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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
5章 狙われた命 ‐‐日常へ帰還‐‐
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勝利とは言い難く 2

 怪我した手をかばいながら壁にもたれかかりキッカは運転席に集まった全員を見る。

 カイセイ、ルリ、ツララに怪我がなく心配そうに自分を見るのを確認すると、全身に走る痛みをこらえ胸をなでおろしにこりと笑う。


 生体兵器から逃げるため走り一般兵にゴム弾銃を向けられ慌てていたころと違い、休み落ち着くと彼女のごまかされた痛みは数倍どころではなく、四肢を千切るような痛みとなって彼女を襲っていた。


「私、気を失ってたんですか?」


「キッカ、気が付いたのか。体がつらいならまだ寝てていいぞ。しばらく俺たちは何もできないだろうから」

「ええ、この状況は? 私が気を失っている間に何が?」


 ルリとツララがキッカが起きたことに安堵の表情を浮かべてやってきた。


「キカ、大丈夫? 怪我凄い痣になってた」

「キッカさん、いろいろお聞きしたいことがあるんですが、とりあえずお水です。飲んでください」

「ありがとうございますツララ様、ルリ様もご無事で何より」


 二人は包帯や絆創膏の張られたキッカの体に触れるのを避けよく冷えた飲み物を渡す。

 激痛をこらえ無理に作った精いっぱいの笑みでお礼を言い受け取ると、それを一気飲みをし皆が見ている外の景色を移した画面を見る。


「見ての通りあっちとこっちの一般兵とそっちにいる生体兵器、二重三重に囲まれ襲われている状態だ。なんか動かないでいると襲われないみたいだから、様子を見ている」

「そうですか……迎えの車に乗ったからやっと返れると思っていたのに」


「そううまくことは進まないようだな、あっちもこっちも。あー腰が痛い」

「ええ、向こうも私たちの暗殺に失敗しているんですものね。私たちだけが奇跡に恵まれているということはないんでしょう。私は体が砕け散りそうです」


 道をふさいでいた方も司令塔がいなくなりパニックを起こし門の外へと逃げようとしたが、外の様子を知らない者たちが予定通りに門を閉め始め混沌と化し統率も何もそこにはなかった。

 その間もオオトカゲは走り回る車両に飛びつき横転させ走行不能にさせる。


 横転した車両から考えなしに生体兵器の前に出て行って、数の力でエクエリを撃つだけではもう倒せない。

 百名近くいるはずの一般兵は戸惑うばかりでたった一匹の生体兵器に蹂躙され戦線は崩れていた。


 キッカたちを囲む包囲網にはすでに大きく穴が開きいつでも逃げ出せる状態にあったが、これ以上放って置くと近隣のシェルター、何よりフクラシェルターに危害が及ぶ恐れがあるとイガラシが戦かう覚悟を決めるのを見てミチルも戦闘の準備を始めている。


「キカ、怪我は大丈夫? 帰ったらすぐに診療所に連れていくから」

「いいえ、報告が大事です。手も背中もあちこち痛みますが、耐えられる範疇です。ルリ様は大丈夫ですか、今日も歩き通しでしたからこうやって休める今、眠っててもいいんですよ」


「いや……キカ、表見て表。休んでる場合じゃない。生体兵器が」

「大丈夫ですルリ様、この装甲車は中型の生体兵器の攻撃に耐えられるように作られていると聞いています。ですから不用意に外に出なければ」


「いや……キカ、正面の同じ型の装甲車は、投げられた他の車で潰れてるんだけど」

「生体兵器の攻撃は防げますが、岩とか投げられれば壊れます。ルリ様、飛んでこないことを祈ることしかできないんです。ところでなんで逃げないんですか、今逃げるチャンスでは?」


 ああでもないこうでもないと言い合いをしている大人たちの後ろでルリの横にいたツララがクスリと笑う。


「ツララ、なんか嬉しそう?」

「え、ええ。だって、こんな経験生まれて初めてですもの、今すごくドキドキしてます。生体兵器ですよ、生きているのを生で初めて見ました。こんな怖い状況にルリさんと一緒にいられたこと、同じ物を見て同じ経験をする。私の望む位置にキッカさんがずっとその場所にいたので少し嫉妬しますが」


 昔話に出てくる王子様に助けられるお姫様にでもなりたいが用に語るツララを見て、やれやれとイガラシとキッカがため息をつく。

 現実は一歩間違えば死だということが温室育ちの彼女にはわかっていないのだろう。


「生体兵器がこのまま逃げる車両を追ってこの車両から離れたら、少し移動してください。私は元精鋭としてあいつを止めないといけませんので」

「私も行きます、少しでも戦力が必要ですよね」


「さっきと同じで余り前に出すぎないように、あなたは援護をするだけでいいですから」

「わかってます、元精鋭の人とこんな近くで戦う機会なんかそう滅多にないから、張り切って頑張ります!」


 少し不安があるもののイガラシとミチルはいつでも外にできる準備を整えると後部のドアへと向かってキッカの横をすり抜けていった。


「張り切られては困ります、援護でいいですから」

「わかってます!」


 後ろに行ってもう一度作戦会議をして何時二人を見届けるとまた画面を見る。

 その時だった、デンッっと物音が聞こえた、それは外からこの装甲車に何かがぶつかる音。


「……何の音?」

「なんかぶつかったな」


 ルリとカイセイが物音に反応しぽつりとつぶやいた。

 皆何がぶつかったのか気になり画面を見たが、画面からではその正体がわからなかった。

 だがその後同じものが数発撃ちこまれると一発が地面に落ち弾けそれが真っ赤な液状の何かだとわかる。

 それがわかった途端キッカが思わず叫んだ。


「あの赤いのは、セイショウの背中についた血糊入りのペイント弾!」

「ひゃい!」


 名前を呼ばれてびくりと体を揺らすセイショウ。

 大声を出した反動で体中に力が入りそれが激痛を誘う、キッカは自分を抱きかかえるような格好で身をよじって苦しんだ。

 それに気が付いてもさらに何発もペイント弾はこの装甲車に向かって飛んできた。


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