集まりすれ違う 1
レイラがすさまじい反射速度で転がるように逃げ、キッカはトランクを捨て急いでルリの服の襟をつかんで引き寄せると塀の後ろに隠れた。
ミチルとカイセイも来た道を戻りエクエリを構え生体兵器の様子を見る。
「おいおい防壁の中だってのになんでこんなところに生体兵器がいるんだ? 防壁をよじ登る理由なんかないだろ、食べ物もないのに」
「知らないですよ、私も昨日戦って一緒にいるだけなんですから。後ろに聞いてください、あと電源がはいってませんよエクエリ」
カイセイとミチルは落ち着き冷静に相手を分析する。
生体兵器は装甲車の装甲を剥がすのに夢中なようで、堂々と姿をさらしてしまったキッカたちに気が付かないで夢中になって金属の装甲を引き剥がしていく。
「気が付かなかったみたいですね。助かった、すみませんルリ様、首大丈夫ですか」
「車が! さっき別の方向に行ったのに、戻ってきたのかな別の?」
襟を強く引いたルリの首元を心配するキッカの横でレイラがつぶやく。
「たぶんさっきのと一緒、昨日の戦闘で削れたと思う鱗の位置が同じに見えるし」
「あれが、報告に上がっていた生体兵器なのか。普通にデカいな、腰抜かすかと思った。久々の外は驚くことが多いな」
人の力ではどうすることもできない金属の装甲をバキバキと剥がす生体兵器を見てごくりとのどを鳴らすカイセイ。
「あの中には誰が?」
「誰もいない、お前たちが腹すかしてると思って多めに食料を持ってきたからそれに食いついてんだろ」
カイセイはやれやれといった様子で語るがキッカはそれに目を丸くする。
彼はグレンシェルターの最高責任者なのだ。
「おひとりでここまだ来たんですか! 一人での行動は危険だといつも……」
「こっちには人を雇う金がねぇんだ」
声を潜めて喧嘩腰になった二人を無言でルリが止める。
とりあえず、生体兵器に気づかれる前に逃げ出そうとゆっくりと後ろの下がった。
車が無くなった以上ここにいる理由もないので生体兵器に見つかる前に移動しようとなりどう逃げるか確認する。
ここに詳しいのはカイセイとうろ覚えな土地勘ののキッカだけ。
地面に地図を書くカイセイとキッカを見ていたミチルが、どこからか聞こえる音に首を上げた。
「エンジンの音? 車?」
すると反対側の建物の影から一台のジープが出てきた。
「いたぞ! スイレン家の子供だ、早くこちらへ!」
助手席に乗っていた一般兵が叫ぶと大きな声を出すなと舌打ちをするミチル。
手招きする一般兵を味方かわからずどうするか顔を見合わせると、少しも迷わず一人が走り出す。
「来た、迎えだ!」
そういって走り出したのはレイラ。
エクエリの入っていた旅行用カバンを捨て振り返らずまっすぐ走り出した。
「昨日のこと忘れたの!? 無警戒で走ると危ないよレイラ!」
ミチルとカイセイはよくわかっておらず不思議そうな顔をしたが、レイラを追いかけその場にいた全員を置いてジープへと走り出した。
しかし、キッカが怪しんだ通りその一般兵たちはおかしかった。
こっちだと呼んでおきながらゴム弾銃を構える、誰もがレイラが狙われたと思った。
しかし一般兵はゴム弾銃を構えるとそれをルリにむけて発射した。
咄嗟にかばうように出てきたセイショウに突き飛ばされルリはキッカにぶつかった、
そして背中に弾を直撃したセイショウはその威力で吹き飛び転ぶ。
ゴム弾から発射されたものはゴム弾ではなく背中が服の上から真っ赤に染まる。
「大丈夫ですかルリ様? よくやりましたセイショウ」
「大丈夫かルリ坊?」
ゴム弾銃を下ろすと大きな音のする警笛を吹き、ジープはレイラを乗せるとさっさと行ってしまった。
「レイラだけ逃げちゃった……え、なんでルリ様は狙われたの?」
カイセイとキッカはジープの走り去っていった方を見ていたが、ルリは倒れたセイショウを起こす。
「……大丈夫?」
「いたい……」
状況に追い付けず顔を見合わせ皆の頭に疑問符が浮かぶ。
彼女の背中についたペイント弾は独特のにおいに鉄臭いにおいがした。
「なんでしょうこれ?」
「ペイント弾だな、対人用のゴム弾の演習用のやつや逃走車両にぶつけるやつだ」
「ペイント弾?」
「しかも……これ普通のじゃないな。たぶんこれ、よく香るなんかの血液が混ぜてあるぞ。昔、生体兵器の気を引くために家畜とかの血を混ぜて作ったやつに似ている」
痛む背中を気にするセイショウについた、ペイント弾の臭いをかいでカイセイが顔をしかめた。
「ルリ様とりあえず服を脱いでください。血がついてたら狙われてしまう」
しかしペイント弾のべったりとついた服を脱がす前に塀の後ろから足音が聞こえる。
ジープがいなくなり笛の音で生体兵器がどうなったか気になって、様子を見に塀のほうへと戻ったミチルが駆け足で戻ってきた。
「やばい、さっきの音で生体兵器がこっち来た!」
荷物を捨ててきて両手の空いたキッカはルリを抱き上げ走り出した。
先までいた場所に生体兵器の顔が伸びる。
体中に無数の棘の生えた大きなトカゲはキッカたちの後ろ姿を確認すると、見た目より高い声を一声上げ彼女たちを追いかけ始めた、臭いの目印を追いかけて。
軽く自動車ほどの速度が出る生体兵器から見通しのいい直線で逃げ切れるはずもなくその距離はあっという間に詰められる。
「逃げきれない! キッカ全力で走って」
震える声でそういって行動に出たのはミチル。
民間人それもシェルターに重要な高層の人間を逃がそうと覚悟を決め、震える足で立ち止まりエクエリを撃つ。
カイセイも加勢しようと足を止めたが、分が悪いと勝てない戦いに参加することをやめ、一人で戦おうとする少女のことを見たが目を伏せてキッカの後を追いかける。
彼女のおかげでルリたちは逃げ切ることができた。
目などの急所を狙いエクエリを撃つが震える手は狙った場所へと弾を飛ばさない。
それがさらに焦りを生みミチルの攻撃は次第に当たらなくなっていく。
血の匂いの追跡を諦め鱗を削る存在をうっとうしく思いオオトカゲはその目でミチルを捕らえた。
側面に回り込もうとする彼女を首を回し追いかけその口を開いた。
「だめ、やっぱり。ひとりじゃとめられない」
視界がゆがみ金切り声を上げる。
建物の屋根から一人の男が飛び出した。
白髪で背中にフクラ家の家紋が入った燕尾服の男性。
着地と同時に地面から砂をつかみ取りそれを生体兵器に向かって投げる、砂話途中で散り小石は生体兵器の目に当たる。
一瞬のスキをついて彼女を連れて生体兵器の尻尾のほうへと逃げた。
「……全く遠くから様子を見ているだけでしたのに」
「あなたは?」
「私はフクラ家につかえる、ツララ様の護衛の元精鋭です。私のことはお気になさらず」
白髪の老人は生体兵器を見て嬉しそうに頬をゆがませるとミチルを肩に担いで建物の影へと走り出す。
白馬の王子様ならず白髪のおじい様