特定危険種、2
階段の足元につけられている電球は下を向いていて足元だけを照らしていて、イグサを最後に一定の距離を開けながらツバメたちはゆっくりと降りていく。
「階段狭いね、わたしはエクエリが構えられない」
階段に大型のエクエリを何度かぶつけると、イグサは構えて歩くのをやめ肩に担いだ。
「暗いから踏み外すなよイグサ、お前が落ちてくると俺達みんなまとめて落っこちるから」
頻繁に振り返り足元より後ろをついてくるイグサを気にするコリュウ。
「さて、二人とも。ここどうする?」
地下へと続く螺旋状の鉄の階段は途中でグシャグシャに壊されていた。
薄暗い灯りが照らす中、ツバメは下との距離をなんとなくで測る。
「下まであと二メートルほどですし飛び降りられそうですが、それとも一度上に戻りますか、隊長」
「まぁ、ここまで降りてきたしそうだな降りよう。下が見えないから着地の際注意しろよ。イグサはコリュウに受け止めてもらえ」
ぎりぎり降りられそうな高さだとわかると率先してツバメは下に降り、着地時に破壊された階段の手すりを踏みつけてバランスを崩した。
後に続いてコリュウが降りる。
よろしく、わかったという手短なやり取りをするとイグサはスカートを抑えながら飛び降りた。
「階段が壊れてるってことは生体兵器はここを通ったってこと?」
「んあ、そうか。ナイスイグサ、んじゃこの先にいるかもな」
階段を抜け緩やかな坂道になってリう通路に出る。
通路はトラックが走れるように広く大きく作られたいた。
真っ赤な警報ランプがあちこちでちかちかと光りツバメは鬱陶しそうに目を細める。
避難区画の近くに食料の備蓄倉庫があり、そこへの物資搬入のための通路、それとUターン用の広場があり天井も高くかなり大きく作られていた。
廊下の外へと続く片方の道は防火シャッターが下りていて出口には向かえず、奥へとしか進めなかったため奥へ進む。
通路は緩やかなカーブを描いている歩いていく先が見えずらい、広くなった通路で大型のエクエリを構えながらイグサは後をついてくる。
「食堂の下に避難区画あるんじゃないの? 何この道」
どこに続いているのかわからない通路の先を見てイグサは言う。
「地下倉庫の通路だと思う、大型の冷蔵庫とか非常食とかしまってあるとこ。爆薬の入った補給品もここでもらってきた」
「ふーん」
通路は床に無数の引っかき傷があり、向かう先へと続いている。
しばらく進むとその傷が壁を伝い、配管がむき出しとなっている天井へと消えていく。
「とりあえずここまでの情報をまとめよう、相手の情報がないと作戦立てられないから、なんかこの基地に来てから気づいたことある人」
周囲に生体兵器がいないことを確かめ作戦会議を始める。
「はーい。被害の状況から何型か全然わからないね、動物型かな?」
生体兵器の大半は動物型で今は狼だの蜥蜴だのの何型かを考える時間に大雑把な答えを出すイグサ。
「死骸がないからおそらく数体か単体、大きな群れをなさず攻め込んでくるだけの力があるでしょう。血もないから堅いうろこでおおわれてるかも」
コリュウはまじめに分析をするがそれでもあまり絞り込めない。
「建物破壊するパワーと、建物が意外と高いとこまで壊れてたからジャンプか登れるような手足」
そういえば何かを忘れていたな……何だったか思い出せないけれどなんか面倒くさいことだった気がする、頭に何か引っかかったが思い出せない。思い出せないのだからそれほどのことなのだろう、とイグサはモヤモヤを残したまま地下を移動する。
「階段の広さから大きさは人と同じくらいの背丈、体の長さはあれだけじゃわかりませんけど」
「基地の破壊具合から広いところの戦闘が得意っぽかったから、ここで鉢合わせれば相手は満足に動けないね」
「なら楽勝だな」
作戦会議なのに考えるのをあきらめた二人、今までが何とかなっていたから今回も何とかなると思って作戦会議は終了した。
「隊長が楽に倒せるって言って、いままで楽に倒せたことありましたっけ?」
「あーあー、キコエナーイ」
そういってワザとらしく耳を押さえるツバメ。
「ていうか、建物を破壊する力があるんでしょ。避難区画危なくない?」
「よーし少し急ぐか」
警戒をしながら倉庫の横を通り過ぎる、倉庫の中は高く積まれた荷物が崩れ人の入れそうな隙間はなかった。
そのまま進むと廊下の先に避難区画の大きな扉が見えた、色が壁と同じだったら気が付かなかっただろう。
おそらく何十センチの厚さがあるであろう大きな扉は、何かがぶつかった凹みや傷がいくつもついていた。
「避難区画は生体兵器の攻撃を耐えきったみたいですね」
表面の何枚かの鉄板が裂けていたが門は突破できなかったようだ。
「パッと見そう見えるね、でっかい傷あるけど」
「頑丈だねこの扉、でっかい傷あるけど」
廊下は静まり返っており物音ひとつしない。
「さてさて、中にいるのが人だとは限らない。生体兵器が閉じ込めてあるかもしれないから下手にこれ以上近づくなよ」
ツバメがそういうとイグサは後ろに下がる。
「わかった、わたしここで待ってるからコリュウ開けて来て」
「いやいやいや。そんな怖い役、俺一人じゃ無理無理」
コリュウとイグサにその場で待機を言い渡し、ツバメは扉の前にあった通信機で避難区画の内側につなぐ。
この扉の向こうが故障や作りかけじゃなければ中にも同じものがあるはずだ、人なら返事が生体兵器なら何かしらの反応があるだろう、そう考えツバメは連絡を取る。
「もしーこちら朝顔隊。生存者はいるかな? 今避難区画の扉の前にいる。この扉の向こうに誰かいるか」
扉の向こうに何がいるか。
答えは人だった。
『おお助けが来たか。非戦闘員はここにいる、今扉を開く』
通話の向こうから聞こえてきた声はおびえきっている。
ここにいる彼らのほとんどは整備兵や作業員で基本的に戦う武器すら持っていないのだから。
「いやいい、開けるな。まだ生体兵器を確認していない。そこから出ると生体兵器に襲われるかもしれん」
そういうと、通信の向こうでざわめく声が聞こえる。
この扉の向こうは大勢いるようだ。
「もうじき、他の部隊が戻ってくる。私たちは本体に連絡を入れてここに迎えをよこすからそれまでこの中にいてくれ。外はまだ危険だ」
そういうとツバメは通話を切った。
確認するのは生存者がいるのかどうかだけ、それ以降はほかに任せる。
「私たちは生体兵器と戦う精鋭だ、避難誘導などやってられるか、彼らの相手は他の誰かにやらせよう、ったく一番最初に帰ってきた意味がないじゃないじゃん。あの指揮官にはめられたな」
ツバメが悪態をついてコリュウ達の元へと帰って来た。
「どうかしました?」
ツバメの悪態を見て不安がるコリュウ。
「いやなんでもない。表に出るよ、私たちが下りてきた階段は使えないから、閉まってる防火シャッターを開けながら搬入口を登っていくよ、どっかに防火扉を開く操作パネルがあるはず。コリュウはこのへんを探してくれ私たちは直接扉の前まで戻ってみる」
生体兵器は地下にいないようなので二手に分かれるようにして防火扉の開け方を調べる。
「防火扉を開くって、ここを通って表に出るんですか、それって結構歩きません? ここたぶんあの丘の下ですよね」
「仕方ないさ、私たちが降りてきたところ以外他に階段なかったしあの道しかない。んじゃいくよイグサ」
そういうとイグサの肩をたたいてツバメは行ってしまった。
「またねあとでね、コリュウ」
「ああ、また外で」
手を振って離れていくイグサに手を振り返すコリュウ。
「何かあったらこの短距離通信用のヘットセット使って連絡して、この距離ならギリギリ使えるでしょ」
ツバメがヘットセットを指先で叩きそれを見てコリュウは頷く。
コリュウに背を向け歩き出す、この地下通路は一本道で何とも鉢合わせなかったんだここにはいない。




