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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
11章 狂おしき崩落日和 ‐‐闊歩する巨兵‐‐
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出撃の日 4

 バスで市街地に降りるとシマは周囲を道路に転がるゴミを眺めたあと空を見上げる。


「今日は本当にいい天気だな、下向いてごみ拾いだなんてやってるのが馬鹿らしくなるほどの。どっかで昼寝でもしようかな」


 到着したばかりの市街地内の掃除を早々にあきらめ町の中をあるく。

 風が紙くず空に舞わせ缶を転がす。


「よそから来た一般兵たちがいなくなったってのに、このシェルターの治安はちっともよくならないか。マナーを守らないやつが多すぎる」

「あんた一人で何ぶつくさ言ってんの?」


 シマのことをひきつった表情で見ているキュロットスカートをはいたオレンジ色の制服の精鋭の女の子。

 ソメヒロ・ヒャッカはどこかで買ったナゲットを頬張りシマへと近寄ってくる。


「おおソメヒロか、なんでこんなところに休みか?」

「まあね、買い物の帰り。キューちゃんが隊長の見舞いに行くって途中で別れて、私今バスで家に帰るところだったんだけど」


「ちょうどいいや、お前もゴミ拾い手伝え。暇だろ」

「えー嫌だよ。汚いし、私関係ないじゃん。ていうかすごいね、よそ者がいなくなったとたん町は静かになった。中央区の渋滞もだいぶ改善されてた。やっぱりうちのシェルターは人が少ない方がいいね」


「ほら、お前の分のごみ袋。軍手はないけどな」

「いーやーだ。私はやらないよ」




 生体兵器の姿はなく廃墟は息が詰まりそうになるくらいに静まり返る。

 廃墟の一角にとまる装甲バス。

 その中での作業が終わり完成した装置から離れる作業員たち。


「準備整いました」

「こちらも準備完了です」

「それでは実験を始めましょう、初期電源を」

「初期電源動かします」


 作業を眺めながら指示を出しコーヒーを飲んでいたカガリは準備が整うとカップを置いて装置を眺める。

 分解してバラバラで運び込みカガリの頭の中にある設計図通りに組み立て完成するとバスと同化しバスの後ろ半分を占拠する喉になった大きな装置。

 基盤や無数の配線がむき出しとなりその装置から延びるコードとつながったいくつものノートパソコン。


「計器に問題はなし予定通りです」

「こちらも数値に異常なし、準備完了です」

「さてでは実験を始めましょう。電源を入れてください」

「了解。電源、入れます」


 起動させると装置から体の奥深くまで響く重たい音が鳴り響く。

 その振動を感じカガリは笑みを浮かべる。


「成功かしらね。依然出力は抑えられたまま?」

「問題はありません。設定した通り最低出力を維持しています」


「今回は起動テストだけだからここでのテストは終了、後は適切な場所でのこの試作機の最大出力のテストをするだけね。もうすこし数値の変化を記録したらかえって祝杯をあげましょう」


 バス内で拍手が巻き起こりカガリが装置へと近づいていく、突如その音は大きくなり音の間隔が早くなる。


「システムにエラー発生、エラー急速に広がっていきます」

「数値に異常、すごい勢いで……計測系振り切れました!」

「強制シャットダウン! 壊してでも止めなさい」

「了解、シャットダウン……停止を確認」


 耳だけでなく体中で音を感じ頭を押さえてカガリは指示を出す。

 ノートパソコンからの指示を受け付けないとなると装甲バスから持ってきた電源のコードを力任せに引き抜く。

 コードが抜けるとバチンと稲妻が走りノートパソコンはエラー画面になり装置は沈黙した。


「この場を急速離脱。シェルターには戻らずこのまま他のシェルターまで撤退です」

「マクウチシェルターにはいかないのですか!? ここからだとかなりの距離があるのですが、その間護衛はいないのですか」


 カガリの指示を受けて作業員の一人が慌てて運転席へと走る。


「そんなものを用意している時間はない、もうあのシェルターに戻ってもいいことなんてないわ。さっさと帰りなさい、できれば王都の方まで一気に全速力で。何度も言わせるなら生きて帰ったときはお仕置きするわよ」

「りょ、了解しました」


 他の誰もが座席に着く前にバスは急発進をしコーヒーカップ、ノートパソコン、固定されていない荷物やカガリたちをまとめてひっくり返す。

 激しく揺れる車内でカガリは手すりにつかまり立ち上がると座席へと向かう。


「この辺が安全だとしても早くしないと来るわ、さっさと逃げて頂戴」


 カガリがいなくなった後その廃墟に一匹の生体兵器が現れた。

 生体兵器はそこから見えるシェルターの防壁へとむけて移動を開始する。



 市街地のゴミ拾いをしているシマとヒャッカ。

 ゴミを拾ったそばから風で飛んできてきりがない状況。


「ずっと屈んでばっかだから腰が痛い」

「拾い始めてからまだ20分もたってないだろ、ごみ袋だって半分もたまってないし、ちゃんとやれよな」


 そばを通りがかった通行人にありがとうと言われ、やめるにやめられなくなり笑顔で軽く手を振るヒャッカ。


「私関係ないんだけど、こんなの一般兵の仕事じゃない」

「お前も元々一般兵だろ、ごみ袋一袋溜めたら帰っていいから」


「手伝ってあげてるのに上からとか……通信? あ、キューちゃんからだ」

「生体兵器でも現れたか?」


 ヒャッカはゴミ拾いをやめベンチに座り携帯端末を取り出すと通信に出る。


「どうしたの、キューちゃん、なんか買ってきてほしいでも?」

『ヒャッカ、今すぐ家に帰ってできればクお兄の遺品も家の中の大事なもの荷物をまとめて! エクエリとかも忘れないで車に乗せて』


 のんびりと話すヒャッカと対照的に早口で話してくるキュウ。


「なに、どういうこと」

『生体兵器がくる、こっちは今ノエを連れて逃げる用意してるからヒャッカも急いで!』


「はい? 生体兵器が来るなら戦えば……キュウ、時間は、あとどのくらいで来るの!」

『時間がない私もいろいろあるからもう切るよ! 合流は南……は、混む。東の門の前で、いそいで!』


 話している最中にヒャッカは何かを察し、ぴんと来ていなかったキュウの話に真面目に取り合う。

 そしてヒャッカが通話を終えると防壁の方でサイレンが鳴る。


「仕事か? なんか焦ってた声だったな」

「わからない、キューちゃんが早く来いっていうから」


「行けよ、あとは俺がやるからよ」

「いや、手伝ってあげただけじゃん」


 待機中の一般兵をサイレンのなる方へと呼び集め、市民に防壁に生体兵器が接近すると危険を促す警報。

 しかし、つい最近まで昼夜を問わずしょっちゅう鳴り響いていたため、久々に鳴った警報に真面目に耳を傾けるものなどあまりいなかった。

 別れを告げヒャッカは走り去っていく。


「なんだよ、あれだけの一般兵と精鋭がいて生体兵器を取り逃がすのか。そういえば北にしか行っていないのか、東と西の生体兵器はほったらかしだったっけか」


 シマも防壁の警報を聞き流しながらゴミ拾いを再開させた。


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