勝利とは言い難く 5
ルリたちを乗せた重装甲車は大きく離れた町の入り口で勝って帰ってくるか逃げて帰ってくるかどちらにしろおいては行けずそこで待っていた。
「逃げましょうよ、今なら戦闘中で追ってこないはずですし、距離を放さないと誰かがどこかの門を開けるにしたってこの車両だ通れる隙間があくまで時間がかかるんですよ……ねぇ……」
誰かに向かって言っているようだが誰の顔もみず、ぶつぶつと独り言を続ける運転手。
元一般兵という話が信じられないほどに彼女は落ち着きがなかった。
「失敗した、タイミング逃してここにいるけど俺も言った方がよかったよな」
画面に映る後ろで上がる黒煙を見ながらカイセイが自分のエクエリを手に渋い顔をする。
「……おじさんいなくなったら、パニック起こしてるセイショウと運転手の人だれも止められないからいた方がよかった」
「そうですね、半狂乱ですもの。というか彼女たち静かになってません? あ、気を失ってる」
ちらっと運転席のほうを確認した後、カイセイに寄り添うように座っているルリとツララがモニターを見つめている。
知らない一般兵や元精鋭のイガラシより、ボロボロの体のキッカを心配していた。
生体兵器の攻撃をかいくぐりイガラシはいったん瓦礫の陰に避難する。
素早くバッテリーを変えると少し離れたところにミチルを見つけ、生体兵器の目をかいくぐってそこまで来た。
「やはり体が付いてきません。おや、そういえばさっきから彼女の援護がありませんでしたがキッカさんはどうしました?」
「どこかで休んでいます。思っていたほど動ける状態じゃなかったようで、ちょっと走っただけで苦しそうでしたのですぐ置いてきました」
息を整え体を大きく動かしなまった体を慣らしていくイガラシ。
「起き上がった時の彼女を見てそんな気はしていましたし期待はしていません」
「あれは、あの怪物は私たち二人で倒せそうですか?」
「厳しいですね、すでに攻撃に対する反応速度が速く首や目など致命傷を狙った攻撃はすべて回避されています。邪道な戦い方をしていいのなら彼女を餌に仕留めるという手がありますが」
「生体兵器が食事中が最も仕留めやすいてやつですか……」
「ええ、前線から長らく離れていた私があれを倒すというのであれば、正攻法では勝てないでしょう。もちろん本当に食べさせるわけではないですけどね」
「このどれかの砲塔が動かせれば、強力なダメージが与えられるというのに」
「それはやめた方がいいです。排除できる危険は率先して潰しに来ますよ」
「……むむむ」
あたりに散らばる残骸を見る。
装甲車の砲塔には大型のエクエリと同じ威力のもの付いていて、それが使えれば威力不足も改善できるのだがどれもがっちりと砲塔と同化していて取り外すことはできない。
そもそも一般兵は普通大型のエクエリを使わないので取り外して使う必要がないため、そういうようにはできていなかった。
さらにオオトカゲはその威力を知っており、その砲塔が付いている装甲車を横転させ念入りに破壊してあるという丁寧さが見られた。
「しかしあの鱗を貫通できない以上あれを使うしかありませんね。使える砲塔があるとすれば、向こうまで走って門の前に置いてある奴でしょうね」
「私、走って行ってきましょうか? 私にできることはそれくらいでしょうし、しっかり引き付けていただけるのであれば」
門の前に集まっていた方の装甲車。
乗っていた者たちはみな戦う意思などなく一目散に逃げ出しそこには乗り捨てられた車両が並ぶ。
「……それではお願いできますか、そこまで誘導しますから首の根元を狙ってください。作れる隙は一度が精いっぱいだと思いますので」
「わかりました、動かしてみますのでそれまでお願いします」
そういうとイガラシはまたオオトカゲの前へと飛び出していった。
彼を見届けるとミチルも走り出す。
激痛に耐えきれず意識を手放した後、キッカは夢を見ていた。
ーー昔、家に見たことのない大きな生き物がいた。
ーーその日は何かの記念日で知らない人がたくさん集まっお父さんとお母さんのお祝いしていた。
ーーその日の夜のこと。
ーー外は聞いたこともないような警報が鳴っていてお母さんたちは荷物をまとめている最中だった。
ーー二階の自分の部屋から着替えをもって出てくると、下の階で大きな物音か聞こえ階段を下りる両親は赤く染まっていて動かない。
ーー二人の上にいる大きな生き物はこちらに顔を向けると飛び掛かってきた。
ーー着替えを投げつけ自分の部屋に逃げた、机の下にもぐり布団をかぶって夢だと言い聞かせた。
ーー気が付くと、誰かに抱えられて外を走っていた。
ーーそれから数日連れて行かせた先で青い目の年端もいかない子供と出会った。
懐かしい思い出だ。
ーーその後は住む学ぶ生きる世界が変わった。
ーー私は彼の……彼を守る盾、それが私を助けてくれた一重の永遠の恩返し。
戦え、守るために。
私を慕う彼の生活のために。
「さぁさぁ、起きなさい。気を失っている場合じゃないでしょう?」
優しい声に促され目を開けるとカガリの膝の上でキッカは眠っていた。
それを認識すると目を見開き体を起こしキッカは大きく後ろに飛びのいた。
「何してるんですか」
「元気になりましたね、とは言っても一本じゃ完治とはいかないでしょう。一応は耐えられる程度の痛みになったということでしょう」
それを聞いてこぶしを握って開く。
「確かに、だいぶ痛みが楽になりました。手はどうにもなっていないようですが」
「解毒や古傷の除去などは期待できますが、骨や内臓の破裂は修復できませんから、その手はヒビとか折れてたりとかしているのではないですかね?」
「私はどれくらい!!」
「10分、薬の副作用が収まった時間を見計らって起こしました。さぁ、これからすることがあるのでしょう?」
銀色の筒を渡すとカガリはもう一度倒れたバイクを起こそうとし始める。
キッカはエクエリを構えそれを痛む手に握って黒煙の上がる場所へと向かって走り出した。