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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
1章 滅んだ国と生体兵器 ‐‐すべてを壊した怪物‐‐
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戦場跡地、4

 コリュウとイグサにも戻るよう伝え逃げ出して数秒後、両羽のとれた輸送機が大きな軋む音を立てて揺れる。


 そして輸送機の上に大きな黒ずんだモジャリとした黄色い毛の塊が見えた。

 輸送機の上に上がると向きを変え、側面にもいくつか目があるが正面から見える4つの目がこちらを見ている。


「でかい!」

「こんな大きいなんて聞いてない!」


 コリュウとイグサ、二人が同時に悲鳴じみた声を上げた。


 イグサたちがいちゃいちゃふざけていた車両を通り過ぎ、グールと20メートル以上の距離が開く。

 ここからなら体勢を立て直して奴と戦えるだろう。

 その大きさは、足を含めて正面からの横幅が10メートルくらい。


 攻撃態勢に映るように指示を出そうと思ったが、丸太のような足がそろったかと思うと真正面に、つまり朝顔隊の方へ飛んできた。

 全速力で走って稼いだ距離が一瞬で詰められる。


 爆弾でも落ちたかの衝撃。

 泥が飛び散り地面が揺れ。

 遅れてものすごい風が吹く。


 蜘蛛が着地した場所。

 先ほどイグサが滑り落ちた装甲車が空き箱のように潰れ、地面に沈み込んでいた。


「こ、これ、私たちで倒せるの?」


 イグサは声を強張らせ、足元で潰れている装甲車より大きな巨体を見上げる。


 そういえば新朝顔隊ができてから大型の生体兵器との戦闘は初めて。

 表情に出ていないがコリュウもさぞ怖がっていることだろうツバメは二人の身を案じ二人より後ろには下がらない。


 ツバメは大型の生体兵器とも何度か戦っている。

 それでも隊長であるツバメも身を竦めた。


 生体兵器と正面から戦ってはいけない三人の頭の中にこの警報が鳴り響く。 


 グールが一番前の足を大きく振り上げた、体も少し浮き頭の下にある牙をこちらに向ける。

 臨戦態勢だ、のしかかるように襲ってくるその準備段階、何よりその巨体の威圧感がすごい。


「走れ走れ。ここは近すぎる、いったん奴の攻撃範囲から離れろ! 昆虫型は動物型と違って急所を攻撃しても即死しにくい、体勢を立て直す、距離を取れ!」


 イグサのエクエリでも勝算が低いと判断し撤退を選んだ。

 この手の生体兵器は不意打ちでも倒しにくいというのに、真正面からなどとんでもない。


「こ、こっこ、この距離なら外さないかど、撃っていい?」

「イグサ、一旦離れるから俺についてこい」


 コリュウは混乱しているイグサの手をつかみ走り出す。

 彼の右手が彼女の右手をつないでいて相当に走りにくそう、彼も相当混乱しているようでツバメは二人がそろうまで牽制しようと振り返りエクエリを構えた。


 しかし、襲ってくるかを思われたグールは3人が逃げていくのをじっと見ているだけ。


 ターゲットであるグールがここにいるにもかかわらず、近くからかすかにエクエリの銃声はまだ聞こえている。

 ほかの部隊は一体何と戦ってるんだ、焦りと苛立ちからツバメは無線と取ると誰彼構わず話しかけた。


「こちら朝顔隊、どうなってる。グールがこっちに来たぞ、鬼胡桃隊と山茶花隊はなにやってんの?」

『すまない今、グールの子供、60センチくらいのちっちゃい蜘蛛と戦ってる』

『同じくー。当分、オムレツは食えそうにないかも』


「オムレツ? おまえ、何言ってんの? じゃあほかの一般兵は、どこにいる、撤退したの?」

『いんや、同じくグールベビーと戦ってるん。こいつらものすごい数居やがるんよー、通信切る、ちょっと余裕がなくなって来た』

『こっちもだ』


 ツバメは舌打ちと罵声を放ったがすでに通信は切れた後。


「くそ、正面からはきつい。一旦身を隠さないと、反則だろあの巨体でのジャンプは!」

「俺ら、あれと戦うんですよね」

「コリュウ、手離して、いたい。自分で走れるから、このままは、走りづらい」


 振り返る気になれないが後ろから何かが追ってくる、何かかは考えたくもないし考える必要もない。

 荷物もあり走るのが遅いイグサを、置いていくわけにもいかず、彼女を先に走らせる。


「なんですぐに飛びかかってこないんでしょう」

「私たちが潰れちゃうからじゃない、知らないよ!」

「潰れるっていうか、トマトをバットで打ったみたいに弾けない?」


 変なたとえにイグサはその光景を想像してしまう。


「いやなこと想像させないで」

「あんな大きい昆虫型は初めてです」

「私もだよ、昆虫型ってあんなに大きくなるもんなんだね。竜胆隊みたいになりたくなかったら戦わないでまず逃げ切るよ」


 グールにとって軽い障害物としての機能しかない車両の間をジグザグに走り、ある程度距離を取ると手ごろな車両に隠れる。


 やっとのことでグールの目から逃れることに成功した。

 隣にあった車両が蹴飛ばされ転がっている。

 しかし、依然として奴は目と鼻の先、何かの拍子に隠れているこの場所がばれるだろう。


 朝顔隊は砲塔のない横転した戦闘車両の中で息を潜め、スタミナを回復していた。

 ここまで誰も怪我をしていないのが、今一番喜べるところだろう。


「ひとまずは……、いますぐにばれることはないだろう」

「ふひぃ~、昆虫型は怖いというより気味が悪いよ」


 まだすぐ近くで泥を踏む音が聞こえ、そのたびに地面が小さく揺れた。


「のど、かわいた、みず」

「大丈夫かイグサ、水筒持ってきて正解だったな」

「うん、ココア作ってこなくてよかった。まぁ遅刻して作る時間がなかっただけだけどね」


 グールは朝顔隊を見失ったようで今のうちに休憩しておく、ここから出たらまた蜘蛛との鬼ごっこが待っている。


「隊長。なんで、飛びかかってきてからすぐ俺たちに襲ってこなかったんでしょう」

「さぁな、私たち食べられる獲物かどうかわからなかったんじゃないか、におい消してたことが今の生還に続いてると思てるよ」


 念入りにスプレーを全身にかけるイグサ。


「消臭スプレー効果ってすごいですね」

「実用性なかったら持たされないからね、イグサもう大丈夫か?」

「うん、もう大丈夫」


 隠れながら逃げないと半人前を二人連れた状態であれと戦はないといけない。

 ツバメは周囲を見回し次隠れる場所を探す。


「さてこのまま身を潜めて援軍を待つか、しかしここが絶対安全でもない、下手をすると装甲車同様ペシャンコに潰されるかもしれない。せめてまともに戦える陣形ぐらい考えておかないと、あのジャンプをまともに受けないような戦い方を……」


 ツバメは過去の戦闘から使えるものはないか考えた。


「じゃあ改めて、どうやってあいつを倒すか考えよう」

「私のエクエリでぶち抜く」


 意気揚々とイグサが答えるが、それが簡単なら一般兵だけで退治できるなら精鋭などいらない。


「ああうん、それは決まってるよ。私とコリュウのじゃ、たぶん相当撃たないとあの体にダメージは入れられない」

「イグサ、俺がそれで戦おうか?」

「いいよ、こっちの方が扱いなれてる」


 すると、一匹の生体兵器が朝顔隊が隠れている戦闘車両に入って来た。

 大きさは60センチくらい、淡い黄色の体に濃い赤いラインが二本入った、レモン型の腹部の蜘蛛。


 オムレツにトマトソースがかかった感じの蜘蛛、毛は生えているが色合い的な意味での話。

 無線で言ってたのはこういうことか、と三人は口に出さなかったが同時に思った。

 外の草むらでもこれだけ黄色ければ発見は容易だろう、それほどまでにこの蜘蛛は風景に溶け込めてない。


「なん?」

「これがグールベビー……」


 コリュウが無言でエクエリをその黄色い塊に向ける。


「待てコリュウ、私がやる」


 仲間を呼ぶでもなく真っすぐ向かってくる小さな生体兵器。

 腕を上げて攻撃態勢を取るグールベビー、でかいだけに気持ち悪いがそれより大きなグールを見た後だ気味悪さはあっても恐怖感はない。


 ツバメはエクエリを構えると頭からまっすぐ撃ちぬいた。

 体に大穴が開いたがそれでも足が動いていた。


「うぅぅ……」

「気持ち悪い」


 しばらくその体を見ていたがなかなか死なないため、最後はツバメはブーツで踏みつぶした。

 腹がはじけ半透明の体液がブーツに飛び散る、ここでようやくグールベビーは息絶える。


「ああ……なるほどこりゃ、当分卵料理は食べたくないや……」

「同じく……」

「私も……」

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