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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
1章 滅んだ国と生体兵器 ‐‐すべてを壊した怪物‐‐
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無名の戦場 2

ーー隊長がいない? 


 コリュウが来た道を戻りツバメが見張りをしていた位置に帰ってくるとそこに彼女の姿はなく、先ほどの位置から離れたところ、より外の状況を見やすい場所へと移動していた。

 廃屋の元はリビングがあったところだろうか、彼女のいる部屋は広く大きく二階の天井が抜け月明かりが差し込んでいる。


「お帰りコリュウ、イグサは起きた?」

「ああ、はい。すぐ来るって言ってましたが、まぁ、かなり眠そうでした」


 聞こえてきたツバメの声に返事を返し、コリュウは来た道を振り返った。

 光が届かずほぼ暗闇の中でイグサの影だけがもぞもぞと動いている。


「私が寝たのが悪かったな、変にまだ怠さが抜けない」

「戦闘が始まれば、どうせ物音で起きたでしょう」


「この怠さは戦ってるうちに何とかなるかな?」

「さぁ、どうでしょう」


 ツバメは割れた大きな窓の横に立ち、彼女の愛用の調理用のナイフを反射させ鏡のように使って外の様子を調べていた。


 廃屋と生体兵器との距離はすぐそばまで迫っており、耳を澄ませると生体兵器の草を踏む音が聞こえる。

 相変わらず雲の流れは速いがもうじき日が昇ろうとしていて遠くの空が暁色に空は染まり始めていた。


「ツバメ、コリュウ、すみませんお待たせしました。それで敵は」


 顔を洗い眠気をとってきたイグサが、奥の部屋から大きな銃を持ってくると二人の様子を見て姿勢を低くする。


 それは銃身から持ち手までほとんど太さが変わらない鉄の塊。

足元から持ち主である彼女の胸の高さと同じくらいの長さの建築に使う木材のような太く細長い長方形で、それを削り付け足し銃の形にした大きな武器。


 黒く光を反射しないざらついた塗装のそれは、対生体兵器用兵器、エクセプション・エリミネーター。

 長いので略して、誰もがこの武器をエクエリと呼んでいる。

 生体兵器の堅い鱗や殻、分厚い皮膚や筋肉を打ち抜くための特殊な火器。


 イグサの姿を確認したツバメはより身を低くするようにジェスチャーをして声を小さく部下二人に言った。


「もうすぐそこまで来ている、まだ相手の索敵範囲外だろうができるだけ気配を消し必要なこと以外はしゃべるな」


 返事を返すコリュウとイグサ。


 そしてコリュウとツバメも戦う武器を構える。

 彼とツバメは同じ型の小型と呼ばれるイグサの持っている光学銃、エクエリよりずっと小さい。


 形状はイグサのエクエリと大型と変わらず長方形。

 しかし長さは彼女のエクエリの五分の一程度、手のひらから肘より少し短いくらいの大きさで軽くそれなりの筋力さえあれば片手でも扱える品物。


 コリュウのもとにやって来たイグサが腰を下ろすと、頃合いを見て廃屋のリビングにいたツバメが二人に指示をだした。


「奴らはこの廃屋に真っすぐ向かってきてる、見つかっていると思っていいだろう。でも、あいつらはこちらが気付いたことに気づいていない。今なら先手をとれる。私は向かって右のをやる、お前たちは二人で左のをやれ。相手に反撃させずに一気に攻めるよ。それでは、エネルギー確認。78%問題なし」

「83%問題ありません」

「84%問題ないです」


 戦闘準備が整うと三人は、距離が離れているが互いの顔を見合わせる。


「よし、じゃあ攻撃は30秒後。いい」


 無言で頷きあうとツバメはナイフを腰に着いた鞄に収め、リビングから少し手前に戻り廃屋の玄関のあった位置へと移動した。

 エクエリは動植物など生き物には絶大な効果を発揮するが、瓦礫や地形をほとんど破壊できないと変わった仕組みを持っている。


 そのため木造の建物の壁越しでも撃てないことはないがこの建物は半壊状態、何が原因で倒壊するかもわからないため隙間や窓から撃つことを決めた。

 コリュウ、イグサも飛び出して戦いやすいよう廃屋のリビングの向かいにある部屋、その部屋の窓のある場所へと移動する。


 廃屋のツバメのいる玄関とコリュウ達のいる部屋の壁は朽ちており、柱だけが残っている状況だったためお互いの位置は確認できた。

 コリュウは割れた窓ガラスを拾って鏡の代わりとして外の様子をそっと覗く。


 ちゃんとした鏡でないのでそのガラス片は生体兵器の大まかなシルエットしか映せなかったが、奴らは二匹とも廃屋を囲んでいた塀の後を乗り越え敷地内に入ってきている。

 二人の担当している生体兵器の方が一回り大きいが、この二匹はつがいなのだろうか? とつい余裕から余計なことを考えているコリュウ。


あと10秒、とツバメが指折りにカウントダウンを始めた。


 コリュウの持つガラスに映る生体兵器は何らかの臭いで追ってきたのだろうか、しきりに鼻を動かしているがまだこちらに気が付いていない。

 奴らがこちらに気が付いたときはもう遅い、そう思いながらコリュウはエクエリを握りなおす。



 ツバメのカウントが3秒を切るとジェスチャーをやめ3人はエクエリを構えた。

 そして残りの数を心の中で数えると、コリュウは持っていたガラス片を捨て立ち上がり両手でエクエリを外の敵に向けた。


 ちょうど朝日が昇り始め、逆光で朝焼けに浮かび上がったシルエットしか確認できなかったが生体兵器は牙をむき出しにして地面に爪を立ててけを逆立てている。

 二匹は口を開け飛び掛かろうとしていたが、すでに奴らの行動は何をしてももう遅い。

 交戦距離、攻撃有効範囲内、この距離で外すことはない。


「らぁッ!」


 イグサが大型のエクエリを持ち上げ窓枠に乗せ生体兵器に向かって叫ぶのと、3人の構えるエクエリからと同時に火薬を使わない小さな銃声が鳴る。

 光の弾丸が飛んでいき朝日の逆光で黒い影の塊となった生体兵器に吸い込まれていく。

 コリュウとイグサ、両方の弾丸を受けた生体兵器はよろけその場に倒れた。

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