突破 7
地下を進む赤い装甲車は無人の商業区を走り抜けていく。
直線の道を装甲車の出せる最大速度で走り周囲のごみが舞う。
「どこ行くのー、お買い物?」「おうち帰るの?」
「地上は鬼がいるから下に逃げてきたんだよ、もうすぐ終わるからこのままおとなしくしててくれ。狭いし物も多い動き回ると危ないからシートベルトも忘れずにな」
双子は声を合わせ返事をした。
仲良く歌っている姿に警戒でピリピリしていた警備兵たちの表情も柔らかくなる。
エレベーター付近に向かって進んでいると進行方向に二両の赤い装甲車が見えてきた。
「仲間がいるな、エレベーター待ちか。地下で避難誘導していたやつか? 避難は終わったともに逃げるよう伝えてくれ」
「了解、連絡を取ります」
エレベーターに近づくにつれ徐々に速度を落としていった装甲車は突然急ブレーキを踏む。
勢いでシートベルトをしていなかった警備兵の一人が転倒した。
「くっそいてぇ、なんで急停車した、何があった!」
「何か様子がおかしい、無線に反応がないぞ」
「正面の装甲車に人のいる気配がない」
双子を落ち着かせシマが遅れて運転席へ様子を見に行く。
通路の先に停車する二台の装甲車から人の出てくる気配はなく、人のいない銃座からは放水銃の水が流れ出ている。
その水に交じって赤い水が流れ出ていた。
「なんだあれは、血、なのか? ここからじゃ判別が掴ん」
「どうなってるんだ、ここは。少し見てくる。君は子供たちとここに居ろ、連絡が入るかもしれない無線を見ていてくれ」
無線を取っていた警備兵と銃座にいた二人が出ていき、前方にとまる二台の装甲車のほうへ向かっていく。
念のためにと対人武装のゴム弾銃を持ち出していった。
シマは無線の前に座り正面の装甲者達からの応答を待つ、その間も地上からの戦闘情報が入ってくる。
「葉欄隊が一匹仕留めた! 爆薬を使って、ならあいつしかいねえな、よかったミナモは生きてる。まだ無事だ」
「お姉ちゃん?」「どこにいるの?」
「ミナモは上で戦ってくれている。大丈夫、生体兵器を全部倒して地上でまた会えるさ」
「鬼じゃないの?」「せいたいへいき?」
運転席に向かうと出ていった二人が装甲車のほうに到着する。
床を流れる水を調べた後装甲車の裏に消えていった。
『おい、聞こえるか? この装甲車の近くにだれもいない。しかし周囲にかなりの血がある、量としては致命傷を避けられないレベルの量だが怪我人がいない。今確かめたがもう一つの装甲車も中は空だった。これからエレベーターのほうに行く』
無線から連絡が入る。
二人が装甲車の裏から出てきて一度手を振りエレベーターのほうへと向かっていった。
「何もいないにしてもあの装甲車をどかさないとエレベータに入れない」
『わかった、帰りにどかして……なんだ、どこから!』
低く獣がうめくような音が聞こえる。
周囲を探すと何もいなかったはずの通路の天井に赤茶色い毛の生体兵器の姿。
小型の生体兵器で獣型というところまでは実際に戦ったことのないシマたち警備兵でも分かった。
天井から通路装甲車の裏に飛び降りるとエレベーターへと向かっていく。
「生体兵器だ、にげろぉぉぉぉ!」
シマが無線に向かって怒鳴るが返事はなく一発のゴム弾が通路を跳ね返る。
大声に驚き耳を塞ぐ双子。
装甲車場バックで下がり急反転してきた道を引き返す。
築かない間に天井に新たに5匹現れていてエレベーター通路から血を滴らせた生体兵器が一匹、通路に降り立つと離れていく装甲車を追いかけ始めた。
「くそ、追いつかれる。もっと速度は出ないのか、何かで追い払はないと。シズク、ツユはそこでじっとしててくれ、今危ないから、な」
「わかった、怖いからじっとしてる……」
「あぶなくないようにおねがいします……」
シマはハッチから顔を出す。
放水銃を生体兵器に向けが避けられ、仮に当たっても傷をつけることはできない。
特定危険種ニンジャ、半円上の壁と天井を爪を立て壁を走り膜でつながった手足を広げ滑空し、地上にいる囮に注意をひきつけ上空から強襲する、その独特な飛行方法からなずけられた。
群れで行動し敵をチームワークで仕留める。
「上だ……空気の循環器! あそこから配管通って入り込んできたんだ!」
「速度を上げる、振り落とされるなよ!」
加速するも引きはがすことはできずカーブの際の減速で距離を詰められていく。
タイヤが白煙を上げながら進路を変えた。
「どうして曲がる、追いつかれるぞ! こっちには生体兵器を倒す武器なんてないのに」
「ずっと直進してんだ、壁に激突しろと? いいから撃退し続けろ、エレベーターで地上に上がるときの扉を閉めるくらいの時間を稼げるほどに!」
運転手と言い争っている間にも生体兵器たちは距離を詰め迫ってくる。
放水銃があえて役に立ったことといえば、床を濡らし走る生体兵器を何回か足を滑らせることができたくらい、それでも大した時間稼ぎにはならなかった。
滑空してきた生体兵器の一匹が装甲車の装甲に傷をつける。
「何をしている生体兵器が来たぞ」
「放水銃で何ができるってんだ、ああ! 水が!」
消火栓につながってもない、装甲車のタンクに入っている水の量は少なくあっという間に水の勢いが弱まっていき放水銃は水を出さなくなるとシマは車内に引っ込んだ。