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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
11章 狂おしき崩落日和 ‐‐闊歩する巨兵‐‐
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荷運び日和 1

 変わらない日常、狭い世界であれどその分厚い壁に守られた世界は平和だった。

 退屈で変わらない日々だったが変化が起きる。

 一時期はいろいろなものが不足し大きな目で見れば非常にまずい状況だったが、今は活気を取り戻し人々の顔も明るい。

 だが今はそれも慣れてしまいいつもと同じように過ごし、何もなく平和に一日が終わっていく。

 人と物資があふれる生産系シェルターマクウチ。


 もとは飛行型の生体兵器、災害種シュトルムの支配区域に非常に近い場所に位置していたが、その災害種は撃破されもういない。



 見上げるほど背の高い建物が並ぶシェルターの中心部、主要道路は車両であふれかえり交通渋滞が起きている。

 治安維持と書かれたワッペンをついた一般兵の戦闘服を着た少年と、上は学ラン下はスカート少女が並んで歩く。

 二人の手には大きな段ボールが抱えられていて、箱には葉欄隊補給物資と書かれている。


「いやー助かる、ボクひとりじゃ重くて持てなかった。往復するには遠いし、悪いね仕事中なのに突き合せちゃって、シマには後でなんかおごるよ」

「まぁ、いいけど、これなんなんだミナモ?」


 刈り上げ頭の名前を呼ばれた一般兵の青年、シマは抱えている段ボール箱をゆすってみるが大きさの割に軽く中身の重量バランスはばらばらでなにかは分からない。

 シェルターの道路は物資不足の名残で修復が身にあっておらずひび割れた場所が多く、成長した街路樹の根がレンガを敷いた歩道を下から持ち上げ壊すもそのまま放置されている。


「ボクの隊の補給物資、今回は二人新人が来るから受け取りに来たんだけど、思ったより物が多かった。そういえばほかのシェルターから物資が届いて装備は充実してたんだよね」

「こんなに必要なのか、精鋭の物資は? 警備兵に支給されるのは戦闘服と電気銃だけだぞ」


「ほんとね、制服にブーツ、予備のバッテリーに鞄とか医療用品とかとか、普通に車でとりに行けばよかったんだけど道は混んでいるし歩いて行った方が早いかなって思ってさ。でも失敗だった、一人分ならまだしも二人分だったからちょっと持てない量だった」

「普通の台車じゃ悪路で石か土に引っかかって運びづらいし、ネコじゃ街中走らせんのも恥ずかしいもんな」


 枯れたまま放置された街路樹の向こう、シマはちらりと渋滞のほうを見る。

 4車線ある道路は見える限りどこまでも車両で埋め尽くされていて、一向に進む様子はない。

 作戦日時は明かされていない、がこの春に予定されている作戦のため各地より集められた一般兵たち。

 彼らの急激な人口増加にシェルターの交通網が機能不全を起こしている。


「ボク猫車押すの昔っから苦手、ちっちゃいころバランス崩して畔を転がり落ちてから一度も触ってない」

「うへぇ、痛そう」


「あの時は頭からすっごい血が出て驚いたよ、ちょっと切っただけなのにドバドバと滝のように……」

「痛い話はやめてくれ、背筋がぞっとする。トランプで指着るのを見るだけで鳥肌が立つんだ」


 中心部から少し離れると途端に建物の高さはずっと低くなり大規模な団地や住宅街が広がる。

 住宅街の住民向けに道路沿いに並ぶ店はどこも各地から集まってきた一般兵たちの姿が見え、その中に時折精鋭の制服がちらりと見えた。


「精鋭の姿もだいぶ増えたな。そういや、もうじき侵攻作戦が始まるんだってな」

「らしいね。ボクの隊はシェルターの防衛でお留守番だけど話は聞いてる、シュトルムが倒されて空の脅威度が減ったから、いよいよ北へ向かっていくらしい」


「北に? このシェルターの北には何があるんだ?」

「知っての通り何もないよ、いくつかの生産系の廃シェルターだけ。今後人類に必要な技術が眠ってるわけでもないしここまでして取り返す必要もないってはなしだよ」


 転ばぬよう木の根が突き出た地面の凸凹に気を付けながら歩く。

 枝の手入れこそすれど長年放置された街路樹は好き放題に伸びていて歩道のレンガを下から押しあげている。


「じゃあなんでこんな大規模な作戦に」

「ボクたちの住むシェルターが落とされると、シュトルムの生息区域に収めていた生体兵器たちが別の災害種、死の演奏家の縄張りに入るから」


「それが?」

「わからない? 生体兵器は災害種の餌になるから、災害種がさらに増えシェルターがそいつらに襲われる可能性がある。そうなると北だけじゃなくて東も失う、そうなれば飛行型の生体兵器にとっては、簡単に王都まで手が届く範囲になってしまう。これはボクたちのシェルターじゃなくて王都を守る作戦。助けたいのはここじゃないよ、ずーっと遠くの王都の方」


「……そっか。なんであれ成功するといいな」

「するよきっと」


 中心部を抜け住宅街まで来るとバス停へと向かう。

 都心部ほどではないが交通量も多く、各地から一般兵が集まっただけあってシェルターごとの様々な車種と迷彩の軍車両が通る。


 かつては生体兵器との戦闘で人口が減っていきシェルターで生産できる食糧でなんとか自給自足ができていたが、作戦のため多くの一般兵が集まった今は増えた人数分よそから運び込まれるさまざまな食べ物がなければこのシェルターは成り立たない。


「このあたりでいいよね。ここからなら渋滞なくバスで帰れるし」

「そうだな、さすがにあっちまで歩いて帰りたくはない」


「ボクも本当は車で来たかったけど。車で来るとあの渋滞につかまるし、このへんの住宅街の貸し駐車場はずっと一般兵たちが借り切ってる。だからって路駐するわけにもいかないし、ねぇシマ。治安維持の警備兵に注意を受け反省文を書き罰金を払う精鋭だなんてかっこ悪いもんね」

「そうだな、もしミナモが止めてたら俺が見つけ出して叱ってやるよ」


「見逃してくれればいいのに、そしたらシマの警備担当区域に毎日路駐するから」

「やめろって。しっかし何とかならないもんかね防壁の周囲は畑、そこと地下生産工場での働き手の下層、中層の市民、それでもっての重要施設が、中央区画に一か所にまとまってるからな。もともとこんなに大勢の人がいる予定のシェルターじゃないから畑つぶして宿舎を作ってるわけだし」


「シマもお疲れ?」

「渋滞にはまって気が立ってるいい年した大人同士の、割り込んだ割り込んでないって幼稚な喧嘩を止める俺の気持ちになってみろよ、ミナモ。今にストレスで禿げ上がるぞ」


「そりゃ大変だ」

「どう考えたって喧嘩して警備兵に事情を聴かれて解放される方が渋滞より時間がかかるんだぜ」


 遠くから工事の音が聞こえるがそれももう日常風景。

 ほとんど青いペンキの禿げた木のベンチに腰を下ろし、段ボールを抱えて二人は空を見上げてバスが来るのを待つ。

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