特定危険種、16
コリュウたちの乗っていた軽装甲車両はまだ動く、装甲の厚いボンネットや天井が大きくへこんだだけだ。
しかし、逃げ道は屋上から降ってきたクレーンにより封じられている。
地面に降りるとイーターはまたU字の型を取った。
ここは屋上じゃない、よって吹き飛ばされて落ちることはないが、だから平気ということでもない。
「イグサは逃げろ、走れないだろ」
「だったら隊長もですよ、足」
そういわれ少し困った顔をするツバメ、捻った脚は歩こうと擦れがひどい痛みが彼女を襲う。
「でも、コリュウ一人で相手できる相手じゃないだろ」
「俺のエクエリはイーターが下りてきた方の屋上です、屋上にクレーンを操縦するのに屋上へ上る梯子か何かあるはずです、どうにかして上に行って俺のエクエリを」
イーターが襲ってこず警戒してくる間に、早く怪我をしている二人を逃がしたいコリュウ。
「でもそれなら、走れるお前の方が……」
「走れる俺の方がまだイーターの攻撃を回避できますよ」
そういってコリュウは二人の背中を押す。
イグサは振り向くことなく真っすぐ兵舎へと逃げていったが、足を引いてるツバメは何度か立ち止まった。
今思ったがイグサはエクエリを持ったままだ。
「早くいってください!」
しきりにこちらを気にしていたツバメも壊れた渡り廊下から兵舎の中へと入っていった。
3人いた時は様子を見ていたイーターが動いた、コリュウを狙ってまた頭と尻尾を使い交互に突撃してくる。
後ろが広い分、馬鹿正直に避けず倒れたクレーンの残骸に逃げ込んだ、鉄骨を編み込んだようなクレーンはイーターが行動と攻撃がしずらいだろうと思って。
それをわかってかイーターはU字を解いた、そして距離を取り勢いをつけて突進してくる。
ここなら手も足も出ないだろう、そうコリュウは思ったがこの状態、彼に直接攻撃を加える必要はなく、隠れているクレーンごと体当たりで吹き飛ばせばいいだけなのだから。
絶好の隠れ場所だと思った場所は瞬時にコリュウを閉じ込める牢獄になった。
ぶつかった衝撃で何本か鉄骨がはずれ、大きな鉄骨が拉げる、ボルトが音を立てて飛んでいく。
二人と別れてまだ一分と立っていないの関わらず、彼は絶体絶命のピンチ。
気持ち程度に外れた鉄骨をつかむ、これで生体兵器にダメージが入れられればここまでの苦労はしない。
次の体当たりのタイミングでクレーンの残骸から飛び出る、コリュウが隠れていたジャングルジムのようなクレーンはバラバラになってそこら中に散らばったが、そんなのを確認している時間はなく車に乗り込んだ。
鉄骨を投げ捨て、車に乗ると扉を閉める時間も惜しく座席に座り次第思いきりアクセルを踏む。
側面を見せているイーターの押さえつけるため頭付近の胴体に乗り上げた、よほど驚いたのか尻尾が車に巻き付いてくる。
巻き付くように車にとりついたかと思ったら、軽装甲車が悲鳴を上げ始めた巻き付いたイーターに潰されている。
コリュウははイーターの足につかまらないように慎重に避け車から降りた、頭を押さえ抜け出すには時間がかかるだろうそう思って彼は笑みがこぼれたが、巻き付いた生体兵器の力に引っ張られるように軽装甲車が傾き始める。
「コリュー!」
知らない間に隊長のエクエリを持ち逃げしたイグサが戻って来て攻撃を開始した。
コリュウは流れ弾に当たらないように車から距離を取る。
巻き付いた体によって車体後部が潰された、しかしいまだに頭に乗り上げている車が重しとなり逃げられない。
しかし、ゆっくりとだが後ろに下がり車から抜け出している。
半分より頭側に乗り上げたため、進みぬけるより後ろに下がった方が早く抜けられる、早く何とかしないとせっかく身動きを止めたのにここまま逃げられてしまう。
「コリュウ、投げるぞ受け取れ!」
屋上に到着した隊長が上からエクエリを放り投げる。
ここから撃つよりコリュウが至近距離で撃った方が命中率が上がり効果があると判断したのだろう。
コリュウより若干後ろ目に投げられたエクエリを飛び上がって両手で受け取ると、車の真下に潜ったその赤い頭に連射する。
至近距離からの攻撃、もちろんここまで無傷で済ませてきた触覚を一番最初に吹き飛ばした。
イーターの行動を封じたのを確認して後からイグサがコリュウのそばにやって来た。
「コリュー、どこ狙う?」
「頭」
「わかった」
触覚をちぎると次は大顎を重点的に撃った、それにイグサも参加する。
触覚を破壊、大顎を破壊、頭部を破壊、今までどうやってもとれなかったイグサのエクエリがその破壊された口から滑り落ちた。
エクエリの弾丸は生体兵器の体を削る、流れ弾でイグサの大型のエクエリにいくら当てても壊れたりはしない。
コリュウは頃合いを見て車に乗るとき投げ捨てた鉄骨で、隙を見て大型のエクエリを取りに行った。
彼の接近に気づいたのかイーターが身をよじり胴体につけられた複数の足にコリュウの背中が引っかかれる。
危うく二つ爪のついた足で身を裂かれるところだったが、彼は強化繊維の制服を脱ぎ捨て脱出した。
「コリュー大丈夫?」
「ててて、ああ、無事だ」
車に巻き付き強引に頭だったものを引っこ抜いた、頭に開いた多くの穴から体液が流れ出ている、無数の足が今までとは別の生き物のように動き軽装甲車をひっかいて何重にも重なった嫌な音が響く。
まるで声のあげることのできない昆虫型生体兵器を代弁するかのように、耳障りで不愉快な悲鳴のような音をずっとずっと。
「どうしよう?」
「これでとどめを刺すさ、イグサ撃つか?」
「いや無理、もう持ち上げる体力ないかな、あともう少し離れた方がいいかも」
そういうとコリュウはイグサの大型のエクエリを持ち上げる、誰かの血がべっとりとつき彼女は持つのをためらった、銃身に大顎の跡が大きくついていたが壊れてはいないようだ。
長い時間戦っていたこともあってツバメもいつの間にか渡り廊下のある方から歩いてきた。
「仕留めます」
「任せた」
弾種を切り替え、車に巻き付いたイーターに向かって大型のエクエリを撃つ、軽装甲車とクレーンの残骸が一瞬、青白い稲妻を放って光ったのち車は爆発炎上する、巻き付いたイーターもろとも。
炎の中で特定危険種だった生体兵器が燃える、火の中で踊るように動き回りその動きは少しずつ遅くなる。
その後しばらくは誰も何もしゃべらなかった、そして燃える生体兵器はほとんど動かなくなった。
ツバメはイーターに乗り上げる前の車のあった位置から、おそらくは車から急いで逃げる際に誰かに引っかかり一緒に車から落ちたのだろう、その自分の制服の上着を拾い上げ土埃を払っている。
コリュウは燃える炎を見ながらその場に腰を下ろした。
イグサは自分の血まみれの大型のエクエリを、兵舎から取って来たカーテンか何かの切れ端で拭いている。
「とりあえず、ここを離れよう生き物が燃える異臭がする」
腰に上着を巻いて袖と袖を結ぶと隊長が口を開く。
「そうですね。基地の出入り口まで行けば、帰ってくる人が見えるでしょう」
「結局誰も来なかったね、増援」
「そうだな、向こうで何かあったんだろうか」
三人ともボロボロのくたびれ顔でお互いを見る。
「どうでもいいよ、お風呂入りたい……」
「タルト……」
ツバメの上着から着信音が聞こえる、といっても振動音だが。
『……つながったか、そっちの状況はどうなっている朝顔隊』
その声は女性指揮官のものだった、コリュウたち以外誰もいない基地の中、コリュウは彼女のすぐ近くにいたのでその声はしっかり聞こえる。
「えっと、誰も来ないから死ぬ思いまでしてイーター討伐した。私たち三人で戦った。お前たちは今まで何していた、何で他の精鋭は来なかった!」
静かにそしてだんだんと声に力がこもっていき、最終的に隊長は声を荒げた。
『すまない。そう怒るな』
「これが怒らずにいられるかってんだよ!」
ツバメが端末に怒鳴るとコリュウの脇でイグサが不安そうな表情をしている。
しかし、向こうの声はいたって冷静だった。
『……ふぅ。鬼胡桃隊および山茶花隊はシェルターに搬送されたよ、グールベビーに噛まれた』
「……」
『続きは帰って直に話そう』
車が向かっていた基地の出入り口、そこから三台の軍用車両が入ってきていた。
一台は大型の深緑一色の装甲車、外部カメラで外を確認するためその車両にフロントガラスはなく、エクエリの銃身を出す為の覗き窓がたくさんある四角いコンテナ状の車体に、戦車に取り付けるものよりずっと小さな砲台があり、左右に三枚、後部に今一枚、計七枚のドアが付いている。
残りは、緑と黒の迷彩模様の資材運搬用のトラックより大きく、横にパンクした際の予備のタイヤをいくつも取り付け、その荷台には戦車が載せられそうなほど大きかった。そしてその荷台は戦車の代わりに、大勢の兵隊を乗せていた。
こちらに気づいた向こうは進路をこちらに変え速度を落とし合流した。




