突破 3
シェルター内では警戒レベルがまた一段高く引き上げられた。
市民たちは警備兵たちの誘導指示に従い地下へと続くエレベーターへと向かう。
『現在、生体兵器の攻撃による防壁突破の恐れが出てきました。非番、待機中の防衛隊は予備の車両を含めて交戦中の防壁へ集まってください。シェルター防衛の精鋭も持ち場を離れ戦場へと急行してください、住民の皆さんは仕事作業を中断し避難区画またはシェルター脱出プログラムに従い輸送車に乗り込んでお待ちください。繰り返しお伝えします、現在……』
窓のしまった車内にまでシェルターの放送の音は入ってきていた。
「いいのキュウ? 精鋭呼ばれてるけど」
「じゃ、ヒャッカ一人で行けば?」
バンの後部座席には眠っているココノエとヒャッカの家族4人が乗っている。
荷物をまとめられず着の身着のまま、彼らは何が何だかわからないまま車に乗せられ防壁の出口まで来ていた。
運転席にはキュウが助手席にはヒャッカが座っていて、フロントにバッテリーを並べ小型のエクエリを膝の上に乗せている。
ピリッとした空気の中ヒャッカの父親が声を潜めて問いかける。
「あのいきなり集められて、どこに行くんですか? 指示では避難するようにと……」
「我々は一足先にこのシェルターから逃げます」
ヒャッカの家族の横に座っているココノエに話しかけたが、静まり返った車内ではキュウの耳まで届いていたようだ。
乱れた髪を整えていないためみっともない状態だが彼女は気にも留めない。
「放送ではまだ防壁が壊されるかもしれないって状況で、逃げる段階ではないと……」
「突破されれば逃げれない、突破されてからじゃ遅い」
苛立っているようで手はハンドルと頭を押さえたままキュウは防壁が開かないと呟き頭をかきむしる。
精神的に問題のありそうな運転手にヒャッカの家族は顔を見合わせ、子であるヒャッカのほうを見る。
背後からの視線を感じ困ったヒャッカはミラーで後ろに座るココノエのほうを見た。
「ココノエさん、何か言ってください戦えないけど一応隊長でしょう。キューちゃんがいつになくおかしいんですけど」
「俺だってキュウは止められない、俺が戦える状態だった別だがこの腕で戦えない、ヒャッカの言うことを聞かないのなら、もう好きにさせておくしかないだろ。戦う気がないんだから無理に言いつけても話を聞くとも思えない。だがキュウ、ここまでしないといけないのか?」
黄色いランプが付き始め防壁は開く準備に入っている。
何かが爆発するような重低音がシェルターをゆする。
奥歯をギリッと鳴らして焦るキュウは開くのを持っておれず車は開いていない防壁の前で進みだす。
「ダメっす、今回はダメっす、戦っては」
「なら逃げるにして、せめて装甲車か何かなかったの? こんな車じゃ表に出たら」
ココノエの後にヒャッカも疑問をぶつけるが彼女だけキュウに冷たい目で睨まれる。
「いま、手に入ると思う? そりゃ防壁を出て戦うっていえば借りられるだろうけど私たちはここから逃げるんだよ。逃げるために装甲車貸してくださいだなんて言えるわけないじゃん!」
「それは……うん……」
状況を知るためにヒャッカが持っていた携帯端末が一際は大きな声を上げた。
『突破! 防壁突破! 繰り返す防壁に穴が開いた! 重殻がシェルター内に侵入! 至急排除を! 穴の開いた防壁は車両で塞げ、ほかの生体兵器を入れさせるな! くそ、精鋭は何やってんだ!』
戦闘指揮所の司令官の心の声まで聞こえるほどの出来事のようで、途端にシェルター中で生体兵器信州を知らせるサイレンが鳴り始める。
それとは別に防壁が開きバンはキュウの運転のもと外へ出る。
「キュウ……ちゃん」
無線から聞こえてくる音声に後ろめたさを感じヒャッカが小声で呼びかける。
彼女は無言で防壁沿いに戦場とは反対側へと車を走らせた。
またひときわ大きな声で、携帯端末から指揮所からの声が車内に響く。
『後方に控えている大型の爬虫類生体兵器の正体が判明! さいがいしゅ、アシッドレイン! 壁に穴の開いたとたん急速に接近中!』
向かってくる生体兵器に防壁はほとんど抵抗ができなかった。
葉欄隊の乗った軽装甲車を横転させていこう特定危険種重殻は攻撃の威力を手加減し死骸をほとんど欠損させることのないまま吹き飛ばすことに成功した。
その結果、凄まじい勢いで吹き飛ばされた生体兵器の死骸は防壁に着いた砲台を狙い飛んでくる。
直撃を受ければ砲台は台座から弾け飛び、意志を持ったかのように天井と床の間をを跳ねまわると床へと転がる。
砲台のエクエリは巨大な金属の柱、それが簡単に舞ってしまう威力うっかり当たってしまえば部位欠損では済まない。
攻撃の手数が減り防壁内での負傷者が増える。
防壁だけでなく当然戦車隊にも影響が出た。
車体はびくともしなくても砲に当たればその勢いで無理やりにでも砲塔が勝手に回る。
それに対処しなければならないのは重殻だけではない、特定危険種4匹のほか並みの生体兵器も防壁に迫ってきていた。
重殻に注意がそれたとたん、それらが一気に距離を詰めてくる。