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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
2章 迫る怪物と挑み守るもの ‐‐私情の多い戦場‐‐
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シェルター防衛、2

 枯草を踏む音を立てながら近づく蒼薔薇隊の二人に、一般兵を追い散っていた残り四匹の生体兵器が一斉に振り向く。


 頭の先から尻尾の先まで茶色く長い細い胴体に短い毛、鋭利で強力な爪、人と同じくらいのサイズの生体兵器、基盤はイタチかそれに近い何か。

 迫ってくる人影にこちらに戦意があるのを感じったのか、四匹は短い毛を逆立てて一斉に威嚇する。

 二人は一定の距離を取って足を止めた。


「んじゃ、俺っちは右の一匹でライカちゃんは左の三匹お願いね」


 トガネがそういうと、制服の下に灰色のパーカーを着込んだ真顔がムスッと怒ったような感じの釣り目で緑髪おかっぱの女性、シジマ・ライカは不満そうな顔をした。


「ふざけないで、ちゃんと仕事してください。そういうのマジうざいんで、サボると隊長に言いつけますよ?」


 ライカが追い付いてきて横に並ぶとトガネを睨み、ただでさえ鋭い彼女眼光が一層鋭くなる。


「了解了解、冗談だって~。そう怒らないで、かわいく笑ってスルーしてよー」

「はぁー、ウゼー。んで話変わりますけど、今回はずいぶんと毛並みがいい生体兵器ですね、後で一匹貰ってみようかな。副隊長なら綺麗に皮を剥がせるでしょ」


 気を取り直し咳ばらいをするとトガネは腰のホルダーから取り出した銀色のエクエリを構え、警戒する生体兵器が近づいてくるのを待つ。

 ライカも派手な赤青黄のおもちゃのような三原色のエクエリを取り出し構える。


 立ち止まり武器を構えた二人へ距離を詰めるため生体兵器は走り出す。

 不整地なら全速力で走る車両にも追いつく速度で動物らしい滑らかな動きで走る。

 するとあっという間に生体兵器たちは彼らをとり囲むと、生体兵器はエクエリの攻撃を警戒し距離を取って二人の周りをぐるぐる回って注意を分散させ攻撃に備えた。


 二人が今まで倒してきた一般兵と違うと察したのか真正面から飛びかかるなんてことはなかった。

 隙をついて一斉に飛びかかる気なのだろうと背中合わせに蒼薔薇隊の二人は会話を続ける。


「ライカちゃん毛皮似合いそうだもんね」

「色は赤に染めたいな、パプリカみたいな真っ赤に」


 目の前に生体兵器がいるにもかかわらず淡々と会話する二人。


「うへぇ、派手だねぇ素材が可哀想だ」

「なんか言った?」


 時折飛びかかるふりをするフェイントをするなど生体兵器に変わった動きが見え始め、簡単に言葉を交わすとお互い別々の生体兵器に向かって狙いを定めた。


「何でもないよ、ライカちゃん」


 別々に狙った生体兵器に向かって一気に駆け出す。


 一斉に飛びかかるタイミングを窺っていた生体兵器たちは、一瞬驚いた様子を見せたがすぐに2匹ずつに分かれて二人を狙ってきた。

 トガネとライカ、お互いが一定の距離離れたところを狙って生体兵器たちが動きを変える。


 トガネの狙った生体兵器は、彼がが突っ込んでくると少し距離を置こうと逃げ出し、逃げた生体兵器を追おうとするともう一匹がトガネの背中を狙って追ってくる。

 逃げていた方も途中で方向転換し彼に向かって突進してきた、なんてことはない挟み撃ち。

 彼に向かって二方向から同時にとびかかってくる生体兵器。


 くすんだ銀色ともう一つ、腰につけた鞄から鏡面加工の赤色のエクエリと取り出すと二丁でそれぞれ二匹の生体兵器に向かって撃ち込む。


 自分の武器を一つと誤認させた攻撃だったが、もちろん生体兵器は当然のごとく躱す。

 しかしトガネの今の攻撃を誘導だと気が付かずにいた生体兵器たちは続けざまに撃たれる光の弾丸を避けた先で、二匹お互いが正面衝突を起こす。


 人が走ってても逃げ切れる見込みがない速度で移動するので、二匹がぶつかったときの衝撃はなかなかのものだろう痛そうでは済まされない音がする。

 その瞬間を狙って両手に持ったエクエリを連射、一匹は動かなくなったがもう一匹が血を吐いて暴れ出した。

 それも的確に頭を狙って数発撃ち込むとおとなしくなった。

 トガネの相手をしていた生体兵器の対処は終わったので、彼はいつでもライカの援護をできるように彼女の方を見る。


 しかし心配する必要もなく、彼女は生体兵器の攻撃を髪を揺らし短いスカートをはためかせて躱すと、腹の下に潜って彼女の赤青黄のパステルカラーのエクエリを顎から脳天に向かって一発。

 支える力を無くしライカに倒れてくる死骸を地面に仰向けになり両足で力任せに蹴り飛ばし、その陰から襲おうと攻撃のチャンスを窺っていたもう一匹とぶつける。


 寝ころんだまま横の転がり死骸の陰から出てくると、バランスを崩した生体兵器に惜しみなく光の弾丸を浴びせた。


 撃ち込んだいくつか躱されたものの確実にダメージを与えさらに追撃をする。

 逃げる機会も与えず彼女もあっという間に彼女も二匹の生体兵器をしとめて見せた。

 二十名以上の負傷者を出した今回の戦闘は、精鋭二人の活躍によって勝利を収めた。


「お疲れライカちゃん」


 両手を広げ飛び込んでおいでと誘うトガネに、彼女は制服と髪の毛に着いた枯葉を払いながら悔しそうな表所を浮かべた。


「まじかー、これくらいの相手するのに負けたくなかったんですけど」

「俺っちの方は都合よく二匹まとめてかかってきてくれたからね。向こうが勝手に自滅してくれた」


 動かなくなった生体兵器を足蹴りするとライカはエクエリをしまう。


「無いわー、テンションダダ下がり」


 本当に悔しかったのか何度か鋭い目で睨んで舌打ちを繰り返しながら彼女は大扉へと引き換えし始めた。

 トガネはライカの髪についた落ち葉を取るのを手伝ってあげながら、一緒にシェルターの大扉へ向かって歩く。


「つーか、今日暑くない? こんな季節なのに」


 彼女は忌々しげに空を見上げ枯草を蹴り上げる。


「季節外れの暖気だってさ」

「知ってるなら教えてよ、外は涼しいと思ってパーカー着て来てるんだから」


 蒼薔薇隊のブレザー型の制服のボタンを外し、フード付きの灰色のパーカのジッパーを開けるとパタパタとシャツの中に空気を入れている。


「いつも中に来ているから、アイデンティティーなのかと思った。夏でも着てるし」

「そこまでじゃないし、ただのお洒落だし。夏のは薄いやつだし」


 先ほど死にかけていた一般兵の二人がポカンと口を開け蒼薔薇隊の二人を見ている。

 四十名近くで相手をして多くの負傷者を出した生体兵器を、精鋭の隊長でもないただの隊員がたった二人で倒してしまった。

 前線基地と違い生体兵器と滅多に戦わない練度の低い一般兵たちは、本当に同じ人間なのかと疑いと羨望の目を向ける。

 周囲の様子に気が付きライカは自慢げに胸を張り一般兵の視線を浴びた。



 精鋭は隊で一番、戦闘経験、生物の知識、柔軟な発想能力など隊生体兵器に関する知識や経験を持った、優秀なものが隊長や副隊長を務める、そのため精鋭の隊長は隊員より強い。


 蒼薔薇隊は隊長だけでなく隊員たちも精鋭の中でも何らかの才能に秀でている。

 王都に選ばれた精鋭の中の精鋭、彼らは滅多に特定危険種以外の生体兵器に遅れなどとらない、絶対に勝つ自信があるし負ける気もしない。


「帰ってお風呂入ろ」


 ライカは髪や制服に枯葉などをつけたまま足早に大扉へと向かう。

 一般兵たちは撤退をやめ防壁へと連絡をはじめ、トガネたちが倒した死骸の処理を始める。


「先にトッキーに報告しないと、許可も得ないで勝手に出て来ちゃったんだから」

「うざいなぁ、わかってるよ」


 現在地、シェルター外壁、大扉までおおよそ二キロ、その帰り道は遠く長い。

 それを走って生体兵器から逃げ帰ろうとしていた一般兵にライカは尊敬の念を送った。

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