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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
1章 滅んだ国と生体兵器 ‐‐すべてを壊した怪物‐‐
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特定危険種、1

 目の前には大きな穴の開いた巨大な火の玉、朝顔隊三名はその火の玉が二度と動かないことを確認する。


「今度こそ死んだな」

「今度こそ死んだね」

「倒しましたね」


 内側からあふれ出す体液が火に炙られ、ジューと音を立てて大きな泡を作りながら沸騰していた。


「んじゃ、帰りますか」


 ツバメの声に三人は踵を返し車へ向かう。

 今回の目標であったグールを倒した以上ここには用はない、基地に帰って手短に報告書を作り夕食までふんぞり返っていればいい。


「他の隊に自慢……じゃなくて報告しておきますかな、脅威は去った、今夜のパーティー主役は私たちだってね!」

「いぇい!」


 隊長とイグサはハイタッチを決め、さりげなく大型のエクエリをコリュウに押し付けた。

 荷物を預け両手を使えるようになったツバメは端末を操作し連絡を取り始める。


「あーあーてすてす、もしー、こちら朝顔隊。おーい……ダメだつながらない。アンテナ車が壊れたな」


 そういうと端末を一生懸命振っている。

 そんなので電波が回復するわけでもないのだがツバメは一生懸命振っていた。


「全滅?」

「いやまだ戦闘音は聞こえてる、まだどっかで戦ってるね。撤収用の信号弾も撃ちあがらないし」


 周囲を軽く見て回りどこからか聞こえてくる、何を言っているかまでは聞き取れない誰かの声に耳を傾けた。

 どこかで戦っている者たちの悲鳴のようで、聞こえてくる大まかな方向しかわからない。


「ダメだなこりゃ、いっそ本体と合流しちゃいますか、ここまでしたんだしっかり私たちの功績を報告しないと」

「了解、車に戻りましょう」

「もう戦いたくないなぁ」


 ほとんど走っただけで終わったイグサはぬかるむ地面を見ながらとぼとぼと歩く。


「大丈夫、雑魚しかいないからあんな必死に逃げるほどの相手はいないさ」

「俺、また運転でいいんですよね」


 二人の後ろを歩く荷物持ちのコリュウはあきらめた様子で質問する。


「任せた」


 予想通りの答えにコリュウはがっくりと肩を落とすと車へと向かって歩きだす。

 車の前まで来ると突然ツバメの携帯端末が振動する。


「ようやく通じた……もしー、こちら朝顔隊。目標のグール駆除完了、繰り返す、グールをやっつけたぜー、私たちを祝う用意をしておけよー」

『そうか、お前か。よくやった、では直ちに先に基地へ戻ってくれ』


 通信の相手は軍刀持ちの女性指揮官の声だった。

 どや顔だったツバメの顔がピクッと動いたのちそのまま頬をひきつらせる。


「え、まだ戦闘中じゃないの? 私たちは戦闘に参加した方が……」

『いや、こちらの戦いは時期におわる。なんてったって相手は小さい蜘蛛の相手だ、集られない限りはエクエリがなくたって倒せる。お前たちは急いで基地に戻れ、これは命令だ!』


 ピリピリとした感じに話され下手に機嫌を損なうのを恐れツバメは一時的に丁寧な話し方になった。


「わ、わかりました……ん? なんだなんで帰れって怒られた?」


 通信を切ると完全に通話が切れたことを確認しながらツバメは携帯端末を恐る恐るしまう。


「疫病神扱い?」

「ついに一般兵の間にも広がり始めたってことか」


 ツバメは苦い顔をして車に乗り込む。

 イグサも隊長も後部座席で横になり、ぐったりとしている。


「何でもいいや、帰ろう。車は壊れてない?」

「はい、多少傷が目立ちますが大丈夫です。走るのに問題ありません」


 全員乗り込んだことを確認すると軽装甲車を発進させた。


「コリュウ、帰りはゆっくりでいいぞ」

「一回、お風呂入りたいなぁ」


 コリュウの後ろでダラダラと前線基地に着くまでだらけていようとするツバメとイグサ。


「新品の制服がまた泥だらけになっちまったしな。洗濯しないと」


 一つ大きなため息をつくとツバメは自分の姿を確認し、その際鏡代わりにナイフを取り出そうとしたが捨ててきたことを思い出しもう一度ため息をつく。


「一応まだ戦場跡地、いつどこで生体兵器と鉢合わせてもおかしくないんですから、気を抜かないでください隊長、イグサも」


 本当はコリュウももう何もしたくないが誰かが運転をしないと行けないので、後ろでだらけている二人に若干の不満を持ちながら運転を続けた。


「へーい、一応外見てるから気にしないでー」

「はーい。私も外見てるよーみてるだけー」


 ゆっくりと来た道を戻る、一本道に合流して基地までしばらく何もない道が続く。

 数分走ったのち進行方向の異変に気が付く。


「ツバメ、あれなに、信号弾じゃないですよね?」


 そのことをコリュウが口に出す前にイグサが喋った。


「ん~なに? おや、なんだろう。あわっ、私の双眼鏡がない。さっきのところで落としてきたっぽい、イグサ持ってる?」


 急いで自分のカバンを漁り双眼鏡を探すイグサ。


「たぶんどっかに一応ね持ってきたはず、ちょっと待ってどっかにある……はい」


 イグサから双眼鏡を受け取ると運転席に手をかけ頭を前に出すツバメ。


「さて、どれどれええっと。あ、基地が燃えてる」


 ツバメの他人事のような言い方に二人は首をかしげる。

 散々逃げて走って疲れているのだろう、彼女の目は現実を直視していない。


「事故とかじゃなくて? 私たちがみんな戦場跡地に出払ってる間になんか来たの」


 ツバメの持っている双眼鏡を変わってもらい今度はイグサが頭を前に出す。

 コリュウは彼女の顔に怪我がないか運転しながらちらちらと確認している。


「うーん、考えるのがメンドクサイ。向こうついたらサクッと片付けて、急いでパーティーの用意させなきゃ」

「了解」


 グールを朝顔隊だけで倒し折角のいい気分を邪魔されたツバメは気持ちを入れ替えエクエリのバッテリー残量を確認しながら外を見ていた。


「タルトのため一瞬で消し炭してやる」


 イグサももう戦闘はないものと思っていたため若干悲しそうな顔をしたが彼女も気持ちを入れ替え、大型のエクエリのバッテリーを入れ替える。


「いっちょ俺らが基地を救ったヒーローにでもなりますか」

「あんまり浮かれるなよ、コリュウ」


 後部座席の二人がやる気なのでコリュウもそれらしいことを言ってみたのだが、ツバメに巣の返しをされてしまう。


「隊長には言われたくないです」


 黒煙のたもと前線基地に帰ってくると、速度を落として慎重に周囲の安全を確認する。


「車どこで止めますか?」

「どこに潜んでいるかわからない以上、視界の広い道を通りたい」


 出入り口の門は大きく倒壊し、フェンスはめくれあがっている。

 フェンスに流れていた電流も意味をなしていなかったようす。

 建物には大きな穴が開き中から黒煙が上がっている、いくつかの建物は完全に倒壊していた。


 車は散らばった資材や瓦礫を避けながら基地の中を進む。

 それでも細かい破片は避けきれず、車内は時に大きく時に小さく小舟のように揺れる。


「ひどい壊れようだね」

「もともと作りかけだったんだから、壊すのは簡単だったんじゃない。作ってる建物の中には骨組みのもあったし」


 イグサは天窓から頭を出し、大型のエクエリのついた台座をくるくると回して周囲を見る。


「これさっきの大爆発で壊れたとか?」

「こっちには不発弾ないはずだぞ、というかイグサの笑えない発想がひどい」


 アハハと笑うイグサを無視してツバメは運転席と助手席の間から顔を出した。

 その横顔をコリュウがちらっと確認し話しかける。


「とりあえずどこ向かいますか?」

「何にもできてない欠陥基地だからなぁ……あ、食堂の下に避難区画あったでしょ、とりあえずそこ行ってみようか」


「んじゃ、食堂に向かいますね」

「よろしく」


 そういって燃える瓦礫をよけ半円上の建物を目指す。


「……避難区画も荷物置きになってたりして、だれも逃げ切れなかったなんてことはないよね?」


 ツバメは今までのこの基地の様子からあまり考えたくないことを呟く。

 基地はあちこちから物が燃える音が聞こえ黒煙を上げていた。

 生体兵器の警戒と瓦礫を避けるので、建物の近くは瓦礫が多いこともあり、歩き並みにのろのろとしたスピードで基地内を進む。


 食堂も例外なく破壊されていて、窓は割れ壁に穴が開きあちこちから黒や灰色の煙が上がる。

 走っていった方が速いと判断したのかツバメは先に食堂へ向かって駆け出して行った、コリュウやイグサより戦闘経験があるので心配はしていなかった。

 食堂到着後、やる気のやや削がれたイグサと先に食堂へ入った隊長を追う。


「ここにも生体兵器いないな」

「もう逃げちゃったかやっつけたのかな?」


 入口は瓦礫にふさがれ、ガラスに気を付けながら大きな窓があった場所から食堂へと入る。


「倒したならその辺に死骸が落っこちてるでしょ。撃退したなら誰かいるだろうし、ここを守ってた一般兵もいないし、まだどこかに潜んでるんだろ」

「あー、さっきタルト食べたところが見るも無残に」


 天井から落ちてきた火花を散らす電球を避け奥へ進む。


「隊長はどこ行った?」


 お互いにかみ合わない会話をしながら食堂内を歩く。

 地下へとつながる通路の前でツバメは待っていた、厨房から持ってきたであろう干し肉をかじって。


「二人とも来たな。よし、地下に向かうぞ」


 ツバメが持っているものを視認するとイグサが小走りで駆け寄る。


「わたしも半分欲しい」


 イグサはツバメから干し肉の一部を受け取り、三人はエクエリを構えると慎重に進む。

 基地の建物は食堂も例外なく壊されていて、天井に開いた大穴から太陽の光が差し込む。


「生体兵器と入れ違いになったんだなぁ」

「どうしたコリュウ、急いで帰りたかったのか? 私たちはグールを倒したんだから悠々と帰っていいじゃん」


「いや別に早く帰ってきてれば、基地を守れたとか思ってませんから」

「英雄願望持つと早死にしちゃうぞ?」


 ツバメとコリュウが話していると突然イグサが叫ぶ。


「誰かでてこーい!」


 背後からの大声にツバメとコリュウは驚きのあまり背筋がピンとした。


「何が出てくるかわからないんだから、叫ぶな!」

「物音しないから生体兵器はいないんじゃない? おっと」


 コリュウが咎め、ツバメが反射的にイグサに拳骨を撃ち込もうとしたが彼女はひらりと見かわした。


「室外にいたらわざわざ呼び込むことになるだろ、何でお前はそんなに軽率なんだ」

「隊長とコリュウがいるから、何とかなるかなって」


 イグサとコリュウが戯れている間にツバメは奥へ進む。


「ほらほら、地下への階段降りるよ。電気壊れてるから足元の非常灯だけ、暗いよ」


 三人は地下へとつながる階段を下りることに決めた。

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