表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
5章 狙われた命 ‐‐日常へ帰還‐‐
188/798

集まりすれ違う 4 

 キッカたちが必死で逃げている間、外で大変なことが起きていることに全く気が付かない防壁の近くにいるツララたちが乗っている重装甲車。

 イガラシがいなくなったことで生体兵器の襲撃への不安を募らせながら、エアコンのかかった快適な空間でツララはペンを走らせていた。


「暇ですねぇ、イガラシさんはどこへ行ったのでしょうか」

「まったく。私たちは一刻も早くルリさんを探さないといけないというのに、見つけたというのに報告もせず一人で行ったしまうなんて許せません!」


「ツララ様、そこ二問とも間違ってます」

「ぐぅ」


 模範解答と外を移すモニターを何度も往復し、たまにツララの解答用紙に目を向ける。

 現場で指揮をするときに指揮官が乗る用の車両だけあって、中型の生体兵器の攻撃までなら防げる丈夫さを持っていて、アンテナ車がなくてもドローン操作や無線に指示だす電波を飛ばせる。

 ツララの問題集に付き合うのに飽きマチは装甲車のなかで暇を持て余していると、無線受信のダイヤルを何の気なしに回していた。


「おや? 今何か聞こえた……捜索隊かな、キッカさんたちは見つけられたかな」

「わたしたちはルリ様を探しに来たのです。問題集を解いている場合ではないんですよ」


 マチは大雑把に回していたが声を拾い精密な回転に移し、ダイアルが正確に合わされどこからかの無線を拾う。

 声はどこかへと報告をしている最中で、キッカたちの発見と生体兵器との交戦を報告していた。

 現場は混乱しているのか、聞こえた来た報告の中にルリを仕留め損ねたなどと、まるで命を狙っているかのような変な報告。


「私に言われましても」

「お説教は後で受けるとして、さぁ報告のあった中央区画へと。安心しなさいキッカさんを追っていったというのならイガラシがどこかにいるはずです、どこにいるかわからないけど合流すればいいでしょう」


「いやですよ、生体兵器がいるんです。私だって、怒られるの覚悟でツララ様の命令を拒否させていただきます」

「行きなさい。戦場に送り返しますよ、一番過激なところに」


 急いでマチは装甲車の運転席に移動するとエンジンをかけ中央区画へと走らせた。

 問題集を隅に置きツララはモニターとパネルを操作して通信の発生源との距離を特定すると、その場所を運転席のモニターに移す。


「ルリさんたちが捜索隊から逃げるには何か理由があるはず。しかし、でもいったいどんな理由が」

「命を狙われてるとか?」


「今度はどんなドラマに影響を受けたのですか? 好きですねぇ……」

「またスイレンシェルターから面白そうなのを仕入れてもらえれば。でも、もしそれ以外の理由があったとしたら?」


「それ以外って何?」


 運転の片手間にマチが考えると自分でもあり得ないだろうと思っている答えを、いたずらっぽくツララに伝えた。


「身分さの恋、愛の逃避行とか? ああ、駆け落ち……あのドラマ面白かったなぁ、世間知らずのお姫様と年上のお兄さんが誰も知らない土地へと旅立ち、苦難を乗り越え最後には結ばれる、ロマンチック」

「まさか、そのようなことが……馬鹿げている、そんなわけない! ルリ様に限って」


「でもスイレンシェルターの子ってキッカさんと仲がいいですよね。それに押しに弱くて強気な女性に強引に連れまわされそうな感じですよね」

「でも、ちゃんと断れる人ですから。キッカさんを慕ってるところはありますが……慕ってるだけ、」


「それに知ってますか? イガラシさんに聞いたんですけど……」

「なんです?」


「キッカさんのお母さんって実際いいなずけとの結婚を断って駆け落ちしたらしいんですよ。ずっと好きだった人と一緒になれた、ドラマみたいなほんとの話」

「でもっキッカさんに限ってそんなことは」


「言っては何ですけど、なんであんな地味な子を好きになったんですか?」

「なっ、ルリさんとは文通をしていて、日々のこと家のこと私のこと、普段喋らない分いっぱい文字で語ってくれるんです」


「手紙……随分とアナログですね」

「年はじめと誕生日には毎年お祝いの手紙を書いてくれてプレゼントも」


「ああ、記念日を忘れない男の人っていいですよね」

「みんなルリさんの外側だけ見て勘違いしてるんです、ちゃんと知っていればルリさんがしっかり者で優しく強い人ってわかりますから」


「文通って手紙だけで字だけなんですよね。もしかしてキッカさんが代筆なんてしてませんかね」

「大丈夫、以前スイレン家のすべての人の筆跡と比べて確かめたから。一緒に勉強したときのルリ様の字と比べて本物だって確かめたし」


「まぁとりあえず、向かいますよ、イガラシさんもいると思う中央区画に。どうか生体兵器は一般兵が倒していますように」

「急いで、早く、ちゃんと確かめないと」


 人目を惹く白髪の長身でスタイルが良く大人の魅力があり、社交的で運動神経もよくてかっこよく異性からも同性からも頼られる存在と、わがままで疑り深く自慢できるのはきれいな金髪ぐらい、小さくこれといった特徴のないシェルターのために他者にすり寄っていく自分を同じ天秤で比べていた。

 でも、悪魔で何らかのトラブルに巻き込まれてルリとキッカは捜索隊の保護を受けないでいるのだと信じたかった。

 しかし先ほどの話がツララの不安を時間とともに深く大きく掻き立てていく。

 ツララは心の奥深くで疑念を抱いたままルリの救出に向かう。




 カイセイが乗ってきた車をなくしどこで一般兵が待ち構えているかを考えながら、一般兵から逃げ切ったキッカたちは廃墟の中を走り生体兵器に追われていた。

 太陽が真上にあり影の中を通れない暑さの中走り続けたカイセイはもはや限界でふらふらと歩く。

 キッカは内出血で腫れ赤黒くなった手をかばいながら、暑さでも運動したとも違う痛みに耐える汗を流し歯を食いしばって走っている。


「キカ、なんか、追ってきてるんだけど」

「知りませんよ、なんであれだけ一般兵がいて、私たちだけを狙ってくるのさ!? ふざけんな!」


「キカ怖い」


 ジグザグに逃げ生体兵器と距離は取ったが、なぜか破壊音はそれでも近づいてくる。


「キッカ忘れてているわけじゃないだろうけど、そこの嬢ちゃんの背中のペイント弾に血が混ざってるの忘れたわけじゃないだろうな。あと性格、素になってるぞ」

「それか! 服を脱がせるのもどうかと思ったけどやっぱり脱いでもらうべきでしたかね」


「さすがのキッカも生体兵器の相手は無理か」

「私を何だと」


「そろそろ何とかしてくれないと、もう、いい加減息も体も苦しいんだが」

「無茶言わないでください、盾になる以外は護衛と制圧、どれも対人を想定したスキルです。それにゴム弾を受けたダメージであちこちボロボロ、一般兵相手の護身術もできるとは思っていませんから」


「だよな。撃たれたところ、大丈夫か?」

「脚も背中も痛むけど大丈夫。でも手のひらのほうは壊滅的、ははっ、曲げられるけど指が思うように動かないです」


「ゴム弾でも距離と当たりどころでは死ぬからな、早いところ戻って治療が必要だな。骨折してんだろ、後遺症とか残らないといいんだが」

「はは、戻っても私には仕事が残ってるんですけどね。ルリ様の仕事のお手伝いしてくれる人探さないと」


「そんなことは、俺んところとフクラのところで何とかできっから」

「そうですか? でしたら、裏庭のトマトの世話もお願いできますか」


「それは知らん、また来年がんばれ。まて、車両がこちらへ来るぞ。正面だ」

「まったく次らから次へと……休む暇もない」


 三人が走っていると正面から護衛もつけない装甲車が現れた。

 色までは覚えていないがあの形はフクラシェルターの防壁の前で見たのと似ている、戦場で指揮を執る指揮官などを乗せる重装甲車。


「あれがおそらく司令塔ですね、昨日の夕方に見たのとおなし重装甲車。あの中にいる奴を取り押さえれば、このよくわからない鬼ごっこも終わる」

「……キカ?」


「カイセイ様とセイショウ、ルリ様は隠れて待っていてください」

「一人は危ないよ」


 二人に隠れるように言うとキッカは瓦礫から錆びた鉄パイプを引き抜き装甲車に向かって走り出す。


「まてキッカ、……ルリ坊、その嬢ちゃんと隠れていろ」


 キッカを追ってカイセイも飛び出す。


 一般兵が集まっていたあの場所にいなかった、どこかで無線だけ聞いて隠れていたのだろうとそして行く手に立ち塞がったのだとキッカは判断した。

 大型の装甲車の側面にフクラ家の紋章が刻まれているのだが正面からは見えない。


 ツララの乗った装甲車もルリを見つけて速度を下げるどころか、キッカを狙っているかのように逆に上げてきた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ