転席、生体兵器の爪痕で座席は破れ死んだ運転手の血で辺りは汚れている。
「シマ、腕は大丈夫?」
「今まで生きてきた中の怪我で一番の痛みだけど、こんな時に痛がってもいられないだろ」
「一応、痛み止めも塗っておいたのだが」
「そんな状態で運転任せてごめん」
「戦えないんだから、運転は俺でいいだろ。精鋭は戦いに集中してくれ」
「私も役に立てていないんだ」
扉が開き地上のエレベーターホールに出る。
電気も消え無人で広い建物内にエンジンの音が反響するだけ、装甲車はエレベーターホールのシャッターの閉まった出入り口の前にとまる。
「なにもいないみたいだな、外に出るにはシャッターを開けないと」
「地上で待ち伏せされてるのかと思ったけど……んじゃボクは戻るね、そのまま突っ切って、窓ごと突き破って」
「住宅街、それにここは……おそらく道路は渋滞したまま無人の車両がそのまま放置されてるだろうな」
奥へと消えていくミナモに聞こえないようにまたかと小さくメモリ。
見送るとシマは装甲車をゆっくり前進させシャッターの閉まった出入口へと突撃する。
「あいつ頭怪我してたんだな」
「大した傷じゃなかった、血もすぐに止まったしそう心配することではない。髪に隠れて傷も目立たないはずだ」
簡単に破壊でき車内に日の光が入る。
目の前に広がる誰もいない町に乗り捨てられた車たち、周囲を見回しなんとか装甲車が通れそうな道を探していると、一瞬空が隠れた。
顔を上げると高所から滑空してくるニンジャたちの姿。
「さっき引いたのは、ここから上がってくると知って先回りするためか!」
「前見て、前!」
逃げる暇もなくとりつかれ、驚いた際に踏んだアクセルで装甲車が急発進しまっすぐ渋滞に突っ込む。
フロントに飛びついていた生体兵器を車と車の間に挟んで押しつぶし、天井に上っていた一匹が前方へと飛ばされる。
衝突の勢いで座席から滑り落ち体勢を崩すも、隣で慌てて小型のエクエリを構え車内に入ってこようとするニンジャを迎え撃つメモリ。
「奥へ逃げて! 私たちが戦うから、じゃないと私も逃げられないんだ!」
よほど慌てていたのか治療した肩を思い切り掴んでくるメモリ、ドアを食い破られる前に奥の部屋に逃げてきた。
天窓を閉め壊れた後部のドアから様子をうかがうニンジャを追い払いながら、双子を車内の中心に集めミナモが上から覆いかぶさるように抱きしめエクエリを構える。
そうこうしている間にも音を立て耐熱版の装甲を剥がされ、ついに壁から生体兵器の爪が伸びてきた。