帰港 1
戦闘が終了し安全を確認してから戦闘指揮室から出て艦橋へ戻るリアスたち。
生体兵器は艦内にはいないとされているが不測の事態がないように小型大型の背クエリを持った護衛たちに囲まれて移動する。
「ミカヅキが最後に二人を見たのはこの先だ。見つけたら艦橋に来るように言っておいてくれ。艦長が心配していたから顔を見せに来るようにって、後ソウマにタブレットを持ってくるようにと」
「わかりました、伝えておきます」
「ありがとうございます」
艦橋へと向かっていくリアスと別れてあわただしい艦内を歩くシンヤとアラタ。
邪魔にならないように壁に背中をこすり付けるようにして歩く。
「アオイさんたちはどこにいるのでしょう」
「さぁ、副艦長の人が無事だって言ってたし、カメラが壊れててどこにいるかわからないらしいから俺らで探すしかないだろ」
壁に穴をあけた鉄塊は工具で分解され穴の開いている場所には修復用の鉄板を敷いて橋にしていた。
下の階で生体兵器の落とした落下物は止まったようで、見上げれば天井には大穴が開き空が見える。
「ここ渡るしかないのか」
「落ちそうで怖いね、遠回りしようよ兄さん」
「手つないでいてやるから行くぞ、この場所ならソウマたちはこの先だ」
「ほんとに行くの」
シンヤは鉄板の上に立つとアラタに手を伸ばす、彼女はその手を受け取り彼と同じ鉄板の上に立つ。
寄り添うように手すりも支えもない鉄板の上を歩く。
少しだけ揺れる艦内、ふらつきながらも無事に渡り切ると息を大きく吸って今しがた自分たちが通った穴を振り返る。
「兄さん……お父さんの船もこうやって沈んだのかな」
「たぶんな。4隻の都市戦艦でこれだもんな、1隻で行って返り討ち。ミカヅキが受けた攻撃の4倍くらいで船は穴だらけになったんだろうな……行こうぜ」
二人は通路を進んでいこうとするがアラタは見ることのできない都市戦艦の壁の向こう、さらに遠く離れた海に沈むイツハのほうを見ていた。
シンヤたちを別れ話損した通路を歩くリアス。
あちこちが破損した都市戦艦は航行に重要な区画から応急修理が始まり、次に生体兵器が現れたときのためフジツボやシンジュガイを優先的に、戦闘に必要のない上部構造物は後回しとされ被害の状況を調べるものはいてもリアスが今歩いているあたりは壁の穴を塞いでいるものはいない。
艦橋へ着くと壁に空いた穴の修復を急がせ、使えない機材の代わりを持ってこさせる。
「ほとんど使い物になりませんね、指揮室にいたほうがいいのではないでしょうか」
「見晴らしのいいここがいい、あそこは狭いし息が詰まるからね。アオイとソウマは呼んでくれたかい」
「あの二人に呼びに行かせました。ちゃんと伝えてくれれば来てくれるでしょう。で、呼び出したら叱るんですか抱きしめるんですか?」
「後者かな、二人の顔を見るまで生きた心地がしないよ直接会うまで不安でいっぱいさ」
「艦内カメラで無事が確認されているのにですか?」
「リアスも抱きしめてあげようか」
「遠慮ししたいところです」
席に着くと深く腰掛けた艦長の横に着くリアスは指揮室から持ってきた予備のタブレットで被害の報告を見る。
タブレットをスクロールしていると艦長に話しかけられる。
「あの二人に都市戦艦イツハの記録を見せなくていいのかい。AIは生きていてミカヅキが接近の際それを受け取って、イツハの艦長、父親からのメッセージがあったのだろう?」
「……見せられません。文章にまとめて……二人に、伝えます」
タブレットを下ろし目を逸らすリアス。
戦闘終了直後、戦闘に参加していない都市戦艦から送られてきた情報を許可なく勝手に見た映像が脳裏によぎる。
「何かあったのか」
「遺言の途中で生体兵器に襲われている姿なんて見せられませんよ。両親が目の前で死ぬ姿なんて見るもんじゃありません。時間がたった今でも夢に見ますから」
リアスの表情から映像の内容を察し話を切り上げる。
「そうだね、ならそうしてあげてくれ」
「魔都のそばによれば、私も両親との思い出を取り戻すことができるでしょうか」
「さあね、時間もたっているしあそこの海は深い。あの都市戦艦が今も機能を保っているというのは難しいし望み薄だろうね」
「そうですか。……家族の写真の一枚でもと思ったんですけどね」
寂しそうにつぶやくと再び被害報告を読み始めるリアス。