特定危険種、4
コリュウもツバメも一瞬のことで、何が起きたかわからなかった。
二人とも腰のカバンに何かにぶつかられ、バランスを崩して地面に倒れ込んだ。
倒れたというより突き飛ばされ転がった。
急いで状況確認のためその場で振り返る、後ろにはなにもいない。
起き上がると、先ほどまでイグサが立っていた位置に彼女の姿はなかった。
「いぐさ?」
もう一度、コリュウは周囲を自分の後ろや足元など見たが、どこにもイグサの姿はない。
通路の両脇に配管が伸びているが、人が隠れられるほどの太さの物はない。
すでに倉庫の前で、後方にある壊れた階段の場所まで走っても10秒くらいかかるはず。
そもそも、今このタイミングで彼女がどこかに隠れる必要がない。
「イテテテ、なんだ今のはだれか何か見たか?」
ツバメも起き上がる、コリュウと同じで転んだだけだろう、怪我は見られない。
イグサは影も形もなく消えた、それが今一番しっくりくる言葉だ。
忽然と消えたイグサ、何かがぶつかって地面に倒れ起き上がるその数秒で。
「……? イグサ、どこにいる? コリュウ、イグサはどこ行った?」
ツバメも信じられないのだろう、周囲を見回し天井の配管の間まで確認しているくらいだ。
彼女のいた位置まで歩く、だからと言って彼女が見つかるわけじゃない。
足元に何かの欠片が落ちていた、拾い上げるとそれはコリュウが二人のもとへ戻って来た時に彼女がツバメと食べていた干し肉。
シシシシシ……
出口の方でそんな音が聞こえてきた。
「ここだけじゃなくて表にもいるのか、コリュウ。とりあえず先に倉庫の中のやつを倒すぞ、イグサの捜索はまた後でだ」
「でも……」
出口の方を気にするコリュウ。
「挟み撃ちにあって私たちがやられたら捜索できないだろうが」
そういわれコリュウはしぶしぶ倉庫へ向かう、そしてツバメと同時に倉庫の中に向かってエクエリを構えた。
無音、静寂、荷物が崩れ中に入れない倉庫に向かってエクエリを構える、隅から隅まで天井や暗くなっている、角も見たが赤い尻尾のようなものを持つ生体兵器は見つからなかった。
「いない? なんで、さっきいたじゃんどこ行ったの、イグサも生体兵器も!」
声を荒げ焦り始めるツバメ、ボサボサの頭を抱え状況を整理している。
もちろん視界内にいないだけで崩れた荷物の下に隠れているというのが一番ありえそうだ。
「隠れているなら燻りだしてやる」
ツバメはそういうと腰のバックから金属の塊を取り出し、何らかの操作をすると倉庫の中に投げた。
先ほども戦場跡地で使ったあの爆薬だ。後先考えずそれを倉庫の中へ投げ込む。
「起爆させる、コリュウここから下がれ」
ツバメに背中を押され、コリュウは強制的に階段の前まで退去させられる。
階段にももちろんイグサの姿はない、階段の上を見上げても彼女はいない。
ツバメが携帯端末で何らかの操作をすると倉庫が爆発した、音の壁と強い熱波が隠れていた二人を襲う。
「あちち」
「……」
爆薬を起爆させるツバメのその姿をみて、コリュウ自身も携帯端末を持っていることを思い出す。
「そうだ、通信」
ヘットセットで呼びかけたが返事はない。
だがまだ連絡手段はある、ポケットを探り自分の携帯端末をかけた。
しかし、出ない。
「でてくれ……でてくれ……」
通話ボタンを押し耳をつけるコリュウ、ワンコールがやたら長く感じる、出ないと判断するとリダイアル、電話帳からかけなおす、番号を直接打ち込んだ。
「コリュウ、それかけながらでいい来い、こっちに」
ツバメは表に向かて通路側に進みだしていた、コリュウは連絡をかけることに夢中で気が付かなかったらしい。
コリュウが連絡している間、彼女はずっと周囲を警戒していてくれた。
ツバメの後に続きながら何回も何回もイグサの端末に連絡を入れる、応答不能状態じゃない彼女の携帯端末は電源が落ちていなければ壊れてもいない。
通路を進んでいると、正面に着信を受けている携帯端末があった。
「何でこんなところに……」
それを拾い上げたツバメがそれを見て応答拒否のボタンを押す、すると手にしていたコリュウの携帯端末が不通と表示された。
もう一度連絡をかけようとしていたコリュウに、ツバメは拾い上げた端末を見せる、ヒビの入った画面の向こうで俺達朝顔隊三名が仲良く笑っている。
それを見て彼は連絡を取ろうとするのをあきらめた。
「何でか知らないけど、イグサは外だ追うぞ」
「でもどこ行ったかだなんて」
イグサの端末を押し付けると、ツバメは地上につながる通路を駆け出した。
コリュウも彼女の後を追いかける。
「少なくても地下にはいない、表を探す。急げあいつが表に逃げだしたら私たちは手がかりを見付うことすら困難になるぞ」
ツバメは生体兵器がなんだかわかっているような口ぶりだったが、どうでもいい、今は生体兵器よりイグサの行方の方が大事だ、いなくなったイグサを探すコリュウの頭には今はそれしかなかった。
表につながる緩やかなカーブを描く通路、大した距離はないはずなのにいつまでたっても出口が見えない、それはとても長く感じた。




