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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
1章 滅んだ国と生体兵器 ‐‐すべてを壊した怪物‐‐
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無名の戦場 4

 ツバメは生体兵器と肉薄することで大きな体の死角に潜り込んで至近距離からエクエリを撃つ。

 彼女はコリュウと逆に、元はこの廃屋の庭だったであろう大きく開けた場所で転がりながら生体兵器の攻撃を避け隙をついて反撃していた。


 生体兵器の大きな体は破壊性や殺傷性を増した分、細かな動きや一動作ごとに動き出す遅さがでる。

 そのため生体兵器との戦闘になれていると些細な動きから攻撃が来るタイミングを正確に読むこともできる、若い隊長を務めるツバメだけができる危険な芸当。


 ツバメを援護するように廃屋の中からイグサは銃口の先だけを伸ばし、頻繁に窓、壁穴、窓と居場所を変えながら撃つ。


 大型のエクエリは重いため小型のように走り回って攻撃を避けながら戦うことができないため狙われたらひとたまりもない。

 廃屋から注意をそらすように生体兵器をひきつけ地面を転げまわりながら、即時体制を立て直しエクエリを構え連射するツバメ。


 彼女の回避が間に合わないと思われるタイミングで攻撃しようとした生体兵器を廃屋から攻撃し、その攻撃から致命傷を負わないように身を守る生体兵器の間から、ツバメを離脱させるイグサ。


 だが致命傷を与えない限り、体力を消費する速度の早い人が圧倒的に不利。


 廃屋から立て続けに放たれた大型のエクエリによる光の弾丸は、生体兵器へと飛んでいくが生体兵器はそれを紙一重でよけていく。


 兵器と名前がついているだけあって、その生き物の攻撃はいとも簡単に人を殺す。

 常にこちらが攻撃して生体兵器を回避や防御に専念させる、絶対に奴に反撃をさせてはいけない。

 ツバメの攻撃を避けた攻撃を先読みしてイグサもエクエリを撃つが、それすらも躱されて生体兵器をかすりもせず光の弾は遠くへと消えていく。


「ああ、もうやっぱり当たらない!」


 生体兵器に見つからないように廃屋に隠れているはずのイグサが声を荒げた。


「一撃で仕留めようと思うな。動き回らせれば、そのうち出血がひどくなって、奴の動きが鈍る。現に、ケガした方の足をかばって、何度か攻撃のチャンスを不意にしている。持久戦だ、がんばれ!」

「それまで、私たち生きていられますん?」


 などとやり取りしている二人のもとへコリュウが合流する。



 下手に飛び出せばコリュウが真っ先に狙われるため、彼はいままでどのタイミングで彼は合流するべきかわからなかったので少し様子を見ていた。

 気が付かれないように移動したつもりだったが生体兵器はコリュウの存在に気が付いているようで、挟み撃ちに合わないようにゆっくりと後ずさりし距離をとっていく。


「隊長、あっちのは仕留めてきました」

「コリュウ遅い」


 廃屋を背にして立つコリュウに、後ろからイグサがこちらに聞こえるような声でつぶやく。


「待ってたぞコリュウ。よし、いつものパターンだ、二人係であいつを追い立てるぞ。イグサはいつでも撃てるようにしておいてくれ。私の合図まで撃つなよ」

「了解」


 息が上がり体力的にもきつそうなツバメは、地面を転がっていたせいで制服にちぎれた細長い草が付き頬に雨で濡れた泥がついていた。

 制服の袖で汗を拭うつもりだったのだろうがそのせいで泥が広がり顔が汚れていく。


 そんなツバメとコリュウは左右に広がり、生体兵器を挟み込むようにじりじりと距離を詰める。

 下手をすればナイフのような歯の生えた顎でほんの一瞬で骨ごと噛み砕かれるだろう。

 そうならないよう二人同時にゆっくりと迫っていく。


「行くぞ!」


 息を整えたツバメが攻勢に入る。

 無理に頭を狙わず大きな胴体に小さなダメージを重ね、生体兵器を弱らせていく。

 エクエリの光の弾は鉛弾と違って体に確実に小さな穴を開ける。

 攻撃をよけながら生体兵器は体勢を立て直しコリュウを狙うフェイントを入れて勢いをつけてツバメにとびかかろうとしたが、背後から放たれたコリュウとイグサの援護射撃を躱すために地面を転げまわる彼女を飛び越えた。


「サンキュー、危なかったー」

「ほんとです、つかず離れずしっかり距離をとって攻撃の隙を窺ってください」


 生体兵器を挟んでの会話。

 イグサは合図するまで攻撃するなというツバメからの指示だが、反射的に引き金を引いてしまった。


 戦況が一瞬で変わる状況では一瞬の判断ミスが命へとつながる、命令を守って死なせてしまえば意味はない。


「そういうのは、私が教える立場なんだけどなぁ……イグサは合図したらって言ったじゃん」


 すでにツバメの制服は泥だらけで、もとが紺色の制服だった面影すら感じない。

 ツバメ、コリュウ、イグサ、そしてその三角形の中心に生体兵器、奴が誰かを狙えば残った二人が背後から撃つ。

 取り囲んだ生体兵器はコリュウを警戒していて、今イグサと隊長に背を向けている。


「挟んだ!」

「イグサ、撃て!」


 ほぼ真後ろにいたイグサの攻撃を殺意でも読み取ったとでもいうのか、死角からの直撃コースの一撃を生体兵器はよけた。


 だが次の攻撃を警戒してイグサの方に振り返った瞬間に、残った二人が発砲する。

 生体兵器はそれすらも反応し躱そうとしたが、動き回った反動多量の出血でついに体が言うことを聞かなくなったのか十字砲火を受け大きく吠えた。


「当たった!」

「行けるぞ、撃て!」


 二人の連射で弱った生体兵器の体に追い打ちの攻撃で次々と穴をあけていく。

 後から加わったイグサが生体兵器に決定的な一撃を与えた。

 生体兵器は最後の力を振り絞り砲火の中を抜け出すがすでに手遅れ、20メートルほど走るとその場に倒れその体は半回転して止まる。


 呻き声をあげる生体兵器が起き上がらないことを確認すると3人は警戒を解いた。


「戦闘終了、エネルギー確認32%」

「えっと、残り62%」


「ふぅ、終わったね。コリュウ、イグサ、二人ともお疲れ」

「お疲れ様です、隊長」


 ツバメはコリュウと倒れた生体兵器もとまで歩き、その銃口を頭へと向けとどめを刺してその死亡を確認しに行く。

 触れただけでも皮膚が切られそうな鋭利な歯の生えた口から血を流し、大きな体には無数の小さな穴と一つの大穴が開いている。

 生体兵器がもう起き上がってこないことを確認すると彼女はその場に糸の切れた人形のように大の字に倒れた。


「ふー、終わったな……お疲れ、コリュウ、イグサ」

「ふぅ、たった二匹でこれですからね……」


「本調子ならもっと早く致命傷与えられたんだけど」

「昨日はいろいろありましたし、仕方ないんじゃないですか」


 廃屋からエクエリを抱え遅れてやってきたイグサが、寝ころんでいるツバメの横に腰を下ろし寄りかかる。


「残り、71%。ふぁぁ、眠い……」

「お疲れ、イグサ」

「イグサお疲れ。悪いね、寝てたとこ起こしちゃって」


 寄りかかるイグサの寝癖を直すツバメ。


「悪いのは生体兵器だから、ツバメは悪くない」

「夜明けですがどうしますか、隊長。目的地まであと少しでしょう、出発しますか?」


「えー、ねーむーいー」


 イグサが拾い上げた小石程度の瓦礫をコリュウに投げた。


「んーそうだね。今日のお昼には目的地につくから、荷物まとめて移動しようか。向こうにつけば、起こされる事無くぐっすり眠れるはずだよイグサ」

「うぅ……そうですか、なら怠いけど基地へ向かいましょう。もう起こされるのは嫌だし、半日かからないなら歩ける」

「荷物は俺が持つよイグサ」


「あんがと」



 その後すぐ荷物をまとめ三人は廃屋を後にする。

 コリュウがイグサの分の荷物と大型のエクエリを持っているため、彼女が彼の代わりに小型のエクエリを持ってツバメとともに周囲の警戒をしながら先を歩く。


「それで向かう先ってどこですか?」


 見渡す限り細い木と廃屋、廃ビル、草原。

 小さな丘で一夜を過ごしたあの廃屋から見ていた景色とさほど変わらない風景が広がっている。


「ここからでも、もう見えていいはずなんだけどたぶんあの丘の向こうかな。今日は少し天気が悪いのかな、霞がかってる」

「まぁどこでもいいや、フカフカのベットがあるなら」


 目的地、生体兵器と戦うための前線基地を目指す。


「それじゃ少し急ぐか、コリュウがイグサと私の分の荷物を持ってくれるわけだし」

「え、隊長の分は持ちませんよ?」


「いいじゃん。ついでだよ、ついで」

「ちょ」


 そういうとツバメはコリュウに荷物を押し付けた。

 あらゆる事態を想定していろんなものを詰め込んだ鞄は一つ一つが重い。

 それを三人分ともなると重いを通り越してただただ辛く呻きふらつくコリュウ。


 コリュウは文句を言おうとしたが、ツバメは走ってイグサと合流した。

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