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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
11章 狂おしき崩落日和 ‐‐闊歩する巨兵‐‐
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出撃の日 3


シマが車に乗ってミナモたちのいるところに戻ってくると待っていた三人は座ったまま眠っていた。

ゆすっても起きない様子なのでミナモの大きなリュックと大型のエクエリを二つ運んだあとひとりずつ抱えて車に乗せる。


「噂の新人二人は小さくて軽いからすぐに運べたな……さて、気持ちよさそうに寝てんな」


残った一人、座っていたままの姿勢で横に倒れ無防備に地面に転がり眠るミナモを見た。

開いていた足を閉じさせもう一度ゆすり起こしてみたがその手を振り払う寝返りをうだけで起きる様子はない。


「ダメか、起きてくれれば自力で歩くのを支えるだけでよかったんだが……んじゃ、持ち上げるか」


何をしても目を覚まさないため仕方なくミナモを抱きかかえる。

新人二人と違い女性的な肉付き大目な体、体重も相応にしてあり先ほどまでと比べて断然重たい体。

抱え上げると彼女の無防備に眠っている顔がずっと近く、聞こえてくる吐息にシマは体を緊張させる。


「はぁー、熱い、頼むから今は起きないでくれよ、ミナモ。恥ずかしいから」


散々ゆすっても起きなかったミナモが名前を呼ばれただけでうっすらと目を開ける。


「今……ボクのこと、呼んだ? ん……ボク今どうなってんの?」

「起きたのか、寝てていいぞ寝ててくれミナモ」


「うん」


シマの体の外まで響くような激しい心音に気が付かず再び目をつむるミナモ。

顔を全力で逸らしていたため耳まで真っ赤な顔を見られることはなかった。

再び彼女が起きる前に急いで助手席に乗せシートベルトを着ける。


「何とかなった。危ない危ない、吃驚して危うく落っことすところだった。んじゃ、お前たちの宿に向かうぞ……今度は布団まで運び込むのかぁ、熱ちぃなぁ」


車内にいた誰からも返事はなかったがシマは窓を開け火照った体を車内に入り込む風で覚ましながら車を走らせ基地を出た。



シェルターの外、数キロ離れた地点で装甲バスは止まっていた。

周囲は廃墟が立ち並び、トラックは護衛も付けず人目を阻むように廃屋の中に停車した車中ではカガリが部下とともに作業していた。


「さて、実験をするにはいい天気ね。澄み切った空に雲一つない、気持ちいい天気、実験がうまく行ったら防壁の上で残りの時間は転寝でもしようかしら」

「あの、護衛も付けづにシェルターから出てきて大丈夫なんですか。このあたり生体兵器が多いんでしょう?」


「大丈夫よ、昨日出ていった一般兵たちがこのあたり一帯を掃除してくれたはずだから」

「でも、もしもが」


「それがあるなら……。それよりも機材の調子はどう、異常があるなら早めに行ってよ、調整にもたついたら今日中に実験ができなくなっちゃう」

「すべて異常なしです」


報告を受けて安堵の表情を浮かべるカガリ。


「極秘の実験で資料は複製がなく一点限り、失ったときはかなりショックを受けたけれども運よく資料を取り戻しここまでこぎつけたのは大きい。それに結果報告書まで入っていたから改良も簡単だった。後は出力の調整と効果範囲の検証だけ」

「これは危険な機械なんですよね、護衛とかいなくて本当によかったんですか」


「大丈夫、すぐにシェルターに逃げ込むから。そうだ護衛で思い出した、私直属の護衛見つからないのよね。何年も前から探していて赤毛の子で手痛い目を見てから本格的に欲しくなった。赤毛の子には逃げられるし、白髪の大きい子は手に入らなかった」

「ふ、普通に一般兵から探せば……」


何の前振りもなくカガリが取り出した注射器に強張った表情を浮かべる。

カガリと話していなかった他の仲間は真に涙を浮かべ助けを求めている姿を見ても気が付かないふりをして作業を進めていく。


「私のすぐそばにいる子なんだから、私が気に入った子じゃないとダメなのよ。あなたを含め私の直属、私の手足として動く子はみな私のえらんだお気に入りで構成されているのよ。私を好いていようがいまいが性格なんて私が躾直せば好きにいじれるし」

「は、はいそうですね……」


カガリの手元ペン回しのようにくるくるともてあそぶ注射器を見つめながら彼女は返事を返す。


「どうしたの顔が真っ青ね。ちょうどいいわ、私今薬持ってるしこれで直してあげるわ。もう何度も注射を打ってるし慣れているわよね、さぁ痛みが引くまで時間があるから素早く終わらせるわよ」

「い、いいえ、大丈夫です。平気です、元気ですどうぞ実験を始めましょう」


「いいえ、重大なミスにいつながりかねないわ。さぁ腕を出しなさい」

「わた、私は大丈夫ですからご勘弁を!」



畑道を走りシマは葉欄隊を宿に届けた。

使用者のいない開いている部屋にミナモを運んで寝かしつけるとシマは部屋を出ようとする。


「シマ、行くの?」

「ああ、掃除があるからな。部屋ここでよかったんだよな」


「うん、空き部屋でいい。……ん、シマ、手伝って」

「どうした?」


「苦しいから脱ごうと思ったけど学ランのボタンが取れない、脱がせて」

「……馬鹿か、んなことできるか!」


「ちょっと考えたでしょ、えっちだなぁ」

「じゃあな、ミナモ。俺はこのままバスで町に行く、車置いておくぞ。荷物は玄関に全部あるから」


「うん。わかった、ありがと。また今度。ご飯作るからたべにきて」

「わかった」


寝返りを打ち体をシマのほうに向け力なく手を振るミナモ。


「ああ、んじゃ俺はいくよ。おやすみ」

「おやすみ」


葉欄隊の宿を出てシマは畔道を歩いてバス停へと向かう。

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