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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
9章 ただ助けたくて ‐‐戦うことを強いられる呪い‐‐
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雷鳴 2

 作戦開始の数時間前、防壁の上にココノエとキュウはいた。


 付近に人の気配はなく生体兵器を警戒する一般兵たちはここから離れた見張り台にいて、戦闘時以外は掃除で位しか人の訪れない場所に来ていた。

 まだ日が昇る前の空が明るくなり始め防壁の上で風を遮るものはなく生ぬるい風が二人に吹く。


「こんなはずじゃないのに」


 着慣れた強化繊維の制服を見てキュウがつぶやく。

 エクエリをホルスターに入れて腰につけ重たい装備をもったままで、動くたびに調子の悪いか金具がカチャカチャと鳴っていた。


「ノエに隠れてこっそりかわいい服買ってたんすよ、デートのために。お弁当もお昼に食べたっかったのに、まさかの朝ご飯。夜に作っておいたんすよ」

「時間が早まったんだから仕方ないだろ」


 故障中使用不可と張り紙のある砲台の横に腰を下ろし防壁の内側、町の方を見る。


「んー、もう。どこのお店もやってないしバスも走ってない、何時間後かにこの下で集合で、そのまま戦場まで行くんすよ!」

「仕方ないだろう、電波が悪くて日にちを間違って聞き取っていたんだから。怪我したらデートできないから戦闘前にした結果がこれだろ。いいから隣に座れ」


 待ちに待ったデートにもかかわらず機嫌の悪いキュウ。

 最も何もない空の下で朝ご飯を食べるだけというデートで満足するわけもなく、むくれたままココノエノ横にちょこんと座る。


「作戦が終わって全部終わったら他のシェルターでデートします」

「わかったわかった。今日のはノーカンだ俺も流石に納得できないからな。まぁせめてもの場所だ、歩いてこれる場所でここが一番景色がいい」


 キュウたちのいる防壁の彼方、廃墟と山のそのさらに先に見える地平線から日が昇る。

 光り輝く世界を見ながら生体兵器の襲撃のない静かな朝を過ごす。

 誰もいない防壁の上、日の出を見ながら二人はキュウの手間暇かけて作ったお弁当を食べ始めた。




 二人のデート後、作戦開始時。

 温存していた虎の子の装甲車や防衛用の重装甲の戦車などに乗り各自受け持った戦闘区域を目指す。


「ついに特定危険種と正面から戦うんですね、防壁が遠ざかっていく、胃がきりきりしてきた……。そういえば朝、二人ともどこに行っていたんですか? 私に朝ご飯作り置いて行って」


 戦車の砲塔に腰掛けヒャッカが遠ざかっていく防壁に別れを告げる。


「散歩だよ」

「これからの戦闘に体がついておかないと困るからウォーミングアップしてたの」


 キュウがエクエリを取り出しバッテリーを確認して元の位置に戻す。

 これから生体兵器のいる場所へ向かうため生体兵器の居場所がわかるというキュウは落ち着きがなくなっている。


「そういえば今日の車両はあまり揺れないっすね」

「戦車だし、それに今回の作戦にすべてをかけしっかりと手入れしたらしい。今回の作戦に失敗したらもう変えの部品がないってさ」


「ほんとうちのシェルターはぎりぎりのところだったんすね」

「食料は問題なくてもそれを作る機械の部品とかが壊れたら、人力で畑の手入れをしなくなるからな作業効率が落ちて一般兵にも畑仕事を手伝だってもらわないといけなくなる。生体兵器と戦って畑も耕して……そんなのが続けばぶっ倒れるな」


「でも,きょう勝てばそんなこともなくなるんすよね」

「ああ、勝つ・・・・・・というか、時間を稼ぐんだけどな。倒そうと思うなよ、小型のエクエリじゃ歯が立たないのはわかってる」


 戦車の上でのんびりと戦場に着くのを待っている。

 本日も気温は高く地面からの照り返しで蒸し返すような暑さ、空を流れる大きな雲の塊が時折太陽を隠しその時だけ気持ち涼しくなる。


「ならどうするんですか?」

「ひたすら逃げ回るか、戦車隊の前におびき出して一気に削る」


「それしかないですもんね。増援はいつごろ来るんですか?」

「向こうも今頃こっちへ向かってきてるころさ、どこで鉢合わせるかは知らないからそれまで時間を稼ぐしかないさ。どれくらいの規模で来るのか全然情報がなくて不安だけどこっちはシェルターの命がかかっている。なるべく早く来てくれるのを祈るしかない」


 特定危険種などが思っていたよりも強く救援が引き返すかもしれない、そうなればシェルターは終わる。

 握った拳に力が入った。

 不安げにココノエを見るキュウとヒャッカ、精鋭として何度も窮地に陥り危険な場所へと飛び込んできたが今度はそのレベルが違う。

 もし援軍が作戦に失敗し撤退するならこの作戦に参加したほとんどのものが死ぬだろう。


 キュウがココノエの握った拳に手を乗せる。


「大丈夫、作戦は成功するっすよノエ」


 優しく笑いかけココノエを自分なりに勇気づけようとするキュウ。

 彼女を見てココノエは隊長として気を引き締め直す。


「ああ、全力で挑む。誰も死なないように最善を尽くせ」


 ココノエの命令に二人は気持ちを切り替える。


「了解」

「了解っす」


 ココノエとキュウが手を重ねているうえにヒャッカがさらに手を乗せる。




 次第に太く育った木が増えていき森が見えてくる。

 それぞれの持ち場に向かうため少しずつ部隊が分かれ本体から離れていく。


『鬼百合隊、そちらともここでお別れだ健闘を祈る』


 携帯端末に指揮官の声が聞こえ、ココノエたちの乗った戦車隊が車列を離れる。

 装甲車2両と戦車6両、一般兵を乗せたトラック1台、一般兵30名ほどの特定危険種と戦うとは思えないほどの小さな戦力。

 それでも数少ない戦車を多く回してもらえたことに感謝する。


 本体を離れ十分もしないうちに作戦区域である山が見えてきた。


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