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暴走生命の世界 バイオロジカルウェポンズ  作者: 七夜月 文
5章 狙われた命 ‐‐日常へ帰還‐‐
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集まりすれ違う 2

 何度か道をそれ大きな建物の敷地を横切って他の道へと出ると、生体兵器が追ってきていないことを確認し走る速度を落とす。


「キカ、キカ! ミチル、置いてきちゃったけど」

「……少し気を引いてくれたら、すきをついて逃げ切ってくれることを祈りましょう。今は戦うより逃げなきゃ、ルリ様は私が守りますからね」


 それだけ言うとルリは黙り込む。

 口では戦えとも守れとも何とでもいえるが、実際に生体兵器を相手に数人で勝てるものではないとルリもわかっている。

 シェルター奥深くで暮らしていたルリの姿を見るのは初めてだが、前線基地から送られてくるその戦闘報告と死亡報告は毎日届いている、今はもういないシェルタースイレンの統治者が毎日それらにも目を通し頭を悩ませていたのを覚えていた。


「生体兵器と鉢合わせるとは思っていなかった。こうなるなら護衛ぐらい連れてくるべきだったな」


 キッカの後ろでヒューヒューと息が聞こえてきた。

 つい先ほどまで威厳ある態度をとっていたカイセイが息を上げてキッカの後をついてくる。

 彼は元は前線基地の指揮官をしていたこともあったが今はシェルターの統治者、デスクワークが仕事のため体力はほとんどない。


「逃げるといっても逃げるあてがありません。このまま行くと確か広場に出ますよね、どうしましょうか」


 当てもなく走っているとキッカの記憶通りに広場があり、そこには複数の装甲車が見えた。

 今までの出来事からキッカの警戒がぐっとあがる、そしてそれは間違っていなかった。


「お、一般兵だ! 捜索隊だな、ちょうどいい生体兵器のことを説明して、さっきの子の助けに行ってもらうか。あとは彼らに任せればいい」


 彼らの装備はシェルターの外にいるのにかかわらず手にしているのは対人用のゴム弾銃。

 へとへとになったカイセイはそれに気が付かない。


「カイセイ様、まった!」


 キッカの制止は間に合わず、カイセイが大声を上げて一般兵を呼んだ。

 反応は早かった、手を振り返し安心させその後すぐ彼らは集まり密集陣形でゴム弾銃を構えた。


「なんだ? ゴム弾じゃ生体兵器の相手なんかできないだろ?」

「彼らの狙いは私たちです!」


 そして一斉射。

 誰よりも早く慌ててセイショウも逃げ込んだ、泥にまみれキッカに一度投げ飛ばされた彼女は地面に転がることにためらいはなかった。

 ルリを後ろにいたカイセイに投げつけ、キッカは身を挺して二人の盾になる。


 足の五発、体に八発、腕左右に一発ずつ、頭に一発受けて大きくよろけた。

 二射目が来る前にカイセイが押し付けられたルリと頭を抱えたキッカを抱えて近くの民家の敷地に飛び込むとセイショウがそのあとに続いた。


「おい、大丈夫かキッカ!? あいつらなんでいきなり攻撃してきた?」

「それが、わかれば、こんなことにはならないんです!」


 腕に当たった一発はキッカの利き手に当たり、右の手の甲が大きく腫れている。

 ゆっくり怪我の具合を見ることもできず、一般兵が追ってくる前に逃げなくてはならない。

 二人から心配して声をかけられたが苦しい作り笑いをして急いで移動する。


「わかっているのは一般兵は私たちを、いやルリ様の命を狙っている。目的は、もてない男の醜い嫉妬」

「なんだそりゃ。どうすんだ、後ろからは生体兵器、正面は攻撃してくる一般兵。まだ逃げるのか? 俺はそんなに体力ないぞ」


 ぜーぜー言っているカイセイを見てそうでしょうねと軽く言葉を返す、左手でルリと手をつなぎ痛む足を引きずって建物に向かって走り出す。

 狙われているのはルリであって、呼んでもいないのに待ち伏せしていたカイセイは、正直放っておいてもいいと考えていた。


 壊れた扉から半壊した屋敷の中に入り込む、大きな音がして振り返るとキッカたちが逃げ込んだ敷地の塀を派手に壊して装甲車が後ろ向きに入ってきた、そして後部のドアが開きゴム弾銃を持った一般兵たちが出てくる。


「早くしないと他の一般兵も集まってきて屋敷が囲まれる。でも大丈夫ですよルリ様、何とかして見せますから」

「大丈夫かキッカ、目焦点があってないぞ。落ち着いて水でも……っち、あの時置いてきて手元に無いのか」


 追い詰められたキッカたちの反撃が怖いのか一般兵たちは隠れた屋敷を囲んでそれきり行動には移さない。

 二階の窓からその様子を確認するとルリとカイセイが休んでいる部屋に戻る。

 この屋敷は陶器のコレクターの家だったらしく、埃をかぶった壺や大きな皿、得体のしれない焼き物が部屋や廊下に飾られていた。


「装甲車でここに突撃されたらどうしようもないぞ、キッカ。この建物ごと潰されちまう」

「わかってます、何とかして一般兵の気を他に散らして逃げる隙を作らないと」


 さらにもう二台装甲車が敷地の中へと入ってきた、それなりに広かった屋敷の周りは一般兵で固められた。

 だが考えるは与えてもらえないようで、捜索が始まったのか下の階で物が壊れる音が聞こえ始めた。


「こうなったら、もうぶつけるしかない。それしかない」


 そういうとキッカは近くにあった幼児ほどの大きさのある壺を掴んで窓へと向かった。


「ぶつけるって何をだ? 一般兵を一人一人やっつけるのか? いくらお前が対人戦闘の訓練を受けたからってあの数は無理だろう、俺が囮になるからそのすきにルリ坊を担いで逃げろ」


 そして大きく振りかぶるとその壺を装甲車に向かって思いっきり投げつけた。


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