それは光を反射して 3
ココノエの命令に従いキュウはエクエリを口に挟まれた腕の付け根にむける。
しかし、ココノエを傷つける事、引き金を引くことはできなかった。
「キュウ!?」
「できません。指が、動かない!」
ぴたりとココノエを狙ったエクエリが自分のしていることに気が付いたことで途端に震える。
ココノエは自分にむけるエクエリを動かせる腕でキュウから奪うと自分の噛まれた腕にむけて引き金を引いた。
エクエリで撃たれた箇所は肉はもちろん骨ごと綺麗に消滅する。
強化繊維の袖に穴が開きココノエは自由になった反動で倒れ、エクエリを目の周りに撃つとウォークキャッスルはそのまま首を引っ込める。
腕が千切れる感覚は少なく、時間がたちあとから痛みが上がってくるもののそこからは多量の血が流れ出ている。
「キュウ、離れるぞ。首を引っ込めているうちに……」
「もう大丈夫っす。ノエ、こいつ目に刀刺さったまま首を引っ込めたんすよ。あの皮膚に刃は通じないはず、柔らかい目の奥にしか動かないからどんどん奥へ。自分で自分の脳みそにとどめ刺したんすよ」
ズシリと今までより一気は大きな揺れを起こしその巨体は崩れ落ちた。
「死んだか……。すぐにここを離れる。その前に止血できる物を探すぞ」
「そっすね。い、いそいで止血しないと! 私のヘアバンドで……ダメか、今探しますから」
「ひとまずは、近場で横転しているトラックのほろで代用しよう」
「衛生面が不安っすね」
血がとまることなく流れ出るココノエの腕を見てギョっとし急いで縛れるものを探し、トラックのほろを裂いてココノエの腕に巻き付け血の流出を防ぐ。
「応急処置っすけど早くちゃんとした包帯と消毒を」
「ああ、帰ろう今度こそクオンのエクエリをもって」
再び動かなくなったはずの巨体のその首が伸びる。
狙われたのはキュウ。
「脳貫いたのに死なないっ!?」
離れていてもすぐに距離を詰められキュウは慌てて横に飛び口の中に入ることは免れたがそのまま頭に衝突され彼女は勢いよく吹き飛んでいく。
流れる大量の血て動きの鈍くなったココノエはエクエリを構え、目を突き抜け上顎から黒い刃の生えるウォークキャッスルへとむける。
「キュウ、動けるか」
「このっ! ノエから離れろ、お前は」
立ち上がるとキュウはウォークキャッスルへと向かって走り飛び掛かった。
そして目に深々と刺さる柄に手を突っ込み目の奥で掴むと今度はそれを引き抜こうと精一杯力を咥える。
「今度こそ脳に刺すんだぁぁぁ!」
キュウが飛びついたことでそれを振り払おうと暴れるウォークキャッスル。
首を体の中に引っ込めると抜かれつつある刀がまた体内へと刺さるので、首を伸ばしそれを左右に振って振り落とそうとする。
「このぉぉぉ!」
「キュウ! 無理をするなお前まで怪我をしたらにげられるものも逃げられなくなる」
暴れるウォークキャッスルに踏みつぶされないよう距離をとるココノエが叫ぶ。
「そんなこと言ったって無理なものは無理っすよ! こいつを殺さないと逃げられない」
「くそっ」
キュウを援護するため効果はほとんどないがエクエリを撃ち続ける。
刀が抜けていくたびに新しい血があふれ出し。その血で手が滑りキュウがウォークキャッスルの頭から落ちる。
「あうっ」
「早く離れろ、キュウ」
水溜まりに派手に水飛沫を上げて落っこちそこへウォークキャッスルが迫る。
ココノエがエクエリで気を引こうとするが効果はない。
ウォークキャッスルは口を開く。
そこへキュウをすり抜け3両の戦車が突っ込んできた。
3両はウォークキャッスルのわき腹に突っ込みキュウから力技で引きはがすと後から現れた装甲車からケンとヒャッカが顔を出す。
『お待たせしました。撃つとキューが射線に入っていて危なかったので体当たりで引きはがしに……ココノエさん、その腕!?』
『待ってろ、いま治療道具を用意する。すぐにこっちにこい』
キュウから引きはがすと戦車は一斉射をくらわせる。
しかし大型のエクエリより高火力の光の弾もその分厚い皮と甲羅を貫くことができない。
「あの一撃でも倒せないのか、どれだけ丈夫な体なんだ」
「このままじゃ助けに来てくれた戦車隊がやられるっすね」
「頭を狙っても同じだろうな」
「方法が一つだけあるっす。死ぬかもしれない手ですけど、さっきと変わらないけど確実に倒すための方法が」
「キュウ、もう一度行くぞ」
「はい! どこまでも」
二人はボロボロの体を起こしウォークキャッスルへとむけて走り出す。
ヒャッカとケンが通信で引き留めるが走り出した二人は止まらない。
弱ったココノエより先にキュウが頭に飛びついた。
戦車に気を取られそれの殲滅に集中しているウォークキャッスルへの接近は容易でキュウとココノエはその頭へと、引き抜きかけた刀を今度は二人の力で押し戻した。
「「せーの!」」
グチョリと刀を通じての感触が伝わり、ふつりとその個体がもう一度地面を揺らす。
先ほどと違う点は、その体はもう二度と動き出すことはなかった。
頭の中まで突っ込んだ腕を引き抜き頭から降りると二人はその場に倒れ込んだ。
駆け寄るヒャッカとケンの声も届かず二人は気を失い治療を受けながらシェルターへと帰還した。