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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
2章 迫る怪物と挑み守るもの ‐‐私情の多い戦場‐‐
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防壁の内側、2

 大扉の外、枯草と枯葉を踏みながらシェルターに戻る途中。

 生体兵器の討伐のためシェルターから追加の増援が来たが戦闘はすでに終了しており、彼らはそのまま負傷者の手当てや生体兵器の死骸の回収に手際よく移った。


 実戦は少なくとも日頃から訓練しているのか一般兵の隊長が優秀なのか現場を見てからの判断が速い。


 戦闘を終えたトガネとライカは、彼らの横を素通りしてさっさと増援を乗せてきた輸送車に乗り込む。

 赤茶色に塗装された兵員輸送の車内は二十人ほど乗れる広く車内両端二隻が並んでいる。

 トガネとライカはお互いに近くも遠くもない距離に座った。


 そしてトガネが運転席で他の部隊の情報を聞き集めていた運転手にシェルターの中に戻るように頼む。

 運転手は突然の来客に驚いていたがしばらくして輸送車が動き出す。

 トガネは胡坐をかいてくつろぎ、ライカは彼の向かい側に座りなおす。


「トガネ先輩、今回の生体兵器楽勝だったね。というか今日やっぱり異常なほど暑くない? 少ししか動いてないのに、すごい汗かいたんだけど」


 そういって額を制服の袖から出ているパーカーで拭う。


「確かに今日は暑かったけどそれだけではないと思うよ」


 彼女の場合はおそらくパーカーのせいもあるだろうトガネはそう思ったが口には出さない。

 ライカは服装を気にする、強化繊維でできている制服を着ていなければ生体兵器の攻撃を受けたとき致命傷を負う脱ぐことができないため逆に着こむ。

 そのためライカは厚着になる。


 暑さの元凶であるブレザーとその下に来ていたパーカーを脱ぐと枯葉や泥を払う、ある程度落ちたところでそれを畳んで膝の上に置いた。


「確かに、普通の生体兵器相手に俺っちと一緒に出てくることなかったね。どちらか片っぽで十分事足りたね」


 今回相手にした生体兵器はそこまで厄介ではなかった。

 ただ単に人との戦闘経験が少なかったのか、はなからそれほど凶悪でなかったか、あるいは囮や威力偵察を目的に作られていたのかもしれない。


「それな、地面転がって草まみれだしマジで怠い」


 暑い暑いと車内を見渡し扇ぐものを探すライカ。

 大きい枯草や枝は取れたが、細かく千切れた葉はまだ緑色の髪や制服についていた。


 シェルターへと向かうため走り出した輸送車の中でくつろぐ二人。

 どうせシェルター入ったところですぐに降ろされるのだろうが、それまでは暇な時間だ。


「とういえばトガネ先輩、さっきの戦い弱そうな奴選んでなかった? いくらなんでも倒すの早すぎでしょ、ありえないんですけど」

「俺っちに、生体兵器の強さを見極める能力なんてないからね、たまたまだよ。あ、でも、女の子のスリーサイズなら体のラインが見えれば僅差で当てられるよ俺っち」


 ライカはきつい目つきで明らかな嫌悪と軽蔑のまなざしをトガネに向ける。


「何それキモイよ。背筋ぞっとした……あーあ、それにしても暑い、先輩冷汗スプレー持ってない?」

「ごめんね、ちょっと今は持ってないかな、着替えた時に部屋に置いてきたっぽい」


「ちょっと期待したのに使えないやつ」


 そういうと先ほどの戦闘でライカの制服に着いた細かいごみを払い始めた。


「それよりライカちゃん」


 トガネは姿勢を正すとライカに向き直る。

 真剣な眼差しにライカは危険を感じ取り思わず身を引いた。


「なに? じろじろ見て、なんかついてる?」


 そういうとライカは自分の髪やスカートを撫でるように払う、トガネが見ていたのはそれらではなくゴミにばかり気が行って彼女は気が付いていなかった。


「シャツが透けてるよ」


 思わず立ち上がって自分のシャツを確認する。

 汗を吸い多くの皴を作り肌に張り付くシャツ。


「見んな! 馬鹿! 引くわ!」


 そして自分の姿を理解したライカは顔を真っ赤にさせて吠えた。

 三原色のエクエリを投げつけ意外と本気の殴りかかってくる。


「教えてあげたのにライカちゃん暴力はひどくない!」

「五月蠅い!」


 ライカの拳を座った状態で躱すと、バランスを崩した彼女を受け止めた。


「走行中なんだから、立ち上がらないの。水玉かわいいね。俺っちは好きよ」

「五月蠅い、トガネ先輩がいけないん……だから、胸をみるなぁぁぁ!」



 そもまま一通り暴れると落ち着きを取り戻し、畳んだ制服を羽織ってボタンを留めるとライカはトガネの横に座る。


「はぁ……怠い、汗かいた。先輩、そっちのキラキラした方のエクエリ貸してください」


 彼の持っている暗い赤色の鏡のようなエクエリを指さした。


「ん、いいけど。どうしたの?」

「前髪伸びてきちゃって、整えるときの鏡に借りようかと」


 黒っぽい赤、ワインレットのエクエリは鏡面加工が施されていて色を我慢すれば鏡として使えた、というよりトガネの場合そういうふうに使っていることが多い。

 トガネはそれをライカに渡す。


「ありがとうございます」

「別にいいよ、俺っち優しいから」


 丁寧に差し出されたトガネのエクエリをひったくるように奪い取り、ライカは自分の顔を映して髪を整える。


「変なアピール止めてください、キモイから。それにさっきのことは簡単には許しませんから」

「親切に教えてあげたのに」


「先輩はストレートすぎなんです、もっとそれとなく教えてくれればいいのに」

「慌てた顔もかわいかったよ」


「先輩、避けないでちょっと本気で殴られてください」


 金属の固まり長時間持つのは疲れ片手も使えなくなるため、エクエリを膝の上に置き濃い緑色の乱れた髪を整えヘアピンで留めなおす。


「それともう一ついいですかトガネ先輩。今、携帯端末持ってたりしてますか?」


 落ち着きを取り戻した彼女は、今一度自分の制服を検めた後トガネに尋ねる。


「持ってるけど」

「悪いけどそれも貸してください。私のは着替えた時に部屋に置いてきたらしいので」


 ポケットを探り携帯端末を取り出すとライカに渡す、彼女はそれを受け取ると手慣れた操作で誰かと通話した。


「……あ、もしもし副隊長? 私だけど」

『え、あれ? これ私のトガネの着信……あれ?』


 通話の向こうの相手の声はパニックを起こしていた、無理もないだろうライカはトガネの携帯端末を使っているのだ、思っていたのと違う人の声が聞こえたら混乱するだろう。

 しかしライカは名乗ることをせずそのまま話を続ける。


「もう戦闘終わって帰って来たんだけど、副隊長今どこにいる?」

『えっとえっと、今トハルと基地の近くでのんびりしてます。その声ライカちゃんですね』


「あ、なんだ、デート中か。ごめんね変なタイミングで連絡しちゃって」

『別にっ、ちがっ、そんなのじゃないです!』


 トガネはライカの隣にいるので会話の内容が彼にも聞こえている。

 年上にも容赦ないライカのジョークに裏返りかけた声が端末の向こうから聞こえ、向こうの状態もおおよそわかり、トガネは苦笑いしていた。


「とりま、部屋に戻れないから合流したいんだけど」

『ああ、わかりました。でしたら部屋の前で待っててください私たちもすぐに戻りますので』


「おけー、わかった。んじゃまた後で……ん、終わった。ありがと」


 通話を終了させると端末をトガネに投げつけ乱暴に返した。


「丁寧に扱って。通話の向こうからトヨっちのすごい声が聞こえたけど」

「副隊長、今サジョウ隊長と一緒にいるってさ」


 先ほどの通話と異なり、トガネと会話するときのライカは不機嫌そうに声を落とす。


「んじゃ合流?」

「とりま、戻ってくるから部屋の前で待っててってさ。早くつかないかなシャワー浴びたいし早く私服に着替えたい」


 胸元を隠しトガネの視線を警戒するライカ。


「ライカちゃんの私服って毒持った生体兵器よりきつい色してるの多いよね」

「そう? 別にいいじゃん外では着ないんだから」


 雑談をしていると兵員輸送車は速度を落とし止まった。

 大扉の前に着いたようでライカは落としたエクエリを拾い上げ車から降りる用意をして出ていく。

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