出航 2
最初の目的地を前にソウマは足が止まる。
着いた先は一番砲塔のそば。
都市戦艦の巨大な船体に合わない小さな砲塔、艦砲射撃による対地攻撃を目的とした榴散弾、榴弾を主流とした大砲。
対生体兵器にしても普段要請がなければ使用することがない飾りのようなもの。
――ここは、届けづらいなぁ……最後にしようかな。
ソウマが部屋の前でもたもたしていると入ろうとしていた砲室の扉が開く。
出てきたのは白髪交じりの男性、昔から都市戦艦で働いているソウマの祖父の戦友。
ぶっきらぼうで目つきが怖くそれなりの歳なのに筋肉のある体格のいい老人。
「あ? お前、港で降りなかったのか。こんなところで何をしている」
「荷物をお届けに、きました。うなっぅ!」
老人からいわれのない拳骨をもらい頭をさすりながらソウマは荷物を手渡す。
「ったく、注意は受けたんだろ。今回は数隻の都市戦艦をわざわざ戦闘に参加させるくらいなんだ、危険だってことがなんでわからない、なぜ親の言うことを聞かなかった。お前がいるってことは姉も一緒か」
「う、ううん。一緒、です」
口調が強くいつ来るかわからない拳骨に怯えるソウマ。
「ったく、何があったらどうするんだ。この様子からするととりあえずは戦闘の際に怪我をしないような部署には配属されたようだな。流石に子供を危険な場所に送り出す親もいないな。戦闘時はちゃんと所定の場所に逃げろよ。じゃあな、用が済んだのならさっさと次の仕事に行け。もたもたしているようなら船から降ろされるぞ」
「わかった、気を付けます」
拳骨の受けた頭をさすりながら台車を押して次の目的地へと移動する。
次にソウマの向かった先は船の下層、昇降機にのって次の荷物を渡しに船医の元へ。
階層ごとに番号が書かれている以外ほとんど同じ造りになっている通路は慣れていないものが通るとほとんどが迷う、勝手知ったる我が家同然のソウマにとっては目をつむっても目的地へと向こうことができる。
医務室の前を創始している白衣を着た眼鏡の男性、先ほどの老人と違って彼とは話しやすいほどに親しかった。
「こんにちは」
「どうかしましたソウマ君? ……そうですか、この船を降りなかったのですね。たぶんうんざりするほど言われたでしょうし私からは何も言いませんから」
荷物をもってきたソウマを見て、姉とともに書類にサインをし去っていく父親同様に悲しそうな顔をするも部屋の中に案内する。
「今日は郵便配達ですか?」
「仕事で、間違ったところに届いた荷物を届けてる」
ポットの湯を注ぎ紅茶を入れソウマに差し出した。
ソウマはそれを一杯だけもらいカップの後に荷物を渡す。
「そうですか。それはまた、ご苦労様です。ゆっくりする時間はありますか? よければお茶でも、ここは戦闘にでもならない限りは誰も来ませんのでゆっくり休んでいっても」
「まだ仕事が残ってるから、姉さんの問いころに行かないと」
「そうですか。では、また別の機会に遊びに来てください」
「そうします、姉さん連れて」
荷物を渡すとそのまま最後の積み荷を届けに上層へと戻る。
二つの荷物を届けソウマは台車を押し第二食堂へとやってくると。
「お、ソウちゃん、どうしたの?」
「荷物のお届け。荷物が間違って届いてたから正しいところに持って行ってるの」
「うわー広い艦内を歩き回ってお疲れ様ね、いまって急いでる?」
「ううん、これで最後。あとは戻るだけ」
「そう。なら少しつまみ食いでもしていく? 小休憩でもらった焼き菓子があるんだけど食べる?」
「船って、乗せる食料に決まりがなかったっけ?」
「大きな船だからそれなりの資源に余裕も大きいだって。またお菓子が食べられる、クズリュウシェルターでレシピが増えて作れるお菓子の種類が増えたそうよ」
「そう、姉さん太るね」
「育ち盛りで何とかなる。はずよ」
「姉さん一時、艦内マラソンしてたよね」
「あれは運動不足だったから」
「そういうことにしておく」
「それより聞いてよ、ソウマ。ここ、豆苗やもやし、納豆も作ってるのよ! しってた?」
「豆苗はしってた」
初めての仕事について談笑をしたのち最後の荷物をアオイに渡しソウマはもらった焼き菓子を手に空になった台車を押す。
厨房の向かい側にある食糧庫も荷解きの様で荷物を右に左にへと移し替えていた。
癖の強く長い髪をまとめ上げ額に汗をかきジャガイモの箱を指定された場所へと運ぶ姉の姿を見ながら焼き菓子を食べきる。
そろそろ自分も自分の仕事に戻ろうとすると、すぐそばに置いてあった玉ねぎの入った木箱の下にある木箱から物音が聞こえた。
箱の中身は上のものと同じ玉ねぎと描いてあり箱の中身がひとりでに動くわけもなく、ソウマは咄嗟に手を胸の前に持っていき防御態勢をとる。
「え、なにこわい」
ソウマのほかに誰も気が付いていないようでアオイもくたくたになりながらジャガイモを運んでいる。
「え、こわい……どうしよう」
そっと木箱に大差の先端をぶつけてみる。
見間違いでも聞き間違いでもなく明らかに木箱の中で何かが動いた。
そしてさらに明らかになったのは箱の一部、食料に混ざりこんでいるわけでなく箱そのものにまるまる何かが入っている。
「なんかいる……え、どうしよう」
ソウマはアオイの元へと助けを求めに行った。