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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
5章 狙われた命 ‐‐日常へ帰還‐‐
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勝利とは言い難く 1

 防壁を背にした門をふさいでいる一般兵たちはそれが何か知っていたし位置取り的にその姿を見ることもできていた。

 アンテナ車の電波に誘われやってきた生体兵器。


 催眠ガスにによって本来の凶暴性は抑えられ扱いやすくしている。

 それと同時に意識を朦朧とさせることで脳の活動を低下させて学習し強くなる特定危険種へのクラスチェンジを抑えていた。

 そのはずだった。


「本体との通信はできたか?」

「いいえ、いまだにつながりません」


 重装甲車の中でふんぞり返って座っている恰幅のいい男が無選手に話しかける。


「暴れるだけ暴れさせすべてが終わったらあれを回収するというのに、特注の檻はどこをちんたらと走っているんだ。さっさと連絡をつけろ」

「それが、回収班と指揮を任されていた本体だけでなく、対象を補足するために個別で走り回っていた連絡係や生体兵器が逃げないように見張る追跡班とも連絡が取れず。連絡が付いたのは先ほど合流した警備と一部の連絡係だけです」


「こちらが生体兵器を使っていることがばれて向こうの一般兵に捕まったのか馬鹿ものどもが。きっとあのどれかの装甲車に捕まっているのだろうが、今から助けることはできないだろうな」


 特に何の感情もなく頬杖をついたままモニターに移された外の様子をみて、無線機を使って横に並ぶ車両に通信を入れる。


「ここで向こうの一般兵をあの化け物があらかた蹴散らしたら、あれを処分しろ。もう必要ない、この戦闘の犠牲はあれが全てやったことにする」


 そういうと無線機を返し、また頬杖をついてぼやいた。

 胸ポケットから手帳を取り出しそこに挟まれていたかつての彼の婚約者の写真を見る。

 長身で胸が大きくモデル体型のスタイルのいい長髪の女性。


 写真に写る彼女はクールな姿勢に惹かれ彼女の両親高い金を払い使用人として買い付け作法を身につけさせ、そののち惜しみなく金を使い盛大に行った婚儀の最中に、参列者であったオビシロシェルターの男とともに姿をくらました。


「こんなことになるとは思わず大型のエクエリと戦車を持ってこなかったのは痛いがこれだけの数だ、力で押し殺せるはずだ」


 その恥ずかしさを忘れずその恨みを忘れずその思いを忘れず、何年か後にオビシロシェルターにこの作戦の元になったアンテナ車を使った生体兵器の誘導を行うことになる。

 それも災害種の誘導を。


「まったく親子そろって、恥をかかせてくれる。こんどこそあの美しい体を物にする気だったのに」


 懐かしむように初恋の相手を見ていた彼は、生体兵器を完全に操っていると思っているすでに催眠状態は解け本来より幾分か凶暴化していることに気が付かなかった。

 気が付いてもすでにその時には遅かったかもしれない。


 数両離れたところにとまっている車両で祈るように下を向き手を振って座っていたレイラは、建物が崩れた振動で顔を上げると。

 ちょうど自分のシェルターの統治者が乗っていた重装甲車両に、捨てられた空き缶のように飛んできた兵員輸送の装甲車が直撃し、お互いにグシャリと潰れ一つの鉄塊に変わったのを目の当たりにした。






 生体兵器が現れて暴れだし一般兵が右往左往するのを見るのはルリとカイセイは二度目となる。

 一同は運転席に集まり全周囲を移すモニターで生体兵器を追っかけていた。


「こんなところまで追ってきた!? 早く倒して!」

「慌ててる場合じゃないだろ、戦えよ。おいおい、そのための一般兵だろ」


 運転手とカイセイが逃げようとしてお互いに車体をぶつけあう車両に乗った一般兵を見てつぶやく。


 銃座や砲台についたエクエリを撃とうとするとオオトカゲは他の車両を盾にして身を隠す。

 すでに聖地あ兵器は思い通りに体を動かせないときに何度となくエクエリを見て、それがどういったものかを理解し何が有効かを理解しつつありその動きはまぐれではなく意図的に動いている。


「ルリさんはあんな恐ろしいものから逃げていたんですね」

「大丈夫、一般兵がいっぱいいるしこの装甲車は中型までの生体兵器の攻撃想定した造りで安全なはずだから」


 幾度となく一般兵や精鋭との戦闘の経験を積むと生体兵器の戦闘能力は対人用兵器として偏る。

 自信より弱く戦闘になっても怪我が少なくすむ別の生体兵器という食料を探すことなく、人間は大量に勝手に向こうからやってくるのだから、のこのこやってくるそちらを効率よく倒し食料にするすべを見つけるのは楽をするための努力といえるだろう。


「ほぉ攻撃を受けて嫌がるように大暴れせず、安全地帯に身を引いたように見えます。すでに戦闘能力は特定危険種クラスかもしれません」

「そんなの見てわかるんですか?」


「勘です」

「はぁ……」


 イガラシはエクエリを持ち装甲車にしまってある武器を漁りエクエリのバッテリーなどをかき集めていく。

 生体兵器は体を押し付け両足で踏ん張り力をかけ車両を横転させると、それを繰り返し転がすことで盾を移動させる。

 装甲車両からエクエリをもって武装して出てきた一般兵を見つけると、頭を隠し後ろ脚で倒した建物の瓦礫を掴み投げつけている。


「精鋭がいないときついか。……イガラシ、お前ひとりで何とかならないか?」

「無理でしょう。今より体の動いた昔でも、さすがにしんどいものがありますよ。というか、クラキさんといいカイセイ様といい、私を何だと思っているのですか。老いを感じ現役を引退した元精鋭のフクラ家の一使用人ですよ」


 装備を整えたイガラシを見てダメかとうなだれるカイセイ。

 運転手はここから逃げる逃げないなどではなく、生体兵器から恐怖で目が離せない状態だった。


「ルリ様みんなと合流できたんですね、カイセイ様も。いつつ、皆さん。どう、か、されましたか?」


 後ろから話しかけられ驚いて運転手以外の全員が振り返り、具合の悪そうなその長い白髪の女性をみた。


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