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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
11章 狂おしき崩落日和 ‐‐闊歩する巨兵‐‐
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強固なる防壁 6

 防壁を出ると生き物の気配が消える。

 ミナモが出てすぐ門は閉まり、シェルターから差し込んでいた明かりも消える

 暗がりの中暗闇でも見つけられるように呼びかけようのインターホンが赤いランプを光らせていた。


 ミナモは一つ大きなため息をつく。

 防壁を出れば身を守るのは背中に背負ったエクエリと荷物のみ、防壁からの支援攻撃は接近されると味方への誤射の確率が上がるので期待できない。


――鈴蘭隊はどこに行ったんだろう、帰ってくるのはこの扉が一番近いばず?


 天気が良く雲のない月夜の月灯りでも日中ほど遠くは見えず視線の先はただただ闇が広がっている。

 肩から大型のエクエリを下ろし構えた。


 聞こえてくる音は風で揺れるものや遠く防壁の上から聞こえてくる整備不良の機械音くらいしかなく、探している者たちの気配がない。


 ――防壁の前で生体兵器はいないだろうし手っ取り早く大声出してもいいんだろうけど、鈴蘭隊に変に怒られたくはないしなー。普通に歩いて探すかな。


 鈴蘭隊は問題児の隊としてほかの隊から警告を受けている隊の一つ。

 命令無視の独断専行や必要のない戦闘、支援要請や決められたシェルター間移動を無視することもあり、意見のぶつかり合いからほかの隊との喧嘩に発展する場合もあるそう。

 それでも生体兵器を狩る力は本物で本来競争ではないものの、つい最近王都で作られた特定危険種の討伐数ランキングで上位を飾っている。


 会うのは気が進まなかったが新人というのがどういう人物かだけは知っておく必要があった。


 多くの特定危険種に囲まれシェルターが孤立した時、このシェルター出身の者でない者たちの集まった実力のある精鋭たちは、孤立し物資が尽きれば勝ち目は薄くなる早々に先のないシェルターを見捨て出ていってしまい己が力で特定危険種の縄張りを突破していった。

 残されたのは家族を守ろうとするものやそこまでの実力のない精鋭ばかり。

 前線基地を破壊し日々シェルターに迫ってくる生体兵器との戦闘の末どこの精鋭もけが人を出した。


 ミナモも多くの戦闘の末大勢の一般兵ほかの隊自分の隊の精鋭たちが生体兵器に殺される姿を見てきた。

 旧知の仲で死を知らされた時裂けるほどの心痛む悲しいものもあれば、下種で不快で育てていた花が枯れたときよりも時よりも心動かなかったものまで多くの仲間を失った。

 今度の新人はともに戦うに能う人物なのだろうかと、彼らが死んだとき前者と後者そのどちらよりの精鋭なのだろうと。


 装甲車の残骸の上から見回すといくつかの動く影が見える。

 鈴蘭隊の雪のような白い制服は暗闇に幽霊のようにふわりと浮かび上がり一度見つけてしまえば見失うことはなかった。


 残骸を降りて人影のほうへと歩く。

 彼らは防壁の外側だというのにまるで警戒などなく石や装甲の残骸に腰を掛けて何やら話し合っている。


「鈴蘭隊ですね、探してました」

「え、だれ?」


 近寄ってくるミナモに鈴蘭隊は驚きの表情と疑問符を浮かべる。


「こんなところで何してるんですか?」

「え、あ、送別会。この二人が今日で私たちの隊から出ていくから、お別れに」


「あなたが隊長さん?」

「ええ、ケンジョウ・シロヒメ。鈴蘭隊の隊長、でなんか用? 気配ないけどもほかに仲間いないの」


 見れば周囲にはお菓子や飲み物が置かれていた。

 隊長であるシロヒメがミナモのそばへと歩いていき不思議そうに足から頭の先まで見る。

 幽霊じゃないみたいとシロヒメの背後の鈴蘭隊の誰かの小さな声が聞こえた気がした。


「こんなところで? 借りている宿舎とかじゃ駄目だったんですか」

「いや、この緊張感がいいんじゃない。この空気の中でのお別れ会生体兵器が出てくれば万々歳、みんなの最後の思い出にいい戦いができるってもんよ、ねぁみんな」


 シロヒメが同意を求めた鈴蘭隊の面々はみな首を振っているが、彼女がミナモの視線に気が付き仲間のほうへと振り返ると彼らは慌てて顔を伏せる。


「まぁ何であれどっかの隊が、私たちが手塩にかけて育てたメモリンとギンを持っていくらしい。このシェルターに来て急にそんな話になって、ほんとどこだよそんなポンポン味方が死んでいってる隊は」

「うちの隊ですそれ。葉欄隊が新人二名を明日受け取ります」


 それを聞いて寄り添うように立っていた男女が顔を上げた。

 どうやらあの二人が新人らしいとミナモはその二人の顔をよく見ようとする。


「ああ、それでここに来たのか。うちの子死なせたらただじゃおかないからな」

「死んでいくのは仕方ありません、実力ある方々が個々の力で戦おうとしてお互いのミスをカバーできなかったためです。新人の方はぜひそういった戦いをしないようにお願いしたいです」


「うちの子がそんな馬鹿な戦い方をするとでも?」

「鈴蘭隊のどなたかは単騎で特定危険種に突撃していく人だとお聞きしていますが」


「そんな奴うちの隊にいない」


 隊長のことですとシロヒメの後ろから聞こえる。

 聞こえていなかったのかシロヒメは強気の姿勢を崩さない。


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