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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
10章 身も凍る荒波をすすむ ‐‐深紅の冷海の嵐を抜けて‐‐
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艦内戦闘 9

 聞いているのも苦しくなるような悲痛な声が聞こえてくる。


「たすけて……いたい……」


 撃つに撃てずゆっくりと後退していく中、護衛たちの後ろで生体兵器の姿を見すアオイが何かに気づく。


「これ先生の声じゃない……先生の声じゃないわ!」

「なに?」


 護衛の一人がライトの光を強め船医の後ろを照らすと、船医を咥える生体兵器の後ろから白い体に黄緑色の鶏冠の生えた赤い目玉の生体兵器が顔をのぞかせた。


「後ろにもう一匹いるぞ」


 白い生体兵器は嘴を小さく動かし鳴き声をあげ翼を羽ばたかす。


「……いたい……ゆるして、だれか、たすけて……」


 それは人の声によく似ていてその場にいた全員に戦慄が走る。


「人の声を真似してるのか、気持ち悪い」

「あれが喋ってるのか、船医の先生じゃなくて」

「ああ、でも意味は分かってないみたいだな、録音したものをただ繰り返してるだけ」

「不気味だな、あいつ早めに倒さないとアオイ様たちが怖がってる」


 何の前触れもなく通路の水密隔壁が下りる。

 その下には船医を咥えた生体兵器がいて驚き前に飛びのく、後ろにいた人の声をまねる生体兵器はそのまま隔壁の向こうへ消えた。


「なんだ、急にどうした」


 上部構造物のものと違う水密隔壁は水圧に耐えられるように分厚く硬い。

 分断され退路を断たれた生体兵器は前進を続ける、隔壁をたたく音は聞こえるが破壊される様子はなかった。


「ミカヅキか?」

「何でもいい、あいつがパニック起こしているうちに船医を助けるぞ」


 突然なことで驚いたのは護衛たちだけでなく生体兵器も同じで翼を広げ通路の両端にぶつけると、攻撃に移るため邪魔となった船医を護衛たちに向かって投げ捨てる。

 船医を受け止めるもの避けてエクエリを構えるものの二つに分かれるが銃口を向ける前に生体兵器が突撃、蹴り飛ばし皆床に倒れた。


 船医を捨てたことであらわになる生体兵器。

 他と同じ鳥をベースにしたところまでは同じで色や体のバランスに多少の違いはあるが大きな違いはほかの生体兵器とは違う細く長いくちばし。

 そのくちばしの先端が狙いを定めると、倒れこんだ船医、突き飛ばされ立ち上がれない護衛など頭に次々と大穴を穿つ。

 頭から嘴を引き抜くと嘴に着いた血などを長い舌でなめとる。


「こいつ、脳喰いか! 特定危険種だ!」

「シュトルムに吸収されているって話のやつか! だが飛べないここは廊下だ、こっちが優位だろ!」


 船医という盾がなくなり体勢を立て直した護衛たちはエクエリを向ける。

 引き金を引き光の弾が脳喰いと呼ばれた生体兵器に次々と命中、生体兵器はその場に崩れ落ちた。


「やったぞ!」

「ああ、でも助けられなかったうえに被害が出た……先を急ぐぞ」


 犠牲者を出しその亡骸を回収できず生体兵器の死骸のそばに放置したままやむなくその場を後にする。

 発電機の前まで来てバッテリーを交換しいよいよアオイたちを避難区画へと送り届けるために移動を始めた誰一人話さなくなった重たい空気の中、ミカヅキの音声が復活した。


『申し訳ございません。暗く、暗視カメラでないカメラが機能せず、先ほどは皆さまのライトの光を頼らせていただきました』

「ミカヅキ、それでも何か言ってくれればいいじゃない。ずっと黙り込んだままで」


 暗く限られた視界の中、重たくピリピリした空気を変えたミカヅキの音声にほっとするソウマ、アオイは天井のスピーカーを睨む。


『一部の区画は配線が断線、それに加え最優先で行わないといけない仕事がありまして、そちらを行っておりました』

「私たちを助ける以外に優先することなんてあるの?」


『目的地への到達、シュトルムの巣が見え、破損していない残った武装の確認、艦隊の陣形移動、砲撃指示、弾道計算等の演算に時間をかけていました』

「ついに着いたのね、この旅の目的地に。終わるのよね」


 気が抜けソウマとシンヤの頭に手を乗せ二人の頭を撫でまわす。

 ソウマは嫌がり振り払おうとするが、シンヤはうつむいたままなすがまま。


 護衛たちも緊張がほどけ構えたエクエリの銃口が少し下を向く。


『主砲の射程に入るまで残り予想時間、30分です、シュトルムによる最後の抵抗が予想されます、皆様持ち場へと戻り戦闘準備を。旗艦クズリュウからのご命令です、避難している戦闘員も含め総員死ぬ気で奮戦せよ、と』

「え、ここまで来たのに戻るの?」

「え、ここまで来たのに……」

「え、ここまで来たってのにか?」


 これには護衛たちのも落胆の声が漏れた。




 リアスは液晶パネルの机の上に表示される映像を見ながら腕を組む。

 艦長他数名とともに机に映された攻撃目標の島を見る。

 いくつもの鉄塔、電線、車両を絡めて作った巨大なドーム状の構造物、あちこちに穴が開きそこから新たなシュトルムが飛び立つ。


「外の状況はどうなっている」

「船内、船外カメラも6割が破損して使い物になりません」


「リアス、砲塔はどうだ機能しているか?」

「はい、砲手は無事です、すでにミカヅキの演算情報を受け取り済みで、島を狙っています。射程に入り次第いつでも撃てる状況」


「ミサイルは? 残弾すべてを撃ち込め」

「了解、残弾を確認します」


 部屋の隅で椅子に座りモニターを順に見て回るアラタを気にかけ、一度彼女のほうを見るが作戦を優先する。


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