出撃の日 5
警報が鳴り始めて30分防壁前の戦闘はまだ続いている。
すでに最初に現れた生体兵器は退治しており、現在第二第三の生体兵器の出現情報をもとに一般兵たちは防壁の上を駆け回っていた。
「今まで平和だったのになんだって今日はこんなに生体兵器が多いんだ!?」
「逆に今まで出なかった分、集まり徒党を組んで襲ってきたんじゃねえのか!」
「新たに生体兵器が二匹、昆虫型だ。倒しても倒しても次から次へと砲台の数が足りない!」
『精鋭が仕留め損ねていた特定危険種の重殻が出現。情報を回す、精鋭は優先的にそっちに向かわせてくれ』
次々と現れる生体兵器の出現情報に連絡室も大慌てで防壁各所に指示を出す。
防壁内部では壁にかかるいくつもの受話器がベルを鳴らし、その対応に追われる形でオペレーターたちが受話器を取り続ける。
「なんか嫌な感じがする。今日の当番以外のほかの精鋭を呼び集めておいてくれ」
「これ以上増えられたら今のままじゃ対処できない、ほかの方角守ってる一般兵も呼び集めておくか?」
『さらに生体兵器が4匹、行方不明だった特定危険種、06ファイターと思われる生体兵器たちが出現。人手が足らない、戦車隊で足止めを、誰かほかの精鋭に声をかけておいてくれ』
部屋の真ん中に地形情報をまとめた地図を広げて生体兵器のあらわれた場所に駒を置いていく。
そこにシェルターの防衛隊の駒を置いてその場所と向かうように指示を出す。
「特定危険種が二匹同時だと! 昨日までだったら精鋭も一般兵もわんさかいて速攻で倒せたものの、なんで今日なんだ!」
「逆に精鋭が出ていったのを見越して襲ってきたのかもしれん。なんせ、精鋭がこのあたりの生体兵器をまとめて退治したから恨みでも買ったんじゃねぇのか」
彼らが地図とにらめっこして不満を漏らしても鳴り響くベルの音と生体兵器の発見情報は減らない。
シェルター中に響くサイレンだがすでに誰もがその音を少し五月蠅い騒音程度に聞き流していた。
ゴミ拾いの休憩がてら自販機でお茶を買いシマは住宅街のはるか遠くに見える戦闘中の防壁のほうを見る。
――それにしても今日はずいぶんと長いな、いつまでサイレンを鳴らしているんだ? 生体兵器が出てくるのが久々で、みんな戦い方でも忘れたんじゃないだろうな、訓練を1日サボればそれを取り戻すのに3日かかるっていうし。
防壁のほうへと向かう武装した一般兵を乗せたトラックや戦車が通り過ぎていく。
――今通ったのは追加の一般兵、防壁の砲台じゃ対処しきれてないのか? せっかく補充された戦車とか装甲車とかまた壊されて廃車にならないだろうな。タダでさえ人手不足なのにさらに整備士が基地に取られちまう。当番の精鋭は何やってんだちゃんと仕事してんのか。
何十分とサイレンを鳴らしていたスピーカーが突然止まり代わりに放送に切り替わる。
女性の声でマニュアルでもあるのか何かを読むようなどこか平坦な、しかし聞き取りやすく焦っているのか早口でスピーカーの向こうの人物は言葉を紡ぐ。
『生体兵器のよる防壁防衛の危険レベルが更新されました。防壁前での戦況は芳しくなく一部防衛線の決壊、確率は低いですが生体兵器の防壁突破の可能性があり現在、交戦中の防壁付近にご住まいの方々の避難令を発令します。一般兵の指示に従い一時指定された区域までの退避をお願いします。繰り返します、生体兵器による……』
繰り返し同じ放送が流れている最中、シマの無線から警備兵の上官の声が聞こえてくる。
無線の声は困った様子でシェルター内にいる警備兵へと一括で指示を出す。
『諸君、今の放送は聞いたな。出現した生体兵器の数が多く対処しきれていない。今集めているが増援が間に合うかわからない、付近の警備兵は市民の避難を呼びかけろ』
無線はそこで切れて士浜すぐに行動に移る。
――おいおい、本当に平和ボケでもしてたのか? 防衛線の突破って、壁の中に生体兵器が入ってきたらどうしようもねえぞ! 畑の方ならこっからでも行けるな、でもそこまで向かう足がねぇし、どっかに止まってないか。
お茶を一気に飲み干しゴミ袋を所定の場所に捨てるとシマは避難指定を受けた区域の誘導に向かうべく車両を探しに駆け出す。
シマが向かった先は駐車場、いつもはその辺を探せばどこにでも止まっていた装甲車やトラックなどはなく町の中でもそういった車両を見ない。
――そうだった、昨日の侵攻作戦でトラックの大半はシェルターの外へと資材運搬に向かったんだった。一応、たまたま通りかかった車両に乗せてもらいないか聞いてみるか。
車両が止まっていること祈りつつ駐車場をひとつづつ見て回っていたが、一向に見つからず車両を探すのをあきらめシマは大通りのほうへと向かう。
――残ってるやつも増援の乗せて防壁の外に向かうやつに使われてるだろうし、どっかで軽装甲車かバイクか止めてあるのを探さないとな。
避難指示が出ても車の通行量に変化はなくパニックが起きている様子もない。
ただ少し危険な状態なんだろうなと買い物袋を持った主婦やスーツ姿の会社員たちが話しているのを通り過ぎざまに聞いた程度。
――まぁ今までも何回か指示は出たことあったけど、結局突破されたことはなかったしこんなもんか。
大通りでたまたま通りかかった装甲車を見つけ手を振って乗せてもらおうとするがそこでミナモから通信が入る。