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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
10章 身も凍る荒波をすすむ ‐‐深紅の冷海の嵐を抜けて‐‐
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嵐を晴らす砲撃 1

 襲ってきた生体兵器に驚き構えたエクエリを放し後ろへと後ずさってしまう。

 数百メートル遠くから生体兵器を撃つことには慣れていても数メートルの至近距離で対峙するのは初めて、天井に届く巨大な生き物を前に戦おうという勇ましさより足元に倒れる無残な仲間たちを見ての単純な恐怖が勝つ。


 恐怖に負けず戦おうとしていた船員も大型のエクエリの欠点である重量と狭い場所での扱いづらさ、さらに人が多いところでの戦闘が合わさって船員たちは距離を取ろうとするが生体兵器はそれを許さない。

 頭を狙って銃口を向けるがエクエリの銃身を啄んで振り回し天井と床に何度もたたきつける。

 一つまた一つと生体兵器に向けられていた明かりだ床に落ち壁や床を照らす。


 悲鳴を聞いてはそのたびに震え上がるアラタ。

 生体兵器がまさか自分のところには来ないだろうと、これだけ人がいてまさかやられることはないだろうと、まさかまさかまさかと繰り返し目の前の光景を否定する。


 数発エクエリを当てることはできたがすべて無駄に大きく広げた羽に当たっただけでダメージはどれも致命傷には程遠い。

 啄んだまま振り回した大型のエクエリを最後の一人の頭に突き立てこの場は再び静まり返った。

 一度足元に頭を向け今しがた自分が倒した肉を食い荒らしたが、折り重なる何人もの踏み越え足音がアラタのもとへと向かってくる。


「いたい……たすけて……」


 誰かの声が聞こえるがその声は足音ともに近づいてきて止まる。

 これ以上にないくらい小さく丸まり悲鳴を聞かないように兄の名前を祈るようにつぶやき続けた。

 一つだけ倒れた誰かに引っ掛かり上を向いたライトに生体兵器の姿が照らされ、首から上だけ暗闇から切り取られる。


 暗闇に浮かぶ下から照らされた血の滴る嘴を持つ生体兵器の頭がアラタへと迫る。


 生体兵器向かって廊下の向こうの暗闇から一発の光の弾が飛んできた。

 その光の弾は狙った場所から外したが生体兵器の意識を逸らすには十分だった。


「アラタ!」

「アラタちゃん!」


 ライトの先を手に付け光を隠して接近していた船員達が助けに行こうと全速力で廊下を走っていたが生体兵器の足元を見て全員がブレーキをかけ立ち止まる。

 近づけばそれだけ鮮明に見える壁や天井まで赤く染まった通路の様子、絶望や恐怖の表情のまま倒れる仲間たち。

 しかしシンヤだけは止まらない、ソウマから奪い取った小型のエクエリを放ちながら走り続ける。


「にげてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


 迫っていくシンヤを見て威嚇のつもりか人の声をまねる生体兵器の断末魔のような絶叫を聞いて怖気づき尻もちをつくアオイ。

 一緒に行動していた線たちがエクエリを向けようとするも、先を走るシンヤが邪魔で撃つことができない。


「アラタから離れやがれ!」


 生体兵器がアラタを超えシンヤのほうへと向かう。

 突っ込んでくる生体兵器に足を止め引き返そうとしたが濡れた床に足を滑らせ転ぶ、その上に音を立てて閉じる嘴があった。


「はなれやがれ! はなれやがれ!」


 シンヤを仕留め損ねた生体兵器が言葉を繰り返す。

 転んだシンヤは頭と背中を強く打ったが涙目のままエクエリを撃ち続ける。

 至近距離でもしっかりと狙っていないその大半が外れるが、命中したところには穴が開き生体兵器は身をよじるが攻撃はかわせず再び啄もうと数歩下がるアラタがタブレットを投げつける。


「はなれやがれ! はしれ、とまるな!」

「うるせぇよ!」


 ぶつかった程度ではピクリとも動かず真下にいるシンヤを啄もうと数歩後ろに下がった。

 しかし、アラタの手から離れたタブレットがミカヅキの操作で自動で動き、ファイルから強い光と音を発する動画を再生しとその大音量に首だけを後ろに向け音の原因を探す。

 一瞬の足止め、だがそれで十分だった。


「撃て!」


 シンヤが倒れたおかげで射線に邪魔者はない。

 ソウマたちのいる後方からの一斉の援護射撃で光の弾が細い通路を塞ぐ壁のようになり飛んでいく。

 生体兵器が頭を正面に向けたとき光の弾は大きな穴をあけていた。


「いたい……たすけて……だれか……」

「それが痛みだ、いい加減死ねよ化け物!」


 真下からシンヤは何度も引き金の引き頭を打ち抜く。

 頭を打ちぬかれても数歩歩き、大型のエクエリの第二射が頭の大半を吹き飛ばすがまだ歩いた。


「兄さん!」

「アラタ、無事か。こっちにこい逃げるぞ!」


 目も耳もなく通路にぶつかりながら歩く生体兵器の下を潜り抜け、シンヤはアラタのもとへと駆け寄り彼女を抱きしめる。

 お互いに真っ赤に染まった鉄臭い白い服で汚れなど気にせず抱きしめあって涙を流して無事を喜ぶ。


「まだ終わってなんかいないんだけど」


 船員たちを連れ前進してきたソウマがつぶやく。

 生体兵器との距離もすぐそばまで迫り、エクエリを外すことのない距離。


「なかなか死なないわ、なんなのあれ。もうヤダ、早く終わらせちゃって」


 船員たちの最後尾に守られるようにしてついてくるアオイの指示、三度目にしてようやく床に倒れこむ生体兵器。


「何て生命力なの」

「念のためもう一度撃ち込んでおいて」


 一撃と言わず二度三度とエクエリを撃ち込んでその体をばらばらにする。


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