疾風 2
アラタに聞かされる彼女の知っている限りの第一次シュトルム討伐作戦。
当時シュトルムの攻撃はシェルターの防御力をもってすれば撃退は容易として、討伐作戦には都市戦艦一隻に護衛艦をつけ今回と同じ航路を通ってシュトルムとの戦闘に向かう。
当時はまだ影響圏が小さくこのあたりまでシュトルムの勢力は進行しておらず、このあたりの港のあるシェルターにもたびたび行き来をしていて、そこでシュトルムを倒すため最後の補給を受け、その際補給を受けたシェルターでここから先は危ないとシンヤとアラタを下ろし都市戦艦は北の海へと消えていった。
重たい話に軽い気持ちで聞いたことを悔やみバツの悪そうな顔をするアオイ。
「必ず帰ってくるからと約束したのに、お父さんもお母さんも働いていたみんなも護衛艦に持っていた人たちも誰一人として帰ってはこなかったんです」
「そう……」
「だからこっちから会いに行くって兄さんが」
「あなたはそれについてきたのね。優しい子。でもだったら生体兵器を見てパニックを起こさないでよ。自分で決めたからにはしっかりと覚悟を決めなさい、これから先も生体兵器とは戦うのだから」
「はい」
「まぁ、今のはソウちゃんの読んでる本のセリフなんだけど、ばっちり決まったわね。さてそろそろシンジュガイに戻りますか、お昼休みも終わるし」
それから二週間、戦闘にはならずも2度、都市戦艦が停泊している警戒海域にシュトルムが偵察に飛んできた。
そのたびに修理を中止したため多少の時間を取られたが4隻はまた北を目指し始める。
「くそ、普通に挑んだら負けるからって、嫌がらせに来たぞあいつら」
「熟睡しているところをたたき起こされるってつらいよね」
「とはいえ、これからシュトルムの巣を破壊しに行くんだ。残り少ないその命、せいぜいあがくきもがくがいいさ」
「我々に出会ったのが運の尽き、さぁかかってこいってのも入れないと。シンヤは本に影響されすぎ」
二人は本のセリフを真似して笑いあう。
「しかし、偵察に来たきりで襲ってこなかったよな」
「まだ、狙いがシュトルム自身だってことに気が付いていないんじゃない? 触らぬ神に祟りなしって直感で気が付いて、もう襲ってはこないのかも」
「だとしたら楽だよな、奴らの目と鼻の先まで到着するまで黙って見守っててくれるんだから」
「あるいは、そう思わせておいて油断しきったところを襲ってくるのかも」
「やばいじゃないか、じゃあしっかり見張らないと」
「そうさせて疲れ切ったところを襲ってくるのかも」
空には厚い雲がかかり甲板から見える景色はいつもよりも暗くどんよりとしている。
嵐の影響らしく強めの風も吹いていて、季節の影響で身震いが止まらない。
タイムロスした分を取り返そうとシュトルムに見つかっていないことを想定した航路を少し変えて、陸によせて進んでいると視界の端にシェルターの防壁が見える。
いつものようにフジツボで待機していたソウマは双眼鏡を手にしてシンヤを呼ぶ。
「今日は風が強いね、うう寒い。ほらシェルターが見えてきたよシンヤ。この辺で停泊の予定はないとおもうけど、陸によるってことはあそこへ向かうのかな。……嫌なんか様子が違う、あれ、廃シェルターだ」
「あれ、俺らが昔いたシェルターだな。……廃シェルターになってたんだな」
ソウマの指さす方向に双眼鏡を向けシンヤはつぶやく。
高い防壁には蔦が覆っていて、その端から見える港町は活気はなく廃れている。
近づくにつれより鮮明に見えてくるとよりはっきり人の動いている気配はなく静まり返っているのがわかる、壁の隙間から潮風や波にやられ倒壊した建物がいくつも見えた。
「いた? シンヤとアラタはあのシェルターの生まれなの?」
「いや、……違うけど、あのシェルターにいたことはある。俺らはいろんなシェルターを転々としていたからな、俺らの引き取り手のおじさんが商人であちこちのシェルターを移動してたんだ」
「じゃあ生体兵器を間近で見たことも?」
「いやいや、非戦闘員は装甲車の中で震えてるだけさ。戦闘後もほかの生体兵器が寄ってくる前にすぐに逃げるから死骸も見たことがねぇ、アラタは助手席にいるのが好きで一度見たらしいが」
双眼鏡を下ろしてもシンヤはシェルターを見つめつづける。
「ここで、別れてそれっきりだもんな」
シンヤの親に怒られた時のような声の小ささに疑問を覚えたが、話していた二人の声をかき消すほどの大きなサイレンの音に二人の会話はさえぎられその先をソウマは聞くことができなかった。
『11時の方向、敵影! 数不明』
慌てて双眼鏡を言われた方向へと向ける。
いわれた方角、分厚い雲から出たり入ったりしながらこちらへと向かってくる黒い点がいくつか見える。
「またいつもの、牽制みたいなやつか?」
「違うみたい、数えられないけど数が多いみたい。多分戦闘になる狙っておいて」
警報が止まると私語をしている者はいなくなり、強く吹く風の音が一層大きくなった。