特定危険種、13
コリュウの上に乗っかているツバメを起こさせ、コリュウは体勢を立て直すとUターンした車の進行方向正面を見る。
黒煙から離れるようにイーターが建物の陰に消える、こちらを追ってこない。
「逃げた、撃退ですか?」
「わからない、隠れただけかも。でもここで逃がすのもなー。折角ここまで戦ったんだから倒したかったちゃぁ、倒したかったけど」
勝てそうなら勝ちたいとツバメは判断できずにいた、ここで逃がせばさらに強力になって別の前線基地を襲うかもしれない。
「さすがに応援が来ないとどうしようもないじゃん、わたしたちもうほとんど戦えない状態なんだから」
「そうだよ、援軍というか戦場跡地の味方はいつ帰って来るんだよ」
ツバメが脱いだ上着から携帯端末を取り出し連絡しようとした。
「……つながらない。使えないなぁ」
「基地の外には電波届きませんからね」
またしてもツバメは端末を振っている。
「アンテナ車の意味は」
「ツバメどうするの? イーター追っかける? 戦場跡地に逃げる?」
完全にイーターの姿が見えなくなり、兵舎の前で停車させる。
この前線基地に来たとき、コリュウとイグサが見上げた大きなクレーンも仕事の途中で放り出されたのだろう、地面から持ち上げられた資材が二階ぐらいの窓の位置くらいで中途半端な高さに浮いている。
「そうだな……んー」
「隊長」
悩むツバメにコリュウが話しかける。
「何?」
「まだ兵舎にバッテリー置いてありませんでしたっけ」
コリュウは戦う気でいた、爆薬は仕留めるには至らなかったがかなりのダメージを与えたのは確かだそしてイグサをボロボロにした憎い敵でもある。
「あるけど……いや、中途半端に使って整備に渡し忘れた奴じゃん,コリュウが持って行ってくれなかった奴。取りに行こうとか考えるなよ、どうせ私たちのエクエリじゃあいつは倒せないんだから」
「でもイーターが襲ってこない今なら取ってこれます」
いまだに逃げるか戦うか決めきれずにいたツバメ。
「何でコリュウそんなやる気なの、別にいいよもう撃退したってだけで十分」
「ここまでしたんだから倒したいじゃないですか。隊長だってさっき言ってたじゃないですか」
さっきまで自分たちがやられないようにするので精一杯だったが今は違う、爆薬なダメージが履いて弱っているだろうイーターに優勢に立っているからこそこの流れのまま倒すことも可能じゃないだろうか、コリュウはそう考えていた。
そもそもまだイグサを襲った仕返しができていない、このまま逃がしたらこのもやもやはずっと残る気がするとコリュウは好戦的だった。
「今のわたしたちには無理だったんだよ、わたしのエクエリないし。初めから100%の力が出せてなかったんだから、そういえばグールとか物量で楽勝だとか言って持ってこなかった医療キットも部屋にあるよね」
自分の怪我を見ながらイグサは独り言のようにつぶやいた。
「え、結局イグサはどっちの味方なの?」
「都合のいい方、かな」
力の抜けるようないつもの会話をしながらイグサとコリュウはツバメを支持を待つ。
「ていうか誰か外みててよ、私考え事してるんだから」
「珍しいツバメが考え事するなんて。いつも感と気分で作戦決めてるのに」
「私だって考えるときぐらいあるさ。じゃあいいよ勢いに乗るさ、イグサはここで待機イーターが出たら迷わず逃げて、私とコリュウは部屋に行くいいね」
「はい」
後部座席のドアを開け周囲を警戒するツバメ。
「途中、イーターが襲ってきたら部屋に戻るのはあきらめて逃げるから。返事は」
「わかりました」
コリュウに確認を取り戦う覚悟を決めるツバメはエクエリを構えた。
「残りエネルギーの確認、12%。コリュウは?」
「残り26%ですね」
最後に運転席にいるイグサに話しかけるツバメ。
「イグサは絶対に逃げてよ、ぎりぎりまで私たちを待ってなくていいから。運転下手だし怪我がひどいから無茶な運転させられないし、これがやられると私たちの逃げる為の足がなくなるんだから」
「わかった」
イグサの返事を聞くとツバメは車から降りた。
「よしじゃあ行くぞ、コリュウ」
車を降りると二人は全速力で兵舎の中を走った、窓が割れ壁や天井が崩れここも出撃前とは大きく様変わりした。
瓦礫や割れたガラス片を踏みつけ走る。
速度を落とさず階段を駆け上がり二階へ、目的の部屋は突き当りの角部屋だ。
二階の廊下を走っていると視界の端に赤い色が見えた。
「2時の方向、窓の下にイーターがいます!」
「止まれ!」
エクエリを構え立ち止まると耳を澄ます。
破壊音、一階のどこかで壁が壊れる音がした。
シシシシシ……
階段の方から石を蹴る音ガラスを踏み割る音が聞こえる、イーターはこの建物の中に入ってきた。
「後ろ!?」
「直接こっちを追ってこないのか」
階段は長方形の兵舎両端にあったが、一か所しかない兵舎入り口側に軽装甲車両が停まっている方のため、別の階段から下に逃げても車に乗れない。
「このまま部屋に行くぞ」
ツバメが勢いよくドアを蹴破り部屋に飛び込む。
コリュウは部屋の鍵を持っていたのだがこれは不要になった。
机の上に並べられた長細い長方形バッテリー、昨日イグサが遊んだまま施設の破壊される揺れに耐えテーブルの上で直立しているのがいくつかある。
「どれが、まだ使えた奴でしたっけ」
「しらない。何でもいい詰め込め! 私は医療キットを探す」
そういうとツバメはダンボールを持ち上げ床にぶちまけた。
「イーターの足音は聞こえるか?」
「……いや聞こえません」
静まり返る室内。
「イグサの方に行ったか?」
ツバメが四つん這いになり散らかした道具の中から目的のものを回収する。
スカートだというのに……。
「医療キットは見つけた、そっちは」
鞄をして立ち上がるとツバメはコリュウの方を見る。
「とりあえず全部鞄に入れました、確認は車の中でします」
「よし、じゃあ急いで戻……!」
ツバメが部屋の出口に向かって駆け出してすぐだった、蹴り破った扉の上に乗った瞬間、彼女が宙を舞う。
彼女の下から赤い頭が、床を扉を粉砕し真下の部屋から奇襲を仕掛けて来た、浮き上がった彼女は天井に頭をぶつけ着地後距離を取るため自力で寝室に転がっていく。
イーターはそのまま天井を突き破り外へと消えていった。
部屋からイータがいなくなった後、床に原形をとどめていないほどボロボロになったイグサの空の鞄が落ちてきた。
「隊長、無事ですか?」
「うぅ……頭がぁ……」
頭を押さえ横に転がるツバメ。
「怪我はどれくらいですか、立てますか? 歩けそうですか?」
「そのあたりは大丈夫、ただ痛いだけだから」
後ろ髪を止めていた部屋ゴムがはずれ、ボサボサ髪のツバメが後頭部を押さえながら寝室から戻ってくる。
「早く、戻るぞ」
いやな予感がしてリビングに戻ってきた彼女を抱え寝室に飛び込む。
床を突き破って来たのだから、今度は。
「何を……!」
今度は天井が崩れ、イーターがコリュウとツバメのいた位置とテーブルの一部を破壊して下の階に落ちていった。
「まるでもぐらたたきみたいだな」
ツバメがコリュウの腕の中で軽く笑いながらそう言った。




