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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
1章 滅んだ国と生体兵器 ‐‐すべてを壊した怪物‐‐
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特定危険種、6

 イグサを早く見つけないと……


 緩やかなカーブの通路の終わり外が見えた地上だ、一度立ち止まり通路陰からそっと周りを確認する。


 出口は駐車場、兵舎や食堂が見えないからそちらの反対側に出たようだ、ここから見える範囲に生体兵器の姿はない。


 私は出口手前で止まったが、コリュウはそのままツバメを追い越して外へと出る。


 待ち伏せされていたら、今彼はわけもわからず死んだだろう。


「まて、まだ近くにいるかもしれないだろ、コリュウ。周囲の確認を……ッチ」


 多少のいら立ちを感じながらもツバメはコリュウを追いかけ表に出た、あたりを見渡すと何人も人が倒れていたが朝顔隊の制服は見えない。


「隊長いうとおりだとすると、イグサは……」

「とりあえず、この辺りにはいないか……コリュウ、私の後ろに居ろ、いいか私の言うことをよく聞けよ」


 やっとのことでツバメが目的もなく走り出すコリュウに追いつくと、襟をつかみグイッと顔を近づけ静かにそして威圧的にそう言ったが、今の彼には効果はあまりなさそうだ。


「どこに行った……」


 気を取り直してあたりを警戒する、生体兵器が基地に進入してきたのは兵舎や食堂などの無いこちらからのようで、戦闘の後と死体がいくつかあった。


「イグサー!」

「ひゃっ……馬鹿が、なに大声出してんだ」


 全神経を耳と目に集中していたのに後ろから急に大声を出されツバメは思わず飛び上がる、今のコリュウにはまともな思考回路はないらしい。


 ツバメがぶん殴ろうと思ったが拳を握って振り返る前に彼の大声に答えるように、あのシシシという音が聞こえツバメは拳を握ったままその場で固まった。


「今の、どこからだ」


 コリュウに尋ねたつもりだったが、彼には聞こえていなかった……というより生体兵器どうこうよりツバメの声すら聞く気はないらしい。


 何度も辺りを見回すが生体兵器の姿は見られない。


 近場にあった荷台に大きな穴の開いたトラックの陰から何度も辺りを警戒していたが、突然コリュウが当てもなく走り出した。


「待て、おい、待てって。どこ行くの。何か見つけたのか?」


 焦燥にかられまともな判断力ができていないコリュウを捕まえようとするが、ツバメと彼とは走る速度が違う、走ってもその距離は徐々に開いていった。


「一人で突っ走るな。ああ、もう!」


 全速力で走るには腰の鞄が邪魔だ、これを外せば追いつけるのだろうが今これを捨てるわけにはいかない。


 ツバメは何とかしようと何度か彼の名前を呼んだがもちろん返事はなかった。


 駐車場を引き返し地下への出入り口の横から盛土の丘を登る、どうやら彼は丘の上から彼女を探すようで丘を駆け上がっていく。


「イグサー!」


 もう止めない好きにさせておくあきらめた、ツバメはコリュウを放置し周囲で動くものを探す。


 今はそれより奴とどう戦うかを考えた。

 こちらの戦力は二人……いや実質一人、今この状態のコリュウが使い物になるとは考えにくい。

 情報では外骨格は小型のエクエリで削るのに時間がかかるらしい、会議で見た傷だらけの姿からもおおよそその丈夫さは理解していた。

 おおよそ一人で相手をするような生体兵器じゃない。

 本来なら時間稼ぎで、他の精鋭が戻ってくるまで逃げながら戦えばよかったのだろうが、今接敵したらまた真正面から戦うことになるだろう。


 正面切っての戦闘は、ツバメの不得意とするところだ。


 そもそも生体兵器と向かい合って戦うと考えるのはありえない、様子を見ていやがらせ程度の攻撃をしながら逃げるべきだ。


『イグサー!』


 大声で叫ぶだけでなく、コリュウはヘットセットを使っても呼び出した。


 耳が痛くなりヘットセットを取ると、丘の中腹あたりから下を見下ろすように立ち止まったコリュウに追いつく。


「大声を出すなって、気が付かれるだろ」

「願ってもない!」


 今回は奴の邪魔が入らなかったので、握った拳に苛立ちを上乗せしてコリュウを殴る。


 反動で少しよろけたが彼はバランスを崩し、半回転して倒れ地面にしりもちをつく。


「何す……」


 ツバメを見上げるコリュウにまたがり、今度は両手で彼の襟をつかみあげる。


「馬鹿が、今イーターと戦っても私たちの勝ち目は薄い! もっとよく考えろ、それにイグサだって精鋭だ、ここまで探して死体がないってことはどこかに隠れているかもしれないだろ!」

「だったらなおさら、呼んで……」


 もう一度コリュウを殴った。


「それで私たちが死んだらどうしようもないだろうが!」

「ッ……」


 黙り込んだコリュウの顔面にもう一撃加える、先ほど殴り損ねた分を。


「隊長の命令を無視した罰だ、非常時の際この程度で済んだことを感謝しろ」

「すみません」


 冷静を取り戻したかどうかはわからないがコリュウはおとなしくなった。


「……もういい、私の後についてこい」

「りょ、了解」


 といってもツバメもどこに行けばいいのかわからない、どこに奴がいるのかどこに彼女がいるのか手がかりがない。


 生きているとしてあの地下の出口から一番近い建物が、丘を登らないといけないがこの見張り台だ、自力で逃げられるのならこの辺りにいるはず。


「どこに向かっているのですか」

「お前と一緒、見晴らしのいいところ。もしかしたらあの建物にいるかもだし、あの建物からイーターを探す手もあるし」


 真っすぐと来た道を戻り、丘を目指す。


「丘の上……」


 彼には何か思うところがあるのかそう呟いた。


 丘の頂上には数台の戦車が、主砲をへし折られ、履帯を切られ、側面に大きな穴が開いた状態で何台も停止していた。


 戦車のあちこちから突き出た棘は無意味だったようだ、缶詰を開けた時のような穴の開き方をしている戦車の中身も、すでに絶命している。


「ここでイーターと戦ってたみたいですね」

「見たらわかるでしょ、何でそんなこと聞くの」


 見張り台に入る入り口を探しながら、丘の下を見る。


 そろそろ、誰か戻ってきてもいいだろう?

 蜘蛛の子供なんてエクエリがなくたって倒せるのに、戦場跡地の連中は何をもたもたしてるの。


 心中そう思ったが基地の入り口に向かって走ってくる車両は見られない。


「隊長、これはどういう……」


 二人の視線の先には、見張り台の二階の窓に突っ込んでいる自動車が見えている。


「車までぶん投げるのか……いや、コンクリート削ったり、戦車に穴開けたりできるんだからもう何でもありか」


「地下に隠れている人たち以外は全滅でしょうか?」

「かもね、奴との戦闘で今まで多くの一般兵が命を落としてるし、ここにいた一般兵のほとんどが戦場跡地に向かってったもの、まともに戦ってたら死んだと思うよ」


 丘の上から見る限り動くものは見えない。

 戦車の周囲に何人か倒れていたが、どれも体の一部が紫色に変色して晴れ上がった死体だった。


「毒……」

「……」


 シシシシシ……


「近いぞ、奴はここら辺にいる」


 死体の付近に、何やらチョコレートに近い色の粉末が一本の線を描くように散らばっていた、出元をたどると丘の下に伸びるのと見張台に伸びている。


 誰かが意図的にまいたとは思えない、かといって生体兵器が撒くとも思えない。


「なんだこれ?」

「そんなんどうでもいいでしょ、早くいきましょう隊長」


 一刻も早くイグサを見つけたいのに、足元で粉末状のものを調べているツバメに向かって、苛立ちを隠せないコリュウ、やや怒鳴り気味だ。


 コリュウの頭に血が上っていてよかったことがある、彼を鎮めるためにツバメが冷静でいられたことだ、仮に今一緒にいるのが彼でなくイグサだったら、彼女はこう冷静でいられなかっただろう。


 彼女は静かに怒るタイプなので、ツバメを鎮めたりはしなかっただろうし、逆にツバメが現在のコリュウのように頭に血が上って判断力を失っていたかもしれない、最悪無意味に突撃して共倒れになったかもしれない。


「イグサの捜索は後だ、先にイーターを倒す」

「なんで! 噛まれて毒がまわってていたらどうするんですか!」


 再び声を荒げ大声を出し始めるコリュウ。


「それは……あきらめるしかない。イグサを見つけても逃げる車がない、この基地で解毒できるかもわからない、もしかしたら解毒できない毒かもしれない。その場合はイグサを助けるのは難しい」

「……アンタ」


 キッとツバメを睨めつけるコリュウ、もう一度殴らないといけなさそうだったがすぐに目つきが元に戻った。


「隊長としての判断、私たちは生体兵器と戦うのが仕事。仲間も大切だけど優先順位を間違えるな」


 本心としては彼女のことが心配だったが、先に生体兵器を倒さないと彼女だけではなくコリュウもツバメ自身も危ないからだ。

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