嵐を晴らす砲撃 2
生体兵器が完全に死んだことが確認されるとアラタとシンヤのもとへと駆け寄るアオイ。
二人とも震えあがり涙を流し抱き合っている。
つい数分前までの緊張と命のやり取りを思い出しその都度大きく身を震わせた。
「無茶して、いくら何でも無茶が過ぎているわ、もう少しで死んでしまうかもしれなかったというのに! こんなにおびえて、汗だってびっしょり、いまさらになって怖さがやってきたのね。でもかっこよかったわよ」
泣きわめく二人の頭をアオイは撫で強く抱きしめる。
ソウマは大音量を流しているタブレットを拾い上げ動画を止めるとシンヤが使っていた小型のエクエリを拾い上げ姉のもとへと向かう。
「いつまでもここにはいられないよ姉さん。ミカヅキが戦闘配置につけって、巣をの発見とともに残ったシュトルムの最終戦力が飛び立ってるって」
「え、もう完全に終わりの流れじゃない。まだやるの?」
アオイまで泣き出しそうになるが誰も気に留めている暇はなく、心配してもらおうとした目論見が外れ何事もなかったかのように咳払いしてごまかした。
「生体兵器は人じゃなくて動物だよ。どんなに勝てない状況でも降伏はない、死ぬまで戦い続けるのが生体兵器。でも、これで本当に終わり」
タブレットを操作し船の被害状況を見るソウマ。
「そうね、アラタちゃんシンヤ君。まだ終わってないって、二人ともそろそろ移動しましょ」
アオイは立ち上がろうと二人の手を取るがアラタもシンヤも抱き合い泣き続けたまま立ち上がらない。
「困ったわ、このままここにおいてもいけないし上に戻らないといけないし」
「もういいんじゃない、二人は下で待っててもらってよ。巣を破壊したらそのまま帰るんだから。それまでミカヅキが沈まないようにしないといけないんだけどね」
倒れている船員たちを調べ生きている者がいないと結果が出て落胆している時間もなく皆上へと戻る用意をする。
アオイが数人に事情を説明しアラタ達を避難区画への避難を頼み、泣いたままの二人と別れを告げると甲板へと引き返す。
「あとでちゃんと迎えに来るから」
廊下に重なり倒れる船員たちにアオイは手を合わせ祈ると来た道を引き返す。
「姉さんも下にいていいのに」
「ソウちゃんが戻るのに私が一人で逃げるわけにはいかないじゃない」
「生体兵器に追われて死にかけておいてよくそんなこと言えるよね」
「どうせ襲ってくる生体兵器を撃墜できなきゃ船が沈むんだもの戦わないといけないわ」
「まぁ、そうなんだけど。危ないよ、さっきのアラタみたいになるかもだし、姉さんだって怖いでしょ」
「怖かったは、あのでかいのが後ろからゴリゴリ追ってくるのは絶対私何日か夢に見るわ。でも私が逃げちゃったら、リーちゃんに私を一人置いて逃げたって文句が言えなくなっちゃう。文句を言うまで逃げられない」
「あ、そう……」
命を失ったら元も子もないだろうとアオイの無駄すぎる意地にソウマはあきれていた。
「というかソウちゃんこそ一緒に逃げればよかったんじゃないの?」
「う、うん。でも、一度でいいから生体兵器を自分で倒してみたい」
「どうして?」
「精鋭ってこんな化け物と戦ってるわけだし」
「あれは本の話じゃないの? ソウちゃんの集めた小説でしょ?」
「実話だよ、全部。時代はばらばらだけど全部精鋭が生体兵器と戦う話。ずっと戦ってみたかった、空を飛んでいる奴じゃないずっと近くで恐怖や殺意を肌で感じて」
「それが今日かなったってわけね、どう気分は」
「すごく怖いけど、生体兵器はやっぱり生きていちゃダメなんだと思う。動物は生きるために生き物を殺すけど、生体兵器は食べる必要がなくても殺す。今日生まれて初めて生体兵器が人を殺すところを見たけど、この船のあちこちで起きてることが毎日いろんなシェルターで起きてるんだもの」
上の階へと上がってくるとミカヅキの艦内放送とサイレンが聞こえてくる。
二人を護衛していた船員たちもここまでくれば安心と一礼して持ち場へと駆け足で向かっていき船外へと出ていく。
大型のエクエリはフジツボの装備でそれを返すだけでも火力は上がる。
「ミカヅキの声が懐かしいわ」
「僕は姉さんの援護した方がいいよね?」
「自分で生体兵器を倒すんじゃなかったの?」
「艦内に出てきたらね、的当ては苦手」
走る力の残っていないアオイの後に続いてソウマがシンジュガイのあるフロアへと向かっていく。
「上空にスターサークル、スターサークル!」
「生きた化石かよ! 落とせ落とせ!」
船内を駆け回りバッテリーをかき集める者たちとすれ違う。
「今度は何?」
「わからない、なんだろ」
二人はシンジュガイにたどり着くと席に着き砲を動かして異常がないのを確認し、飛来する生体兵器を狙う。