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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
1章 滅んだ国と生体兵器 ‐‐すべてを壊した怪物‐‐
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特定危険種、8

 地面に撒かれた粉を追って歩くコリュウはツバメの後をついていく。


 丘の上の建物の周囲まで来た、いい加減イグサの捜索に行きたいとコリュウは仲間を見捨てたと思っている隊長であるツバメから離れたかった。。


「ところで、さっきからずっと続いてますけど、それなんなんですかそれ?」

「ん、んー、たぶんイグサが持ってきた粉末状のココア」


 そういうとコリュウの足が急に速くなる。


「じゃあ、これたどっていけばイグサものとに!」

「だから今追ってるの。大声を出すな、次は加減しないぞ」


 シシシシシ……


 コリュウたちの進行方向にあった資材の山を乗り越え真っ赤な頭が顔を出す。


 血のように真っ赤な頭と黒く光沢を放つ胴体、頭から延びる赤く太い触覚が二本、波打つように歩く黄色い足を持つ大きな百足型の生体兵器。


 毒を持つとされるその大顎は片方折れている。


「来た!」

「こいつが……イーター」


 ゆっくりとツバメとコリュウはエクエリを構え戦闘態勢を取る。


 二本の長い触覚を常時動かしながら蛇行しコリュウ達に真っすぐと向かってくる。


 今のコリュウには生体兵器を前にして恐怖はなく、今は強い怒りしかない自然と体に力が入ると痛みが走った。


 まだ、ツバメに殴られたところが痛いが戦闘に支障をきたすほどではない、しかし今ので気が散り怒りしかなかった状態から少し冷静さを取り戻した。


「ック、コリュウ絶対に無茶なことは考えるなよ」


 イーターの折れていない方の大顎には鞄が刺さっていた、そこからもう中身がほとんどなくなったココアパウダーが零れ落ちている。


 地面に撒かれた粉をの行きつく先、コリュウたちが追ってきたのはこいつだった。


 コリュウたちはイグサではなくイーターを追っていた。


 ツバメはイーターと戦うつもりらしいがコリュウは避けたかった、まずはイグサの捜索が優先だ。


「コリュウ?」


 イーターを見たとたん動かなくなったコリュウを心配するツバメ、思考していたのではなくあまりの絶望に戦意を失ったように見えたようだ。


「大丈夫です、あれは鞄だけ血もついていないようですし、大丈夫です」


 大丈夫、あれは鞄だけだ、イグサは無事のはず、逃げる際、荷物が重くて捨てていったのだろう。


 そうに決まっていると、自分に問いかけることで自制しイーターにとびかかるのを押さえるコリュウ。


「奴がここにいるってことはイグサもこの辺に……」

「いい加減今の現状を受け止めろ、目の前に生体兵器がいるんだ、あいつを倒すぞ」

「わかってます」


 エクエリを構え二手に分かれる。


 イーターを目の前にしたとたん強い怒りがこみあげてきて何としてもこいつはここで倒したいとコリュウは考えていた。


 こちらは二人、相手は1匹だ戦場跡地ではできなかったがあとはイグサがいればいつもの戦い方だ。

 しかし、いま彼女はいない。


「こいつを倒してからイグサを探すからって、無理に一気に倒そうとするなよ。焦ったら負ける」

「わかってます」


 ツバメはコリュウに念を押す。


「イグサだって精鋭だ、そう簡単に死なないさ」

「わかってますって」


 二人から15メートルほど距離を取った位置でイーターは動かなくなった、どちらにでも対処できるようにしたのだろう、伊達に特定危険種に指定されたわけではない。


 側面に回り込めないが、攻撃するには十分だろう。


「行くぞコリュウ、落ち着いてしっかりダメージを与えていくぞ!」

「はい!」


 そして特定危険種、イーターとの戦闘が始まった。


 相変わらず、生体兵器はエクエリから放たれる高速の弾丸を、わけのわからないよけ方をする。


 かといって大きい体に全く当たっていないわけでもなかったが、なにぶん硬い、着弾箇所が数センチ削るくらいだ。


 同じ個所に連続して撃ち込まないといくら当てても効果がない。


 イグサの大型のエクエリなら威力があり通常の弾でも十分効き目があっただろう、だから先に彼女を探しておくべきだったんだと、コリュウは戦いたかったのか探したかったのか頭の中でぐちゃぐちゃになりながらもイーターを睨む。


 しばらくすると、イーターは元来た道を戻るように資材の裏に消えていった。


 特定危険種のわりに手ごたえがない……まあグールも似たようなものだったが。


「攻撃してこない?」

「いったん体勢を立て直しましょう隊長」


 気が引けたが、今のは嘘だイーターなんか放っておいてイグサを探したい。


「いや、攻撃してこないなら弱っているのかも、このまま畳みかけるけどしっかり距離は取れよ」


 もしかしたらと思ったが、コリュウの期待は裏切られた。


「私が様子を見てくる、コリュウはこの距離を維持したままついてこい」


 そういうとツバメは何本もの木材が束ねられ積み上げられている資材の山に登り始めた。


 コリュウはそれを一応後を追いかける。


 木材の山を登り切る手前でツバメが後ろに倒れた、足を滑らせたわけではなさそうだ。


 刹那、ツバメのいた位置が爆発でもあったかのようにはじけ飛んだ、爆炎も熱波もないまるで砲弾でも飛んできたかのように資材の山は跡形もなくなくなった。


「あっぶな、待ち伏せっ!」


 悪態をつきツバメはイーターに向かって叫んだ、そして地面に落ちそのまま距離を取ろうと転がる。


 攻撃に失敗したイーターはそのまま丘を下り始める、その移動速度が速くさっきまでの戦闘で見せた速度は本気を出していなかったということか。


 あっという間に丘の下まで離れたかと思うとUターンして丘の中腹あたりをうろうろしている。


 まるで追ってくるのを、待っているかのように。


「挑発……完全に馬鹿にしてるな、私たちも追うぞ」

「でも、あいつがこの辺にいたんだから……この辺に」


 この辺りにいるはずと今すぐにでもイーターに背を向けイグサを探しに行きたくなった。


「せっかく見つけたんだ、それにあの速さ私たちが引いてもすぐ追ってくるぞ」

「狭い室内に逃げ込めば……」


 ツバメがコリュウの話を遮る。


「忘れたのか、建物内の壁は薄い、さっきの木材の山を壊すのと一緒だ。建物の外壁を壊すぐらいできるのだから、室内に入ったらエクエリが撃ちずらい私たちの方が危険だ」


 イーターはいまだにこちらの出方を窺い中腹をぐるぐると回っている。


 そこにツバメが向かっていこうとしたその時だった。


 聞き覚えのある音が聞こえた。

 耳をふさぎたくなるような大きな音が背後の建物から聞こえる。


「この音!」

「コリュウここはいい、早く行け!」


 音に反応したのはコリュウとツバメだけじゃなかった、イーターも動きを止め触覚を動かしている。


「なら隊長も……」

「誰かがこいつ食い止めないと、こいつがお前より先に着くかもしれないからな。気にすんな、早くいってあげなよ」


 そういうとツバメはイーターに向かって歩き出す、あの突撃を左右に転がってでも躱せるように姿勢を低くして。


「早く行けって」

「イグサ連れてすぐ戻ってきます」


 ツバメと別れコリュウは見張り台の中に入って音の聞こえた場所を探す、イーターを呼ぶ危険性があるからそう何度も吹かないだろう。


「期待して待ってる、たぶん時間稼ぎでいっぱいいっぱいだから」


 もう一度吹いてくれれば居場所が何階かわかる、彼女がもう一度吹くかどうかはわからないが。

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