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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
1章 滅んだ国と生体兵器 ‐‐すべてを壊した怪物‐‐
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そして戦場へ向かう、2

 夕焼けでオレンジ色に染まった建物から出る黒煙も次第に収まりつつあった。


 食堂のあたりで先ほどの大型トラックが止まっており、乗っていた一般兵たちがテンポよく荷台から降りている。


 あそこから地下につながる階段を降り避難区画に行くのだろう、今も倒されたことを知らないイーターに怯えている非戦闘員達の元へ。


 ツバメは捻ったかと思われる足をかばいながら歩いていると、ようやく追ってきたコリュウとイグサは彼女の両脇に並んで歩く。


 コリュウは肩を貸すといってきたが、微妙な身長さでかえって歩きずらくなるので拒否した。


 いま彼女たちは特に向かうあてはないが、今日の夜を過ごす寝室を探そうと思っていた、一つくらい無事な建物か部屋があってもいい気がしたので、それをこれから探しに行くのだ。


「あの指揮官、私のことなんか言ってた?」

「とくには」


 ツバメの質問にコリュウは即答だった。


「あのタルト、あの人が作ったんだってさ、びっくりだよね」


 相変わらず話を変な方向に曲げるイグサ。


「んあ、あのタルトを作った? コックでなく、あの指揮官が? この子は何を言っているのだろう?」


 ツバメがどうもしっくり来ていないようなのでイグサは念を押してきた。


「だからあの指揮官さんなんだってさ」


 再確認してくるツバメにイグサはさらに念を入れる。


「いやいや、そんなばかな」

「ほんとだよ、あの人が嘘つくように見えた」


 先ほどの話では肝心なことを言わないだけであって嘘はついていなかった、イグサもむきになって噛みつくように返事を返す。


 仮にあの指揮官が作ったとしよう、信じられない、腹の立つ軍人タイプだと思っていたのにお菓子作り、将棋とか剣道が趣味みたいな感じに見えたのにとツバメは急にあの指揮官のことが分からなくなっていた。


「え、うそ、なにそれ。どうしよう、イグサ怒られたりしない?」


 ツバメの頭の中の指揮官はあの兵隊の見本みたいな態度と喋り方で、イグサの言う料理を自らするような人には見えなかった。


「なんでわたしが怒られるのさ、何でそんな弱気」

「隊長が怒ってたんじゃないんですか?」


 混乱するツバメの顔を覗き込むイグサ。


 強気に出たがあの指揮官は苦手だできれば会いたくない、咄嗟にタルトを食べた責任をイグサに押し付けた、うわぁなんて最低な上司なんだろう私と、混乱する脳内で勝手に要らない心配をして頭を抱え始めたツバメを、二人が足の怪我が痛むのかと怪我を気にして心配してきた。


 さっきは私たちが死にかけたことに対する不満が爆発したものだった。

 イーターがいると初めからわかっていれば、イグサが怪我をすることはなかっただろう、知らない生体兵器を警戒してしまった。

 その後も。他の精鋭が援軍で来てくれると思っていたから長い間引き付け結局逃がすまいと倒すまで至った。

 初めから来ないとわかっていたら、あんなむきになって戦ったりはしなかった基地の外まで誘導してそのまま逃げ切ればよかったのだから。

 要は、何も知らされず基地に行かされたことを怒っていた、しかし途中でのんびりとこの後のことを話し出すイグサと私が襲い掛からないように警戒するコリュウを見て、この怒りが私だけのものだと知って逆に恥ずかしくなった、そして最後は言うだけ言って逃げた。

 そう頭で整理するとまたツバメはその場にへたり込む。


「ツバメ、本当に大丈夫?」

「どこかで休みますか?」


 その後も一人で考え込み気が付くとツバメはコリュウに背負われながら、今の内容をうわ言のように言っていた。


「いや、腹は立たけど冷静に考えれば一般兵じゃ勝てないし。そりゃ、イーターに襲撃されたのとか、援護が来ないならそう伝えてほしかったけどさ。どのみち私たちしか戦えないんだから、戦ってたんだなぁって」

「意外とまじめに考えたんですね」


 ツバメの下でコリュウが感心したような声を上げる。


「うるさい、あの話し方にカチンときたんだよ。おまえおまえって謝る気あるのあいつ? とりあえず、寝泊まりできる空き部屋を探すよ」

「んー、たぶんあそこは無事だと思うんだよね。ツバメちょっと寄ってみていい?」


 そういってイグサが向きを変え歩き出した、ツバメを背負ったコリュウはそれを追う。


「どこか壊れてないところに心当たりあるの?」

「丘の上にあるやつか?」


 考え疲れるツバメを背負ったコリュウが丘の方を見る。


「違う違う、この辺にある建物」


 イグサはコリュウの先を歩きその場所へと案内した。



 イグサに連れられ来た場所は、もともと人が来るような場所でなかったためか、イーターに破壊されず建物には傷一つない完全な状態でそれは立っていた。


 建物外に取り付けられた薄い金属板の階段を上り二階へ、室内はそれなり広く休憩室とつかわれていた跡として机や食器などが仕舞ってある。


 それ以外にも少し荷物が置いてあったが上の階に置くか表にでも置いておけばいいだろう。


「ふーん、拡張工事の行われる前の見張り台。確かにどこも壊れてないし食事も運び込めば出来ないこともないけど、狭くない?」


 広さはあるが天井が高くその天井付近まで物が積まれている、どこか圧迫感のある室内。


「この下のお店でこの笛買ったんだよ」


 銀色の笛を取り出すイグサは、その笛を大事そうに両手で握りしめる。


「まさかそれが役に立つとは思わなかった」

「ねー、ほんとに」


 苦笑するコリュウにイグサはそういうと笛をポケットにしまう。


「とりあえず、兵舎から布団持ってきてもらわないとなコリュウには」


 部屋にある物を大雑把に一か所にまとめ部屋の中央に人の寝られる空間を作ると、ツバメはコリュウの背を叩いた。


「また俺ですか、といっても今まともに動けるの俺だけですもんね」


 足を怪我したツバメと絆創膏と包帯だらけのボロボロなイグサ。


「下のお店、ツバメも何か買いに行く?」

「後で見にいこっかな」


 ツバメが乗り気なので嬉しそうなイグサ。


「その前に夕飯にしませんか? 空腹であんまし力でないんですけど」

「さんせーい」


 コリュウの提案に賛成するイグサだったが動く様子はない。


「それじゃ、食事をとりに行くかな、二人とも荷物を置いてついてこーい」


 休むのか動くのか指示がむちゃくちゃなツバメ、そういう彼女も動く気はない。


「エクエリ以外持ってませんけどね」

「わたし、眠くなってきた……」


 そういうとイグサはその場に横になる。


「え、イグサずるい、私も休みたい……すぐ戻ってくるから、コリュウと夕食になりそうなもの食堂から取ってくるから。イグサはちょっと、まぁ、寝てなさい。できれば部屋の掃除続けてほしいんだけど」

「ちょっと寝たらやるよ、おやすみ」


 たぶんやらないだろうと思ったけど、まぁ別にそれをどうのこうの言う気はないので動く気のないツバメは再びコリュウに背負われ食堂はと向かった。


 向かっている途中、基地の片づけをしている人間が増えていたので避難区画にいた非戦闘員も混じっているのだろう。


 もともと一般兵より非戦闘員が多い基地だ、人の数は一気に増えた。


 あの避難区画はどれだけ収容していたのだろうか。


 見張り台から食堂まで、それほど離れていなかったことから歩いてすぐに到着した。


 コリュウを冷蔵庫の前まで案内しその辺で拾った台車に手ごろな箱を乗せ、ツバメはすぐに食べれるようなタッパーに入った料理を箱に詰め込んで部屋に戻る。


「いいんですか、勝手に持ってきちゃって」


 と言っているコリュウが食材の入った台車を押す役割だ、彼は止まることなく台車を押して痛む足を酷使し歩くツバメの後をついてくる。


「たった三人分の食料だもん誰も気にしないさ」


 ツバメは足が痛むので重たい荷物など持てなく、道案内と食材を箱に詰めた手伝いしかしていない。


 見張り台までもう少しのところで建物の陰からひょっこりと指揮官が現れた。


 なぜこんなところにと思ったが、タブレット片手に基地内の壊れ具合を歩いてみて回っているようだ。


「あ、やばい」


 ツバメは咄嗟に来た道を引き返そうとも思ったが、十歩もないこの距離はさすがに向こうも気が付いた。


「やぁ、どこか無事な部屋は見つかったかな?」


 今回は指揮官は軍刀を持っておらずどこかに置いてきたようだ、手に大きめのタブレットを持ってこちらに歩いてきた。

 来なくていいのにとツバメは内心帰れ帰れと念じていた、無駄だったが。


「……まぁ、いちおう……」


 指揮官を目を合わせず答えるツバメ。


「そうかそれはよかった。後であの女も子が食べたがってたタルトを持っていくので、どこにいるか教えてくれ」


 目を合わせないのを少しだけ気にしながら指揮官は尋ねる。


「あー、うん、はい。この基地のもともとあった見張り台、いまは使ってないっぽいやつです」


 ツバメはいやいや目前まで迫っていた見張り台を指さす、二階部分に明かりがともっている。


「ああ、あそこか、わかった。では後でまた会おう」


 そういうと指揮官は二人の横をすり抜けていく。


 ツバメはまた会うことになりそうなので出来れば寝床にした場所は言いたくなかった。

 コリュウの持っている荷物には何一つ言わずに指揮官は行ってしまった。


「何も言われませんでしたね」


 小さく息を吐き出し安堵するコリュウ。


「びっくりした、鉢合わせるとは思わなかった。後で来るってさどうしよう」

「別に説教されるわけじゃないんですからいいんじゃないですか」


 おろおろするツバメをコリュウがなだめる。


「私苦手なんだよ、ああいうの」

「なんか、意外と普通の人っぽかったですけどね」


 コリュウがそんなこと言うが、話半分に信じておくツバメ。

 結局のところツバメはまじめそうな奴は苦手なのだ、本能的に。


 明日か明後日にはイグサの体やツバメの足のことで医療施設のあるシェルターに行くのだ、荷物を受け取り次第ここを立つのだから会っても一、二回、ツバメはそれも嫌だった。


 コリュウに背をわれツバメたちが部屋に帰るとぐっすりとイグサは寝息を立てうずくまるようにして眠っていた。


 袖やスカートから見える地肌に包帯がまかれ、顔や手には絆創膏が貼られそこに血がにじんでいる。

 ツバメは先に部屋に入り後ろからガチャガチャと音を立てコリュウが荷物を抱えてやって来る。


「イグサが寝てる静かに」


 寝ているイグサに気が付かないコリュウにむかって口元に指を持っていくジャスチャーをしてから床に座るツバメ。


「眠いって言ってましたからね。というかなんか俺たちこの基地に来てから寝てばっかな気がします」

「そうだね」


 腰に巻いた上着を彼女にかけるとツバメは壁にもたれかかり床に座る。


 この部屋机はあるが椅子がないからだ。


 コリュウも荷物を机の上に置くとその場に座った。


 そして彼にツバメはこの後の大まかな予定をはなす。


「私の足の怪我が治るまでしばらく戦場には出ないから」

「イグサの傷もありますからね」


 そっと寝ているイグサの顔を見る。


 イーターの不意打ちをくらい生き延びた彼女、この程度の怪我で済んだのは幸運だろう。


 コリュウはイグサの姿が見えなくなった途端使い物にならなくなってしまったが、彼は彼なりに頑張った方だろう、最後はイーターを倒したのだから。


「んで、助けに行ったときイグサなんか言ってた?」

「はい?」


 突然のことで呆けるコリュウ。


「散々私の足を引っ張って助けに行ったとき、イグサは何て言ってたって聞いてるの」

「ああ、助けに来てくれてありがとうと」


 普通じゃん言葉にはしなかったがツバメのリアクションを見てコリュウは何が言いたいか察した。


「告白とかはしなかったの?」

「しませんよ、そういう状況じゃないでしょ」


 顔を赤らめてを振って否定するコリュウ。


「私を囮にしていたんだから、何かしら進展ないと困るんだけど」

「そういわれても、イグサの無事を確認したら隊長の元にすぐ向かいましたからね」


 ごまかすようにまじめな返事を返すコリュウにツバメはこれ以上聞くことをあきらめ足を延ばす。


「つまらないなぁ」

「面白がられてもいやですけど」


 寝ていたイグサがのそっと動くと、上半身を起こしボーっとしている。


「ごめん、五月蠅かった?」

「……うん」


 イグサの眠そうな目は起きているのかボーっとしているのわかりづらい、下手に完全に起こすと少し機嫌が悪い状態が続く。


 彼女の滅多にしない舌打ちや罵倒は意外と心に深く刺さる。


「ほら、イグサ。夕食の用意するぞ」

「コリュー一人でやって、私寝る」

「……」


 そういうと彼女はまた横になった、まったくもって自由な子だ。


「私、手伝おっか?」

「隊長は休んでていいですよ、足つらいでしょ」


 さすがにすべてコリュウにやらせっぱなしにすると、彼の反感をかいそうだったのでここは進んで名乗り出たが逆に心配された。


「んじゃ、甘えるよ。実際一人で立ち上がるのなかなかきついし。あ、コリュウ、食材入れた箱の中に保冷剤入ってるから、それ頂戴、足を冷やすから」


 後はコリュウに任せてツバメもしばらく体を休めるとしようそう思い彼女も横になる、投げられた保冷剤を受け取り足に当てると、自然にうずくまるような姿勢になった。


 それから彼女はしばらくコリュウが一人で作業をしている音を聞いていた。


「隊長、箸持ってくるの忘れたんで、ちょっと行ってきますね」


 もう少しで眠るか眠らないかというところでコリュウが話しかけてきた、数分くらい寝ていただろうか。


「ん、ああ。わかったここにいるよ」


 音もなくイグサが起き上がり無言でツバメの方によって来ると、怪我をしていない足を枕にしてまた横になった。


 しかし出ていくコリュウといれ違いに、指揮官が入って来てツバメの眠気はどこかに行ってしまった。

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