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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
1章 滅んだ国と生体兵器 ‐‐すべてを壊した怪物‐‐
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特定危険種、3

 コリュウと離れてすぐイグサはヘットセットを使う。

 あまり使わないから使い方がわからなかったのでツバメに代わりにつないでもらった。


「テステス、聞こえる?」

『問題ない、聞こえてる』


 イグサのヘットセットからコリュウの声は聞こえ普段聞いているよりもいつもよりずっと近くで。

 無線で彼女の吐息まで聞こえコリュウの心拍数は無駄に上がっていった。


「地下でも30メートルくらいなら自由に更新可能なはず、それ以上離れると少しづつノイズが混じる」

「通信範囲短いね。生体兵器もいないみたいだし大声出して喋った方が早くない?」


 呑気なイグサに呆れるコリュウ。


「そりゃ疲れるだろ……それに隠密作戦とか爆音が響いてると近くにいても聞こえないだろそういう時に使うの」

「隠密作戦、ツバメの苦手な奴だ」


 そういってくすくすと笑うイグサ。


「クシャミのことはいいの、昔の話なんだから」

『というかまだ見える範囲に二人ともいるでしょう通信使う必要ありますか?』


 振り返るとコリュウはまだ見える範囲に降り、彼を見て何となく手を振ってみると向こうも手を振り返してきた。


「だって暇じゃん、お話してよーよ」

「どうせこれ普段密集して戦う私たちはあんまし使う機会ないんだし、いいじゃん」


 話しながらも柱の間や天井の配管の間を調べ生体兵器が隠れていないかを探す。

 生体兵器の生体になれば大きくてわかりやすいが、つい先ほど戦場跡地にいたグールベビーのようなものならこの間に隠れられるため念入りに調べていた。


『隊長かイグサ、どっちか通信切ってくれない? 同時に喋られると聞き取りずらい』

「えー、じゃあ後から加わって来たツバメが切ってよ」


 イグサも大型のエクエリを構えて配管の間を調べている。

 戦場跡地に行って片ずっと重たいエクエリを持って気を張っている彼女は小型のエクエリを持っているツバメやコリュウより早く少しずつ精神と体力がすり減り辛そうな表情に変わって来ていた。


「この程度のノイズ問題ないでしょ、声が聞こえるなら問題なーい」

『というかこんな必要ないときに喋ってもいいのですか?』

「いいじゃん、どうせ使わないんだし」


 そういって無意味にマイクに向かって息を吹きかけるツバメ、隣でイグサが五月蠅いと耳を抑えている。


「それにこれは壊れやすいからな。うっかり踏むとパキッていくから気をつけろよ」

『ふつう何でも踏んだら壊れるでしょ、何言ってんですか?』


 コリュウは当たり前でしょと言い、イグサが冗談だと思って軽く笑った。


「エクエリと通信端末は壊れなかった」

「……へー、というか踏んだんだツバメ」


 丈夫とは聞いていたが試した人がいるとは思わなかったとイグサがボソリを言っていたがヘットセットはその声を拾った。

 階段のそばまで帰って来たわたしたちは防火シャッターを開けるスイッチらしきものを探す。

 壁にくっついているならすぐに見つかるはずなのだが、上が食堂ということもあってか上から延びてくるパイプが多い。


 その死角に隠れている可能性があるので一つ一つの間を丁寧に確認していかなければならなかった。

 そうやってどんなものかもわからないスイッチを探していると携帯端末ほどの銀色のパネルを発見する。


「これですかね?」

「ん~? これかもね、ちょっとどいて」


 場所をツバメと交代するパネルを開くと上矢印白、オレンジ、下矢印白のじゅんに長細いスイッチが縦に並んでいた。

 迷わず上矢印のボタンを押すツバメ。

 直後シャッターが動く。


「コリュウ、開いたぞそっちはいい走ってこい合流して上に上がるぞ」

『了解、すぐ行きます』


 そういうとツバメはイグサより先に無線を切った。


「遅いと置いて行っちゃうから」


 隣でコリュウと話をつづけるイグサ。

 キィーギギギと音を立ててシャッターが上がる、しばらくしてからコリュウの姿が見えた。


 通路の先は緩やかなカーブを描いていてよく見えないまま。


「おーい、走れー」


 ここの空気はよどんでいて息苦しく長居したくないため彼をせかすツバメ。


「別に急いではいないんだけどね」


 まだ持っていたのか、ツバメはポケットから干し肉を取り出しかじっている。

 無言で手を伸ばしたら一欠けらくれた、それを咥えてイグサはまた彼をせかす。


「はーやーくー……ん?」


 彼の足音に交じってイグサの耳に何が地面をひっかく音が聞こえた。


「どうしたの?」

「変な音が聞こえる」


 戦場跡地の時もあれだったがイグサは他人より耳がいいようだ、気のせいや冗談ではないとツバメは彼女を信じエクエリを握りなおす。


「お待たせしました。は~、今日何回走るんだ俺」

「ちょっと黙って」


 走らされたコリュウにツバメは耳を澄ませながらぶっきらぼうに言うとコリュウは不機嫌になる。


「んな、そんな言い方……」


 コリュウは何か言おうとしたがツバメはその口を押える。


「なんかいるの」


 そういうとコリュウはおとなしくなりエクエリを構えた。

 まとまってやられるのを避けるためお互いに距離を開け周囲を警戒する。


「音はどっちで聞こえた」


 ツバメは耳を澄ませたままイグサに尋ねる。


「コリュウの走ってきた方」


 そういわれてツバメは何かあったときのためにコリュウをイグサのそばに残し単身で戻ろうとする。


「コリュウは出口の方を見ていろ、私ちょっといって見てくる」


 そういって慎重に来た道を戻り始めた時だった。


 シシシシシ……


 物音というより鳴き声のようなそんな感じの音だったが多分これは声ではなく音だ何かが発する音。


 昨日か一昨日、何か言われた気がする、他言無用の何かが。

 今日の全体会議でも気にしなくていい程度の何かを聞いた気がする……。

 なんだっけ……コリュウとツバメの後ろでイグサは頭の中で思い出せない苛立ちと思い出さないといけない焦りに襲われていた。


 その時だった、通路に荷物が転がって来た。

 中で荷物が倒れていて人の入れなさそうな倉庫からだ。


「警戒、人ではないと思うから出てきたら速攻で撃てるようにしておいて」

「了解」


 指示に従いイグサが身を低くして大型のエクエリを構える。


「なんだっけ……んん」


 ツバメから貰った干し肉を咥えたままで、ゆっくり噛むと口の中に多少肉の味が口に広がる。

 奇襲をかけるため音を立てずゆっくりと倉庫に向かって進む。

 向こうで動きがあった倉庫からできてたのは二本の赤い細長いものだった。

 それが倉庫から伸び上下に動いている。


「なんですかあれ?」

「ネズミのしっぽみたい?」

「……」


 ロープと呼ぶにはとげとげしていたが一定のリズムで二本は上下に動いている。


「確かにネズミ型だとしたら高いところに登れて基地を破壊できますね、それに狭いところにも入れる。共食いでもすれば死体も残らない」

「決まりだな」


 30秒ほど上下していたロープは倉庫に引っ込んでいった。


 あの色にあのロープに見覚えがある、もうここまで来てる、イグサはこんこんと頭を叩いてみるが、そんなことで記憶は戻らない。


「あの中にいるのはわかったな。何であれ倉庫の中は行き止まり入口からぶっ放せばこっちが優勢だ」

「袋のネズミですね、隠れる場所も逃げる場所もない。後は倉庫の広さの問題ですね」


 小柄の生体兵器なら小型のエクエリで十分戦える相手だ、数が多くても精鋭ともなれば落ち着いて対処ができる。


「エクエリの残りエネルギーは大丈夫だよな」

「なんだかんだ、俺まだ一発も撃ってませんからね」


 二人が倉庫に向かって歩き出した、止めなきゃ、あの生体兵器はネズミじゃない、頭に引っかかるもやもやからイグサは大型のエクエリを構えるのを忘れ、誰かの腕にしがみつくようにエクエリを抱きかかえている。


「グールを倒した私たちに今や敵なしでしょ、どうしたの」

「確かにあれだけの化け物を倒した後なら、並みの生体兵器なんか束になっても怖くないですもんね」

「待って……」


 もう少しで思い出せる、というとこまで来ていた。


「どうしたの?」

「お前は後ろにいていいぞ、たぶん俺達だけで相手ができそうだ」


 オモイダシタ……おもいだした、思い出した!


「違います、あれは!」


 あれは、行く先々で惨劇を振りまいている、特定禁止種、拠点壊し……会議で映像を見せられた、ツバメに他言無用と念を押された、あれは。


 その名前を、声を上げる前に先を歩いていた二人の間を何かが通り過ぎた。

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