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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
1章 滅んだ国と生体兵器 ‐‐すべてを壊した怪物‐‐
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特定危険種、7

 とりあえず、イグサは生きている。


 イグサが隠れている部屋は、彼女と自動車だけの殺風景な状態、空き部屋なのに珍しく物置きではない部屋。


 ここより通路の方が安全な気もしたが、この建物の廊下は柱の陰以外隠れる場所がなく一本道だし上の階まで吹き抜けだ、それならばと部屋に逃げ込んだだけの話。


 恐怖しかないアトラクションから解放され、近場の建物に死に物狂いで逃げてきた、わたし死にそうと相変わらず自分の幸運さに生きていることを実感していた。


 強化繊維で出来た制服はあちこちほつれダメージ加工みたいになっていた、体はぶつかられたり転がったりと大ダメージを追っている、ズタズタの体でここまでよく走れたものだ、わたしすごい。

 胃の中身出してきたから少しすっきりしたけど、まだ気分悪い。生体兵器酔いかな。

 どうやら私は生体兵器乗りにはなれないな、そんなもんないけど。

 現実から逃げるためか異常なほどくだらないことを考える、はぁ、今生きているということだけで、こんなテンション上がるもんだね。生きててよかった。

 とりあえず生存報告しないと、コリュウもツバメも心配していることだろう。

 でもどうやって報告するかな……。

 小さく笑うたび体の傷に響きその痛みからか涙が流れる。


「ふぅ、一人かぁ……」



 数年前、イグサが一般兵になった半年後にコリューも試験に合格し、彼女と同じ一般兵になった。


 イグサはまじめで一般兵の仕事内容は基地やシェルターの防衛、町での治安維持活動どれもパッとしなかったが精鋭を目指すため努力は惜しまなかった。


 あの頃は非常に退屈だった、シェルター近辺は生体兵器の出現率が低く、仮に生体兵器が出てきても暇を持て余した一般兵が大挙しすぐにハチの巣になる、下手なエクエリ数撃ちゃ当たる、物量とは怖いものだった。


 よく考えればコリューもイグサもこのころから生体兵器に対する恐怖心は薄れていた。


 精鋭は生体兵器を恐れてはいけないのだから、この点は知らず知らずのうちに精鋭になるための条件をクリアしていたのだろう。


 生体兵器には投擲などの遠距離攻撃できる個体が少ないこともあり、基本は遠くから撃てば一方的に攻撃ができた。

 特定危険種は例外だけど。

 でも、接近させたら助からないと思えと一般兵時代の隊長が言ってた。


 退屈だった日々も、しばらくすると外にごろごろ落ちている金属やその辺で好き勝手伸びている建築木材の資材回収、前線基地への物資人員輸送団の護衛などの仕事も増え、より外へ行く機会が増えてきた。


「コリュー早く、見つけた。あの岩場の陰」

「まてまて、先輩たちを待とう。さすがに二人じゃ危険すぎる」

「平気だって、一匹だよ? みんな待ってたら一斉射撃でバラバラになっちゃうじゃん、パッと仕留めてみんなに自慢しようよ」

「いやダメだ、待とうイグサ」

「う~」


 生体兵器を苦戦無く倒してきたこともあってイグサは過信していた。


 一人とはいかなくても二人で生体兵器と戦えたら、精鋭までの道は一気に縮まるような気がしたからだ。


 この時、もしコリューの言うことを渋々聞いていなかったら、あの時穴掘って隠れていた別の生体兵器に食われていただろう。


 実際私が見つけた生体兵器も、そいつに食われていたし。


 何であれ心配性なのか神経質なのか、コリューは人一倍戦闘時の警戒心が強かった。

 しかし彼は一般兵の中で、どうやらわたししか友人がいないようでいつも一緒にいる。可哀想に。


 精鋭を目指すうえではシェルターから離れる未練とかが少しでも減るのだろうが、見てて可哀想だった。

 そんな可哀想なコリューと私はよく一緒にいた、わたしは友達いたけど。


 幼馴染だしコリューは優しいしそれなりにいいとこの坊ちゃんだし、もし精鋭になれず夢をあきらめたとしたら、彼とうまくいって玉の輿狙える気もしたが、手繋いだりとか抱き着いたりみたいに親しくすると距離置かれるし、まぁ無理だろう。


 そもそも教えてくれなかったが彼にも精鋭になる目的があるらしい、彼は幼馴染でもありライバルでもあるわけだ、ライバルである限り負けたくはない。

 彼とは適度な距離感を保ってこの関係を崩さず付き合っていこう。


 ともあれ、コリューのおかげでわたしは主だったピンチもなく、一般兵ライフを過ごしてきて精鋭になってもそれが続いた、ツバメやコリューが生体兵器の気をそらすから私は安全に狙いをつけ戦えた。


 昔から彼には頼りっぱなしだ、危険な役回りを進んで引き受けてもらってわたしは安全地帯から生体兵器を攻撃する。これも一般兵時代から変わっていない。


 精鋭になってから作戦で彼から一時的に離れることはあっても、わたしは彼の援護ができる距離にいつもいた。

 今のようにどこにいるかもわからないほど離れ離れになることはない。



 ふと我に返る。


 よほど現実から離れたいのか、目を瞑り昔のことを考えていた。


 もしかしたら、数分位軽く寝ていたのかもしれない、精神的にも肉体的にも結構消耗しているし不思議はなかったけど、こんな時に寝てられるなんてわたし結構余裕あるね。

 そう思い痛みを感じながら笑う。


「水筒の入ったカバンもなくなっちゃったし、どうするかなぁ」


 気が付けば体はいうことを聞かなくなり、足に力が入らない。変に気を抜いたからだろう。

 イグサはこの場から完全に動けなくなった。

 彼女は感覚のほとんどなくなた右手で、ツバメから貰った干し肉でもないかと制服中のポケットを探るが干し肉はなかった。

 代わりに……内ポケットに一つ。


 それを取り出すのと同時くらいに、外で何本もの木が折れる音が聞こえた。

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